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最強ネクロマンサー、ゴブリンを救う(1)

「ちっ、さっきの女は失敗だったな。大して器量もねぇし、あれじゃ高く売れやしねぇ。これじゃノルマに足りてねぇからまた次のターゲットを探さねぇとな」


クモが怒っている。俺たちを支配し、利用することで名声をあげた最悪の男。こいつのせいで、俺たちゴブリンは王国でもっとも忌み嫌われているモンスターとなってしまった。


「また、女を襲うのか…?」


もううんざりだ…。何故こんなことを続けなければいけないののか。弱い女子供を狙って捕まえて奴隷として売るなんて最低の行為だ。


「そうだ、しっかり働けよ?」


「女子供だけを狙って襲うなど卑劣きわまりない行為…必ず天罰がくだるぞ。死者に敬意も払わぬ悪のネクロマンサーめ…」


「ま~たその話か?何度言わせる気だ。死者に敬意だの、天罰だの。いいか、死者をよみがえらせてこき使う冒涜者、それがネクロマンサーってもんよ。善良なネクロマンサーなんぞいるものか。そんな奴がいたらお目にかかってみたいね!」


「…くっ」


「なにを睨んでやがる。恨むなら自分たちの醜い見た目を恨むんだな。お前らみたいな見た目で温厚で優しいなんて、だれが信じてくれる?誰も信じねぇのさ。まぁ、どちらにせよお前らモンスターは狩られるだけだ。実際狩られて死体になったのを俺が有効利用してやってるんだ。ありがたく思うんだな。お前らだって女をいたぶるのを楽しめて、役得だろう?」


「…俺たちゴブリンは女をいたぶって楽しむような趣味はないぞ」


「くははっ!無駄にプライドがたけぇなお前らゴブリンは…!エルフにでもなったつもりか?この醜い化け物が!!生意気なんだよ!」


クモが俺を殴り飛ばした。


「ぐっ!」


「ゴブオさん!こいつ…!」


「いいんだ!やめろ!」


仲間のゴブリン達がクモにくってかかろうとするのを止める。クモの機嫌を損ねて、こいつらまで痛めつけられるところは見たくない。


「ちっ、本当に生意気な奴らだ。いいかぁ!?お前らはもう俺のアンデッドなんだよ!この俺に灰になるまで利用される運命なのさ。…さぁて、俺はちょっと、その辺を探索して、新しいターゲットを探してくる。お前らは見つからないようにここに隠れておけ!」


クモが去って行く。


「ゴブオさん…大丈夫?」


「あの野郎!ゴブオさんを蹴りやがって…!許せねぇ!」


俺を心配してみんなが駆け寄ってきた。


「大丈夫だ…気にするな」


「ちくしょう…あのネクロマンサーめ…こんな事いつまで続くんだ…はぁ…誰か俺達を解放してくれねぇかな…」


「そういえば、あの噂を聞いたか?冒険者が話してるのを聞いたんだが、最近、魔王軍に新しい幹部ができたらしい。しかもそれが凄腕のネクロマンサーなんだってよ…その方ならもしかしたら俺たちを助けてくれるかもな」


「そうだな…そうなるといいな」


俺はみんなにあわせてそう返事をした。そんな事が起きないことを知っていた。何しろネクロマンサーが他のネクロマンサーの使役するアンデッドの支配権を奪うのは両者に相当な実力差がないかぎりできないと聞いたことがある。


あのクモはネクロマンサーとしてかなりの凄腕だ。元々Bランク冒険者程度にしか勝てなかった俺だが、あいつ使役されている事で、Aランク冒険者程度とわたりあえる程度の力になっている。


それだけ力のあるネクロマンサーから支配権を奪うことができる奴なんているはずがないんだから。


◇◆◇


「さぁて…今日も何か仕事ないかな?」


「シオン様は本当に仕事熱心ですね」


「そんなことないよ。普通だよ」


僕はカイルさんと共に、ギルドで何か引き受ける仕事を探していた。とはいえ…魔王軍は基本的に仕事熱心な人が多いのか、ギルドボードにはそれほど仕事はないようだった。ちょっとした雑用のような仕事はあったので、それを受けてみようかとカイルさんに言ったら「シオン様の仕事を選ばない姿勢は素晴らしいですが、魔王軍幹部としてある程度受ける仕事を選ばないとなめられてしまいますよ」と止められてしまった。


さて、どうするのか頭を悩ませていると。


「あらら!シオン様!今日も可愛いくてかっこいいね~、私とデートにいかない?」


ギルドの受付嬢のデイジーさんがいつものように笑顔で話しかけてきた。


「あはは…そんなからかわないでくださいよ」


「からかってなんかないよ~、シオン様ってほんとう可愛くて…みんなの役に立とうってギルドで熱心に仕事を探してるところはかっこういいってすごく評判いいんだよ~だからデートして~」


「デイジーさんずるいですよ!抜け駆けはだめなんでしょ!真面目に仕事してください!」


「あら~やだよ~引っ張んないでよ~」


デイジーさんが他の受付嬢のエルフのお姉さんに引っ張られていく。そのお姉さんも離れ際「私もシオン様に誘われるのをいつでも待ってます」ささやくようにいった。


「シオン様は大人気ですな…デイジーはともかくとして、さっきの受付嬢はこのシオン様が救った村のエルフですね。そういえば、知ってますかシオン様。この間シオン様が救ったエルフ達がいろんな所に勤めているのですが、そこでこの間のシオン様の活躍を話しているようで、シオン様の評判が凄く良くなってるんですよ。この調子なら民の間でもシオン様が幹部として認められていくのは時間の問題ですよ」


「なんだか恥ずかしいな…」


「あのぉーすいません。少しいいでしょうか…」


「はい?」


声をかけられたので、相手を見てみるとゴブリンの青年だった。


「初めまして、シオン様…俺は魔王軍で兵士として務めてるゴブノスケと申します。シオン様に引き受けていただきたい依頼があるのですが…いいでしょうか」


ゴブリンの青年…あらためゴブノスケさんは遠慮がちに聞いてきた。


「僕にできそうなら引き受けますよ。ちょうど仕事を探していたので」


僕がそう言うと、ゴブノスケさんは深く頭を下げた。


「…シオン様ありがとうございます。てっきり、断られると思っていました。シオン様は魔王軍の幹部なですし、ヒラの兵士の俺の願いをこんなに優しく暖かく受け入れてくれるなんて…カイルさんが貴方の部下になりたがっていたわけだ…」


「そうだろう!シオン様は最高の幹部なのだ。シオン様ならどんな依頼も簡単にこなしてみせるぞ!」


カイルさんが嬉しそうに言った。


「依頼を引き受けたぐらいで褒めすぎですよ…全力は尽くしますけどね…で、依頼ってなんなんですか?」


「…シオン様も知ってますよね?俺達ゴブリンが王国でどんなモンスターとされているのか」


「え~と、失礼な話になっちゃうんだけど…女の人をおそって乱暴するモンスターなのかなって思ってたよ。今は違うってわかってるよ。たまにゴブリンの人と会うけど、みんなゴブノスケさんみたいに礼儀正しくて、そんな事するように見えない」


「でも王国だとなぜかゴブリンが女子供をおそう醜悪で野蛮なモンスターになってるんです。おかしいんですよ。ゴブリンはもともとエルフに近しい森の精霊の種族。確かに見た目は人族の価値観では醜く見えますが、本来俺たちゴブリンは温厚な奴が多くて…けして女子供だけを狙って襲うようなことをするはずがないんですよ」


「…僕も実際にゴブリンが女の人を襲ったっていう話は聞いたことがあるからなぁ。王国のゴブリン達には何か女の人を襲わなきゃいけない特別な事情でもあるのかな?」


「はい…だから俺も何か理由があるとは思ってたんですけど…それがわかったかもしれないんです。この間、冒険者に襲われたときに、仲間と協力してなんとか撃退したんですが、そいつらが王国で出回ってるゴブリンの手配書持ってたんです。どうも、俺をそのゴブリンと勘違いして襲ってきたみたいで。それで、その手配書をを見てなんとなく違和感があって…よくよく見てみると、その手配書のゴブリンは知ってる奴だったんです」


「ゴブノスケさんの知ってるゴブリンだったんだ」


「はい…そいつは俺の王国の国境近くにある故郷の村のゴブオって奴で…。でも、あいつは俺と一緒に魔王軍に士官するために旅の途中で冒険者に襲われて殺されたから…もう死んでるはずなんです」


「それじゃ…人違いってわけじゃないなら…蘇ったってことになるね」


「そうですおそらく王国のゴブリン達は悪いネクロマンサーにアンデッドとして使役されて無理矢理悪事をやらされてるんじゃないかと」


「なんてことだ…そんなの許されることじゃないぞ。神聖なネクロマンサーの職業を悪用しているなんて許せない!」


「…悪いネクロマンサーか…」


 それにしても、ここだとネクロマンサーのイメージほんとに良いんだなぁ。これが、王国なら、ネクロマンサーなんて、悪事を働いてて当然みたいな目で見られてたのに。


「お願いしますシオン様…!俺と一緒にそのネクロマンサーを探してくれませんか?」


「うん…わかった。その依頼引き受けるよ」


「ありがとうございます!!」


もしもそれが本当の話なら、 同じネクロマンサーとして放っておく訳にはいかないよな。


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