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02 『政』から見た冒険者ギルド⇒我らには不要。どこぞへ消えよ。


 前項で、現実的な冒険者ギルドは、ひとつの国内規模が限界と書いた。

 それは、すごく大雑把な視点で見た時でさえ、広く描かれる冒険者ギルドの形態では、無理があるということだ。


 もっと具体的な他の視点で見れば、まだ変わる。

 まず、『(まつりごと)』、封建政治の為政者の視点で見てみよう。



 結論から言おう。

 冒険者ギルドなんぞ不用だ。

 テンプレ作品でよくある形態で存在を許していたら、国王や領主は無能と言いきれる。



 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○



 城壁に囲まれた都市内、その人通りが多い場所に冒険者ギルドは建つ。

 外から訪れた冒険者たちは、まず町の警備兵たちによる検問を受け、城塞都市内に入る。

 その際に通行料が徴収されるか、身分証明書の提示が求められる。

 身分証明書がない場合でも、『これから冒険者ギルドで登録する』と保証金を払えば、仮の証明書で都市内に入ることができる。



 テンプレと呼ばれる作品の序盤で、よく見られる展開だろう。

 社会や物事の道理を多少なりとも知っていれば、これは絶対にありえないとわかるはず。『フィクションだから』で済むレベルではなく、作者は知らず知らずのうちに、人並の思考すら不可能な馬鹿キャラを揃えてしまっている。


 為政者が仕事として、誰しも共通して日常的に警戒しなければならないのは、自国・自領の人の出入りだ。

 これは現代でも同じだ。パスポートという身分証明書と、その発行費用を必須とし、入出国の際には厳重に審査されている。

 そういう法や制度がないから、自由に出入りできた、と考えるのは違う。

 家の鍵などかけたことがない田舎モノが都会に出てきて、オートロックじゃないからと同じ意識で生活していて空き巣に入られたら、笑われるだろう。

 整備されていないからこそ、自分たちでセキュリティを工夫して食い止める必要があるのだ。


 都市に入る人間を警戒しなければならないのは、想像しやすいだろう。

 スパイや犯罪者、禁止物品や病原菌を持ち込ませないために、水際で食い止める。


 忘れがちだが、出る人間も警戒しなければならない。

 技術などの情報、他地に秘密にしている物品が流出する可能性があるからだ。

 大人数が街から逃げた場合、税収にも響く。



 そして冒険者とは?

 身元の保証がなくても就け。

 報酬次第でどんな依頼でも引き受け。

 武力を持っている。

 加えて、自国民だけでなく他国民、人間どころか獣人やエルフ・ドワーフといった異人種がいることも多々。

 真っ先に職務質問されること間違いなしの怪しい連中だ。

 そんなの簡単に街に受け入れてたら、警備兵も、そんな制度を作った責任者も、『無能』以外に評する言葉がない。


 そして出る場合も、冒険者ギルドで登録したら、大したお咎めもなく逃げ出してしまえるわけだ。

 犯罪しても逃げ放題。技術や秘密は流出し放題。税がちょっとキツければ住民は逃げ放題。

 やはり警備兵も責任者も、『無能』以外に評する言葉がない。


 都市内・国内に、冒険者ギルドの存在意義はない。

 職業安定所や人材派遣会社としてなら、需要があるだろう。それを作ることで経済が回り、税収が増えるなら、為政者にとっても歓迎すべきことだ。

 しかし、だからといって、身元がハッキリしない最下層構成員までもを、検問をほぼ顔パスできる権限を与えるわけはない。



 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○



 検問を厳重にし、ちゃんと身元が保障された者であればいい、という問題でもない。

 冒険者の活動内容を考えると、城塞都市への立ち入りどころか、入国許可や国内の活動も怪しい。


 この辺りは後の項で詳しく語るが、ひとつの国の中でも複数の領地、ひとつの領地の中でも村という『縄張り』がある。

 稀少植物採取や魔物討伐で、それを侵す余所者を歓迎するとは到底思えない。

 新参者を歓迎しない村社会の心情問題だけでない。

 魔物がはびこる世界では、その『縄張り』を知らない余所者の行為が、存亡の危機に繋がる可能性もある。


 わかりやすい例を挙げれば。

 名を挙げるためにどこかの冒険者が山に分け入り、その土地の主たる魔物を討伐しようとすれば?

 暴れ狂う争いから逃れようと、他の魔物たちは一斉に別の地域に移動しようとしないか? それで人間の生存圏まで押し寄せたらどうする?

 討伐に失敗して、その魔物が『ニンゲン』という種の肉の味を覚えて、恨みを抱いたら? 直接的に生存圏が襲われる原因にならないか?

 

 それが万一であったとしても、まともな危機管理意識の持ち主なら、土地の立ち入りを制限する。

 魔物の危険がある世界で、魔物の危険を忘れたら、生きていけるわけはない。

 しかもこれは、離れた他国・他領を攻撃するのに、最も効果的なテロ行為だ。

 それを警戒してない為政者は、無能と呼ぶしかない。


 冒険者当人は自力で危機を乗り切れるとしても、引き起こされる余波に巻き込まれるのは、力のない人間だ。

 だったら力のない人間たちは団結し、力ある無法者を排除する。


 …………ちなみに、まさかその余波も冒険者が防げばいい、と思った人、いないだろうな?

 冒険者とは、いつ如何なる時も人々を守れるスーパーヒーローなのか?

 離れた場所で同時に危機に遭った人たちを、全て守ることができるのか?

 それが実行できない限り、そんな傲慢な戯言は、耳を貸すことはできない。



 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○



 逆ベクトルの考え方で、為政者の立場から冒険者ギルドの使いどころを探ろうとしても、かなり厳しい。


 まず、冒険者からは直接的な税を取りにくい。

 市民権を持っていないなら、人頭税といった住民税は取れない。

 土地を持っていないなら、地代や死亡税 (相続税)は取れない。

 商売をしていないなら、市場税や流通の間接税も取れない。

 賦役、つまり労働力を税として徴収しようにも、冒険者たちの言動から考えて、数が集まるとは思えない。

 取れるとすれば、通行関連の税くらいだろう。

 冒険者ギルドという組織と建物を作れば、色々と搾取できるだろうが、為政者の立場からすると、税というメリットよりも、無法者を引き入れるデメリットが目立つ。


 というか、冒険者の戸籍はどうなっているのだ?

 現在ほど正確ではなかろうと、税と切り離せないので、中世ヨーロッパ風異世界でも戸籍は存在すると考えるべきだ。

 冒険者ギルドで登録したら、戸籍や市民権は失われるのか?

 そうでなければ大問題が起こりえる。

 冒険者の身元が確かだと、他国・他領で揉め事を起こしたら、開戦の切っ掛けになる可能性もあるのだ。言いがかりだろうとなかろうと、国主・領主が送り込んだテロリストではないと証明できない。

 だから国主・領主は、そんな流浪の問題児など、絶対に自領の者だと認めない。


 冒険者ギルドに登録した段階で戸籍が抹消されるとなると、かなり重い。

 歴史上、戸籍のない人間は、被差別民として見なされている場合が多い。国家の制度上、その国の民として扱われるのは、戸籍登録しているのが前提なので当たり前ではあるが、現代とは比較にならないほど貴賎意識は強いはず。中世ヨーロッパでは、『神の祝福を受けていない者』(戸籍管理は教会の仕事なので)として差別されていただろう。

 しかも冒険者の場合、そんな立場に立って、命を賭けて戦わないと生きていけない。他に仕事がないなんて理由や、憧れだけで就ける職業とは思えない。一時の暴走で飛び出してしまえば、一生モノの後悔になる。



 現代社会では許されないことではあるが、マフィアのように裏社会を管理できる存在として認め、政治家が利用しあう関係を築くという例は、歴史にもよくある。

 上記した戸籍登録のない者だが、江戸時代の関東では、長吏頭矢野(あるいは浅草)弾左衛門なる者に代々支配権を与えて、普通の人々がやりたがらない仕事を与えて制度を整備し、幕府は間接支配していた。


 しかし冒険者ギルドをそのように使うのは、不可能だ。

 言うまでもないだろうが、なによりまず、表社会に堂々と出てる時点でおかしい。


 それを除外しても、問題がある。

 マフィアなども本来のギルドと同様、土地に根付いて縄張りを作り、同業種の新参者は排除するのが基本だ。

 冒険者ギルドは、その土地の人間ではない者が出入りするのを前提としているので、性質が違いすぎる。



 『クラン』と呼ばれるタイプ、土地に根づいた小規模冒険者ギルドであれば問題ないかというと、これまた微妙と言わざるをえない。

 マフィアタイプの使い方もできなくはないのだが、冒険者としての表看板が阻んでしまう。

 戦争や魔物の大規模進行などで、多数の冒険者が兵士と共に戦うといった作品もあるが、予備兵力と見なすのも、かなり厳しい。


 冒険者は、兵士や騎士といった正規軍とは異なる。これは多くの作品で共通していて、理解を得られることだろう。

 そして傭兵とも異なる場合もほとんだ。『傭兵』という職業の存在自体が描写されていない場合も多いが、同一の存在と見るには違和感がある。

 個人個人はさておいて、総括的に言えば、冒険者はスペシャリストではない。ほどほどに旅慣れ、ほどほどに武力を使え、ほどほどに護衛ができ、ほどほどに調査も行える、中途半端な存在だ。


 『魔物と戦うスペシャリスト』という意見もあるかもしれないが、それは絶対にない。

 魔物が日常的な危険として存在する世界で、正規軍が魔物を脅威として考慮していなかったら、とんでもない脳内お花畑だからだ。国や街、市民や為政者を守る気あるのか?

 だったら魔物と戦うスペシャリストも、正規軍だ。日常的に訓練を行い、領内の見回りと調査を行い、出現したら討伐も行っている。


 それに加えて、単純に数の問題がある。

 小規模ギルドとするなら、戦闘員は上に見積もっても十数人だろう。その差が領地間の小競り合いでは済まない、戦争ほどの規模で大勢に影響するとは、ちょっと考えにくい。


 質で覆せる、正規兵や騎士を上回る実力者集団だとすると、別の問題が生まれる。

 まず、正規軍がなにやってるんだという話だ。

 そして、そんな実力者を為政者が見過ごすはずはない。ヘッドハンティングするか、不穏分子として警戒するか、どちらかする。


 ヘッドハントされて正規軍に入れば、こちらは問題はない。明日をも知れぬ自営業から、衣食住は保障された公務員に。出世したのだから、周囲の見る目も変わるだろう。

 仕事も大して変わらない。依頼書を見て自分で判断するか、上司から任務が言い渡されるかの違いで、誰かのためになるのは同じはずだ。

 しかも常備軍の兵士にとって、訓練も休息も仕事だ。金にならない依頼がない時でも、あくせく働く必要はない。怪我をしても治療費や、動けない間の生活費も保障してくれるだろう。

 ただし、『兵士』と呼ばれる。


 問題は、宮仕えを煩わしく思い、取り込まれまいと断った場合だ。

 忘れてはならない。この世界は中世であり、価値観が違うのだ。身分制度で人類は平等ではなく、LGBTの権利を主張したら罰せられる異文化世界なのだ。

 言論の自由、職業選択の自由という、現代人が持っているものが通用しない封建制の社会だ。

 だからヘッドハンティングを断るとは、王侯貴族からの命令を一般市民が、それもなにか事情があってではなく、己の気分のみで受諾しないという『犯罪』になるのだ。

 実力行使でその場を切り抜けたとしても、『犯罪者』『指名手配犯』『無法者』と呼ばれ、日陰者として生きていくしかない。


 どちらにせよ、元の生活からはかけ離れ、冒険者ギルドは存在しなくなり、『冒険者』という呼び名から縁がなくなる。



 この問題は、小規模冒険者ギルドでも同じだ。


 武力を期待されて依頼されたら。

 『傭兵』と呼ばないか?

 山や森に入り、植物採集を行えば。

 『薬師』『山師』と呼ばないか?

 素材のために魔物を狩れば。

 『狩人』と呼ばれないか?

 そのどれもをやると仕事なれば。

 『なんでも屋』と呼ばれないか?


 土地に根ざして活動すれば、冒険者は『冒険者』ではなくなり、冒険者ギルドは『なんでも屋さん』でしかない。


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