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03 『商』から見た冒険者ギルド⇒それは私たちのことですね?


 次、『商』、それも小さな店ではなく、交易を行う比較的大規模な商人たちの視点で見てみよう。


 やはり結論から言おう。

 やはり冒険者ギルドなんぞ不用だ。



 商人ギルドと冒険者ギルド。

 このふたつが登場した場合、大抵は仲がよくないという書き方がされている作品が多いように思う。

 本来ならば職人ギルドもここに噛むはずだが、あまり追求されていない様子なので、ここでは割愛する。


 仲が悪いのは当然だ。

 冒険者ギルドは、冒険者たちが持ち込んだ物品の買取を行っている。

 売買取引という意味では、商業ギルドの領分になるだろう。それが侵されているのだから、本質的に仲良くできる相手ではない。

 共存できる相手か、かなり怪しい。冒険者ギルドが買い取った素材などは、商人ギルドの管轄内に卸されるだろうから、中間搾取している業者という意識が強いだろう。


 じゃあ、ギルドの末端たる冒険者と商人ならば?

 仲が悪いかは個人間の問題なのでなんとも言えないが、やはりお互いの領分を侵すことになる。



 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○



 どんな商品を扱っていても、ちゃんと店を構える商人でも行商人でも、中世ヨーロッパ風異世界では、都市の外へ移動する時、護衛として冒険者を雇うのが鉄則らしい。


 ありえないから。


 前述したように、冒険者ギルドが発行する身分証明書など、紹介書以上の役割はない。雇うとしても、身元も人柄も実績も確かな人物を選ぶ。その他の大多数、身元も不確かな武装した連中を雇うわけはない。


 これも前述したが、ギルドカード一枚にどれほどの信頼性がある?

 信頼性があるなら、なんらかの方法でカード持っていれば、犯罪者でも信用されることになる。

 仮に賞罰を確認できて、犯罪者ではないと知ることができても、今後も犯罪者にならない保障はあるか?

 大量の物と金が側にあるのだから、間がさして、あるいは計画的に、奪い取られる可能性は考えないのか?


 大体だ。

 輸送の時に護衛を雇う、というのは、どういう理屈だ?

 元々護衛はいたけれど欠員が出たため、補充のために新たに雇うというのなら、まだわからない話でもない。

 だが普段は護衛がゼロ、街の外に出る時にだけ必要と思ってるのなら、おめでたい。

 山賊や魔物の脅威から逃げて街に入れば、強盗が押し入る心配はないとでも? 屋外なら全て丸ごと移動できる状態であるから、そのままでも逃げられる可能性があり、あるいはなにかを諦めれば他は助かることも充分ありえる。しかし街に入って荷降ろししてしまえば、物も金も命も全部持っていかれるかもしれないのだが?


 この程度も思いつかない危機管理能力なら、とても商人の世界で生きていけるとは思えない。命が安く、死が身近な中世ファンタジー風異世界ならば、尚のこと。



 ならばどう対応するか?

 資金力がある大きな商人ならば、為政者と同じ対応を考えるだろう。

 衣食住の世話をすることで、優秀で信頼できる人物の抱え込みを図る。

 冒険者などという先行き不明のヤクザな商売を辞めさせて、護衛や用心棒として雇おうとする。


 そこに冒険者ギルドという仲介業者が介入する余地はない。

 というか、邪魔でしかない。


 指名依頼をすればいい?

 普通に冒険者ギルドを使うにしても、そんなの当たり前だ。誰がどう考えても、実力があって信頼できる人物に仕事を任せる。初めてではないなら、指名依頼こそが当たり前の使い方だ。

 そして仕事を依頼したい人にとっては、その冒険者が他の依頼を受けるのは、都合が悪い。

 期日が合うかわからない。長引く可能性もある。ケガをして動けなくなる可能性もある。そういう予測ができないのは、依頼者にとって不都合だ。

 だから冒険者を引退させて、スケジューリングが可能な形にしたいと望むのは、当然の帰結だ。



 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○



 そんな人材を雇う資金力がない商人はどうするか?

 冒険者ギルドで護衛を雇うか?

 否だ。少なくとも他に選択肢がない、切羽詰った状況にならない限り。


 まずは自分でなんとかしようとする。

 信用できるかわからない護衛を雇うリスクを取るより前に、商人自身で可能な範囲で自衛手段を築こうとするはずだ。

 ストーカーに付きまとわれてる気がするからと、最初から護衛兼運転手を雇う人と、まずは防犯グッズを持つ人、どちらが多いか考えるまでもないだろう。


 商人は自分で武装し、最低でも自分の身を守れるよう、腕を磨くだろう。

 初期投資が必要だとしても、安全には変えられない。

 だが商人なのだから、そこらは安く押さえる術があるだろう。

 ついでに商品テストもできる。獣避けや虫除け、保存食や武器防具を、売れるかどうか判断できる。

 ルートの情報を集め、魔物の生態を知り、可能な限り危機を避けて移動すれば、消耗も少ない。


 可能ならば、同じような境遇の商人と手を組みたい。

 あまりにも大人数だと機動力に困ることもあるだろうが、せめて四人から六人で集団行動したい。

 人数が多いだけでも、襲撃される機会を減らし、警戒が必要な時でも役割分担で長期的な活動ができる。

 女であるとか、他国人であるとか、亜人種であるとか、四の五の言っていられない状況なのだから、この際どうでもいい。

 代行すればいいのだから、最悪商売がわかっていなくてもいい。とにかくやる気と実力があればいい。

 剣や槍以外にも、弓を扱える者、魔法が扱える者がいてくれたら、尚のこといい。

 馬車で移動できるのであれば、いくらか商品積載を犠牲にすれば、重い鎧で重武装化することもできる。

 盗賊や魔物の襲撃を受けた時は、重武装化した者が前線を担って侵攻を食い止め、軽装の者が後衛として適宜適切に対処すれば、戦闘の本職でなくてもおおよその危機は乗り越えられるだろう。


 するとあら不思議。

 もはや行商人は、冒険者パーティーと呼ばれる集団と区別がつかない。


 商人と冒険者がお互いの領分を侵すというのは、こういうことだ。


 というか、現状のテンプレ作品の描かれ方で、理解できないのだが。

 なぜ冒険者も商人も、互いの領分を頑なに侵そうとしないのだ?


 武装は免許制なのか? 冒険者登録してないと売ってもらえず、装備もできないのか? 商人が危険な場所に自ら入ることはないとしても、都市の外での危険は冒険者と変わらないぞ? 戦う商人・○ルネコさんだって戦士系装備だぞ? なのに武装しないのはなぜ?

 まさか商人の格好をして無抵抗をアピールしたら、野盗や魔物は命を保証してくれるのか? だったら抵抗するつもりバリバリ(死語)で護衛を雇うのは矛盾するぞ?


 冒険者も都市を離れて移動するのが大変な世界なのに、小さな荷物や手紙の配達くらい、一緒に考えないものだろうか? ついでの小遣い稼ぎで経費を浮かせられるのに、なぜ移動オンリー・護衛オンリーしか行わないのか。なぜ荷物配達の依頼がなければ、荷物配達を行わないのか。


 作品にもよるが、この辺り、冒険者ギルドは役立たずさを発揮しているように思う。

 同じ方面に移動するのであれば、一括で複数の依頼を請け負えば効率がいいのに、冒険者ギルドは画一的にふたつ以上の受諾を制限するような融通の利かなさを発揮する局面もある。

 そして冒険者ギルドを通さない依頼請負いを全面的に禁止していることもある。いくら社則で副業を禁止している会社でも、税金が発生しない、『副業』と呼べない金銭のやりとりまで禁止できるはずないのだが。

 商業ギルドと張り合おうと思えば、冒険者ギルドはこの辺りの融通を利かせる必要があるが、緩和しても手遅れのように思う。


 発展系を考えると、冒険者あるいは商人は、ふたつの商法を思いつくはず。


 腕に自信のない者は、自分は拠点となる店を営み、信頼できる腕に覚えある者たちに商売を仕込んで各地に行商をさせる。

 腕に自信のある者は、有料で他人の荷物や人員を遠隔地に届ける、輸送のみに特化した商売を営む。


 冒険者が商人化するか、商人が冒険者化するか、一体化した上で二極化する。

 そしてどちらを選ぶにせよ、その人材は商売を行っている以上、商人ギルドの管轄になり、冒険者ギルドの出番ではなくなる。


 元々商人である連中はともかく、冒険者はそんな生き方を選ぶはずがない?

 確かに命を賭けることに酔ったバトルジャンキーや、目的のために束縛されたくない人間もいることは否定しない。

 だが冒険者になる連中の大半は、それ以外の選択肢がなかっただけのはずだ。最初は英雄譚に憧れてその道に進んだとしても、一度思い知れば命を賭けて危険を冒す根無し草を続けたいとは思わないだろう。

 定期的な出張時には危険があるが、無理に戦う必要もなく、拠点に市民権を得て家と家庭を得られるかもしれない生き方と、どちらを選ぶのが人情だろうか?



 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○



 護衛だけではない。

 街の外で得られる商品、植物や動物の素材を持ち込むのは冒険者だ。

 だから商人にとって、冒険者の存在は必要不可欠という意見があるかもしれない。


 これも同様に否だ。

 手っ取り早く説明するために、逆を考えてほしい。


 都市周辺の村から、小麦やありふれた野菜・果物、精肉を街に持ち込み、冒険者ギルドで売る冒険者が存在すると思うか?


 そんなこと考える人は、きっと誰ひとりいないだろう。

 村人か、商人が運んでいると考えるはずだ。


 ならばなぜ、薬草や魔物の素材でも、同じように扱うと思えない?


 それが超稀少な、手に入らないことが当然のものであれば、別にいい。持ち込まれたらラッキーくらいのオマケであって、いくら欲しがる客がいようと、商売の本筋として考えるものではない。

 だが生活を営む上で必要なものであれば、定期的に入ってもらわなければ困る。

 商人自身が定期的に採取するか。

 代わりをしてくれる人間と契約するか。

 そのどちらか『確実に』行う必要がある。


 冒険者ギルドに依頼を出し、更に冒険者が引き受けるのを待つ、人任せを更に上乗せした方法なんて取らないだろう。

 だから結局、商人が冒険者化するか、冒険者が商人化する。



 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○



 商人にとって冒険者とは、役割分担して共存できる存在ではない。

 ギルドの役割を一方的に飲み込む、人材バンクでしかない。

 ないならないなりに商人の人脈を活用すればフォローも可能だろう。


 商業ギルドと張り合えば、冒険者ギルドに勝ち目はない。

 衰退の一途をたどる以外にない。


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