最強ネクロマンサー、魔王様を驚愕させる【アンリ視点】
「そろそろシオン殿が私に相談してくるころじゃろぉ…」
シオン殿は確かに優れたネクロマンサーだ。おそらく潜在能力は私より上かもしれないのじゃ。しかし、いくらシオン殿でも、レイン様を復活させることはできないじゃろぉ。
私はあえて失敗することを承知でレイン様の遺体をシオン殿に託したのじゃ。
それはシオン殿に、目標を持ってほしかったからなのじゃ。レイン様という不可能とも言えるほどネクロマンスの難しい存在を見せることで 、シオン殿のネクロマンサーとしての才能がきっと伸びるのじゃ。我ながらなんという名采配じゃろう。
それよりなにより、困ったシオン殿はきっと私の元に相談しに来て、ネクロマンサートークに花が咲くに違いないのじゃ。
私と肩を並べる程のネクロマンサーとのネクロマンストーク…。楽しみなのじゃ。何を話そうか、…やっぱりネクロマンサーとしての一番大事な、死者への想いについて深いトークをしたいのぉ。
そんなことを私が思っているところに、黒騎士が血相を変えて飛び込んできたのじゃ。この様子、まさかシオン殿に何かあったのではないじゃろうか。不安じゃ。
「魔王様!! シオン殿がレイン様の復活に成功しました!!」
「…は?」
おそらく何かの聞き間違いじゃろう。いくらなんでも、レイン様の復活に成功するわけがない。レイン様を復活させるには、膨大な魔力が必要になるはず。例えば、この私がするとするなら、この魔王軍の幹部クラスの人材をまとめて生贄にしたりなんていう、とんでもない禁術を用いて、やっとできるかどうかといったところなのじゃ。
それをまさか、この短い時間で、あっさり復活させるなんてことがあるわけがないのじゃ。そんなことがもしできたとしたら、シオン殿の魔力は、もはや神話の域に近い偉業である。女神が自分を守るために命を失った竜人の王を蘇らせたという逸話があるが、それと似たようなことをいくらなんでも人の身でできるわけがないのじゃ。
「すまぬ、どうも聞き間違いをしたようじゃ。もう一度はっきり言ってくれなのじゃ」
「シオン殿が! レイン様を! 復活させました!」
「えー…?」
どうやら、聞き間違いではなかったようじゃ。それにしても、どうやって…? もしかしてもともと冒険者だったときのコネでも生かして、人間のSランク冒険者を百人ぐらい生贄にしたのじゃ…? いやいくらなんでも、こんな短時間でそんなにSランク冒険者が集まるわけがないのじゃ。いやいや、シオン殿がそんな非道な事をするわけがない。
「ちなみに、どうやってやったのじゃ? 何か大掛かりの儀式でもしたのじゃ?」
「魔力をそそいだといっていました。特にそれ以外は…」
「…」
嘘じゃろー!!?? それって低級アンデッドを生み出す時の手法で、ちょっとランクの高いアンデッドに使えないはずじゃろ…。いくらなんでも規格外すぎじゃ…。そんな気軽に英雄が復活させられるなら、遺体さえそろえば、すぐに世界のだれもかなわぬ歴史上最強の英雄軍団が作れてしまうじゃろうが…。
そんなことができるなら、なんで私の部下になるのじゃ!!
黒騎士「魔王様どうしました? まるで驚きのあまり声も出ないように見えますが」
黒騎士が私の心情を見事についてきた。うむ、確かに本当に驚いた時って声もでないものなのじゃな。
それもこれも、シオン殿があまりにも規格外すぎるからじゃ。しかし、レイン様が復活したとなると、とても喜ばしいことではあるが、やはり偉大すぎるが故の弊害もあるのじゃ。
例えば、竜人達が何を言ってくるかわからぬ。レイン様本人は死後は自分を復活できる者がいるなら、復活させよ。また、虐げられる者の為に戦うという遺書を残していたので、復活自体は本人の希望ではあるのじゃ。それに関しては竜人達も承知の上じゃろう。
しかし、実際に復活させたのが魔王の私ならともかく、人間のシオン殿であり、竜人は人間を強欲で醜悪なものだと見下している者が多いのじゃ。そんな人間に、竜人の英雄として今でも一族でも尊敬されているというレイン様が使役されるというのは、おそらく反発してくるじゃろう。
一旦、復活の事は内緒すればどうじゃろう…? うむ、その間に竜人と内密に交渉して、なんとかシオン殿の人柄を知ってもらえれば、時間はかかるかもしれんが、きっとうまくいくはずなのじゃ。
「「「うわぁ!! あの竜の姿は!! まさか、伝説の英雄レイン様の竜化したお姿だぁ!! 今夜は祭りだぁ!!! レイン様の復活祭だぁ!!」」」
地鳴りのような絶叫が、城下街から聞こえてくる。レイン様、久しぶりに復活して空を飛びたくなっちゃったのじゃろうか…。
これもう絶対内緒にできないパターンなのじゃ…。
レイン様の復活が民衆に知られたとなれば、もはやお祝いをせぬわけにはいかない。
こうなれば、やけくそじゃ! めちゃくちゃ盛大な宴を開くのじゃ。あとはそうじゃな…心配なのは。
万が一、レイン様とシオン殿の関係がうまくいかないことじゃ、これは相当に困る。
ネクロマンサーなら使役しているアンデッドを強制的に従わせることもできるのじゃが。そんなことが許されるのは邪悪な王国での話。我ら魔王軍では、蘇ったアンデッド自身が自らの意思で従いたいと思った主のみに仕える権利を法律で保障しているのじゃ。
とはいえ、シオン殿は規格外の実力者。法というのは破った者に罰を与えることができる事があって初めてそれに従わせることができるものじゃ。
もしもシオン殿が無理矢理、レイン様を使役したとしても、正直私達では止めることはできないのじゃ。止めようとしたとしても、レイン様本人が牙をむくことになるのじゃから。
そんな事になれば泥沼じゃ。
「黒騎士よ、レイン様とシオン殿の関係はうまくいきそうじゃったか?」
むろん、シオン殿が優しく素直な人間だと言うことはわかっているので、良好な関係を築けるとは思うのじゃが、それでもシオン殿は人間。この部分がどう働くのかわからない。人間に対する憎しみは大なり小なり、我ら亜人は持っている。竜人であるレイン様にもあるだろう。
「それはもう…! レイン様もシオン殿を気に入った様子でした」
「なんと…さすがシオン殿…」
それなら、一安心なのじゃ。あとは、なんとか竜人達と穏便に事をすませるようにするのが、魔王としての私の腕の見せ所じゃな。そこさえ乗り越えれば、シオン殿という最強のネクロマンサーが味方についてくれたのじゃから、今後は安泰じゃ! それこそ邪神でもこないかぎりは。
「まぁ、さすがにそんなことは起きることはないじゃろう…」
邪神を復活させることなど誰にもできるわけがないのじゃ。それこそシオン殿でも、無理じゃろうな。いや、シオン殿なら一国の人間を全て犠牲にすればあるいは…。まぁ、そんなことをあの純朴なシオン殿がするわけがないから、杞憂じゃろうな。
「くはは…」
しかしここまで常識外れだと笑うしかないのじゃ。
「魔王様…レイン様の復活がそんなに嬉しいのですね。これはシオン殿に伝えてあげなくては」
「そうしてくれ、黒騎士よ。あと…くれぐれもシオン殿が人間達に再び味方することがないように気をつけてほしいのじゃ…! あらゆる条件をアップしていいからのぉ、そうじゃな。まずは月給500万エンという話じゃったが、10倍の5000万エンにしておくのじゃ。あと休みも完全週休四日制…労働時間も本人の自由に…」
「それはもはや魔王軍最高幹部…四天王以上の待遇ですね!」
「そういうことになるのぉ…しかしシオン殿が加わるとなると五天王という事になるか…少し響きが悪い気がするから何か他の称号も考えたほうがいいかもしれないのじゃ」
魔王軍の最高幹部、四天王。魔界の最高戦力達、一癖も二癖もある化け物揃いじゃが、自由すぎるのが欠点なのじゃ。
まぁ、あの者達ですら、シオン殿に比べればかわいいものかもしれぬ。一番かわいいのはシオン殿じゃがな。
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