Sランクパーティーの崩壊(3)【クロス視点】★
俺様達はレミリアの叔父の屋敷についた。
「初めまして、勇者クロス殿。レミリアの叔父のボイルです。姪のレミリアがお世話になっております」
レミリアの叔父が軽く頭を下げた。
「あぁ、世話してやってるぜ」
「…なんだこいつは…失礼な男だな」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、なんでもありません。さて、この町一番の治癒師で聖騎士でもあるカイン殿にきていただきました」
「初めまして、治癒師のカインです」
そういって、現れたのは銀髪の端正な顔をした男だった。ちっ、綺麗な顔してるから、いい女かと思ったが名前がカインってことは男かよ。治療してくれるなら、美人の女がいんだがな。まぁ、この呪いがとけるならなんでもいいぜ。
「…魔王の幹部に呪いをかけられたと聞きましたが、具体的にどういった影響があるのか教えてもらってもいいですか? 見たところ、顔がパンパンに膨れ上がったような不細工な顔ですが…それも呪いなのでしょうか?」
不細工な顔だと…? 一体誰のことを言ってるんだ? まぁいいか。
「あぁ、自然治癒の加護の効果がなくなって怪我が治らなくなったのと、あととにかく気分が悪いいな…それに顔もどんどん青白くなってみてぇだし、体臭がとれねぇんだよ。まったく魔王の幹部ってのはくずだぜ。俺様にこんなやっかいな呪いをかけやがって」
「…加護ですか。見せてもらってもよろしいですか?」
「何をだ?」
「神から与えられた加護なら、必ず体のどこかに紋章があるはずです」
「…そんなのねぇぞ?」
「なら、あなた方に加護はないということですね…ボイルさん、もう茶番はいいでしょう。これ以上確かめる必要はない、こいつらがアンデッドなのは明らかだ」
「あ?」
「やはり、そうですか…残念です。ですが、私の姪だけは今だけは見逃していただきたい。彼女の両親…私の姉に会わせて事情を説明しなければ…」
「仕方ありませんね。ボイルさんにはお世話になっていますから」
「あ、ありがとうございますカイン殿。他の二人のアンデッドはカイン殿にお任せしますので」
「叔父さん??? 何をいっているのですか?」
「レミリア…君は下がっていなさい」
「な、なにをわけのわからないことを言ってやがる…なんだよ、てめぇらまでモンスターなのか?」
「…クロス、もしかして…私たちもう死んでるのかも…」
「はぁ!? そんなわけねぇだろ! アホかドロシー!」
「アホじゃないし! ここまでみんなからアンデッドアンデッド言われたら、さすがにそろそろ私たちの方が間違ってたんじゃないかって思うじゃん!」
なんて、浅はかな女だ。誰が何と言おうが俺様がアンデッドになってるわけがない。俺様が生きていることは俺様が一番わかってるんだよ。
「どうやら、貴様達は自覚のないアンデッドだったようだな。普通の死者が自然にアンデッド化した場合ではお前たちのような姿にはならない。相当腕利きのネクロマンサーがお前たちをアンデッドとして蘇らせたはずだ…心当たりはあるか? そいつは放っておけない存在だ。情報をよこすなら、この場だけは見逃してやる。どうせ、貴様ら程度の下級アンデッドなどいずれどこかの誰かに討伐されるだろうからな。この私が手を下すまでもない」
「はぁ…腕利きのネクロマンサーだと? そんな奴、知らねぇよ!!」
俺が知ってるのは無能で役立たずなネクロマンサーのシオンだけだ。
「…ネクロマンサー?」
ドロシーが何か考え込んでいる。何か心当たりでもあるのか? 俺様にはまったくない。
「そうか…ならばここで浄化してやろう」
「ちょっと待って!! 私わかるかも! きっとシオンだよ!」
「あぁん? なにを言ってんだドロシー、あの無能のシオンが俺たちを蘇らせたなんてそんな訳がねぇだろ。あいつがアンデッドにできるのはせいぜい小鳥ぐらいだぜ」
「私もそう思ってたよ…でも、私たちが知ってるネクロマンサーって言ったらシオンだけだよ。だから私たちをよみがえらせたのはあいつしかいないよ!」
ドロシー、こいつ追い詰められすぎて、頭がおかしくなったのか? あの無能シオンが俺様ほどの英雄をアンデッドとして使役できるわけがないだろうに。
「なるほどな。とりあえずそのシオンというネクロマンサーを捜すとするか。仲間に引き込めれば…かなりの戦力になるだろう。そこの魔法使いの女は約束通り見逃してやろう」
「やった!」
ドロシーがガッツポーズをしている。
「では、そこの男は浄化することにするぞ。最後に言い残す言葉はあるか?」
「てめぇ、どんだけ調子に乗ってるんだ? 俺様に勝てるつもりか? 俺様はSランク冒険者! 勇者のクロス様だ! 勇者なんだぞ!?」
「勇者などという虚飾だけで大した実力がないクラスを自慢げに語るな…あんなクラスが強いのは演劇だけだ。そもそも、私もSランク冒険者は何人か知っているが、それほどの実力をもっているなら一目見ればわかる。お前はせいぜいCランク冒険者がせいぜいだな。才能のかけらすらも感じられない」
「殺す!残りの力を振り絞って、俺様の最強必殺技を出してやるよ。俺様を怒らせたことを後悔しろ! 」
「御託はいいから、さっさとかかってこい。雑魚が粋がってるのをみるのは痛々しくて見ていられない」
「クロス…スラッシュ!!」
ドゴォン!という音を立てて、あのくそったれな聖騎士がいた場所に俺様の剣が炸裂する。俺様の剣の威力がすごすぎて、鎧すら簡単に両断しちまったのかな? 剣にまったく人を斬った感触がねぇぜ。
「あくびがでるような遅さの斬撃だな…それでSランクだと? 笑わせるな」
「あぁん!? …お、お前俺様の必殺技を避けたのか…? ありえねぇ!!」
「もういい加減、終わらせてやろう。それにしても…お前がもしもその程度の実力でSランクになれていたとしたら、よほど優れたネクロマンサーだったのだろうな。そんな主に見捨てられ、ここで私に出会い、浄化される…お前は哀れな男だな」
「お、俺様が哀れ…?」
俺様が哀れだとぉ!!
「すまんな…大人しく消えてくれ」
「いやだ、死にたくねぇ…死にたくねぇよ!!」
「うわ…クロス、泣きながら床にはいつくばってるじゃん。ださい…それにくらべてあのカインって聖騎士めっちゃイケメンだなぁ…」
「…クロス、見損ないました。かっこわるいです」
ドロシーとレミリアが俺を侮蔑した目でそう言った。
「うるせぇ!! 勝手なこと言ってんじゃねぇ! お前らが役立たずじゃなければ、こんなことにならなかったんだぁ!!」
「…せめて最後は大人しく浄化されてくれ。みっともないぞ」
「た、頼む俺様も見逃してくれ、なんでもする…なんでもするから」
「…アンデッドの命乞いを聞く聖騎士がいると思うか?」
「いいじゃないですか。なんでもしてくれるっていうならこの男も見逃してあげましょうよ」
そう言って、俺様とカインに間に割って入るように突然現れたのはきらきらと輝く銀髪の美少女。妖艶な笑みを浮かべたその顔は、俺様のタイプのはずなのに、なぜだか、寒気がする。
「聖女様、ここは私にお任せしていただけるはずでは」
「だって…せっかくこんな面白そうなおもちゃがあるのに、あなたがあっさり消しちゃおうとしてるんだもん。ねぇ、勇者君」
「え…?」
「安心して、ここは私があなたを助けてあげるから。君にはこれから私を楽しませるためにたくさん頑張ってもらうね? 」
「あぁ、助かる…!」
目の前の聖女とよばれた女が俺様の頭をかかとで踏みつけた。
「あぅ…」
「助かるじゃないでしょ。ありがとうございますでしょ? お礼もちゃんといえないおもちゃは私いらないな」
「あ、ありがとうございます」
「おぉ~素直ないい子だ。なでなでしてあげたくなっちゃう。そんなに臭くて醜悪な見た目じゃなかったらな~あなたをふみつけたこの靴もあとで綺麗にしないとね…まったく、おもちゃなのに迷惑かけるなんて…はぁ~…謝罪がないな~」
「すいません…」
ここで謝っておかないとまた踏まれそうだ。この女のいいなりになるのは屈辱だが、ここはなんとか生き延びるんだ。なんたって。
「運命っていうのはとにかく生きることでしか切り開けないんだからな!」
「いや、お前はアンデッドだぞ。まさか…まだ理解できてないのか? どれだけ馬鹿なんだ…?」
「それはお前の勘違いだ! 俺様は生きてる。仮にアンデッドに見えてるとしてもそれは魔王軍の幹部の呪いのせいだ! お前の目は節穴だ!」
「…はぁ、どこまでも馬鹿な男だ。言っておくが、この場で私に浄化されておいた方が百倍ましだったと後悔することになるぞ。聖女様も悪趣味ですよ…こんな雑魚の道化を飼ってどうしようというのです」
俺様が雑魚…? 道化?
「何よ~カイン、それじゃ私が悪魔みたいじゃないの~おもちゃは消すよりどうせなら遊んでから壊したいだけよ…」
聖女のくすくすという笑い声が俺様の耳に妙に響いた。
…これから俺様どうなるんだ。
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