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邂逅

巨体に不釣り合いなほど短い前肢


長くたくましい後肢


水平に伸びるしなやかな尾



そして


筋肉によろわれたアゴと

分厚く鋭い歯。



その気になれば、

トラックでさえ容易く噛み砕くであろう。




史上最大最強の肉食獣が眼前に迫っていた。




ふたりが身を隠す瓦礫のすぐそばを

T-レックスが地を揺るがせて

進んでゆく。



そのまがまがしい巨体を間近にしても

不思議と千春の心には怯えがない。




ーおじちゃんがいる。



旅の間に培った

巨人への信頼は揺るがなかった。




何故

巨人が千春を守るのか分からなかった。



巨人がどこから来たのか

どこに向かうのかも分からなかった。



分かるのは

巨人の深い慈愛と

千春を守り抜くという鉄の意志だけだ。



それだけで充分だった。



巨人には生きるちからと

全てを与えてもらっているのだ。



千春は巨人のぬくもりを感じていた。




目の前を歩み去ろうとしていたT-レックスが

立ち止まった。



辺りを窺うように

鼻腔をうごめかす。




しかし、

怪物は何事もなかったように

過ぎ去っていった


地響きだけをあとに残して。




巨人はしばらくは動かずにいた。



その鋭敏な感覚の網を広げて

あたりを探っているようだ。



やがて

怪物が去ったことを確信したか

静かに立ち上がった。



千春を抱き上げ

歩みを進めようとした。



その時




ーパ~ン



かすかな破裂音が千春の耳に届いた。


怪物が去った方角からだ。




その途端

巨人が風と化した。



音のした方に向かっていた。




ー人間!?

   怪物に襲われている?!



破裂音は銃器のようだった。



この世界で

そんなものを使うのは

人間だけだ。


だとしたら

あの夜から会う初めての人類だった。




ーおじちゃん、

     はやく助けてあげて。




轟々と吹き去る風の中

祈る千春であった。





そこにあったのは

一方的な殺戮だった。




暴竜ティラノサウルスと

      無力な人間たち。




人間たちは

拳銃で応戦している。



しかし

多少の小火器で武装しようとも

両者の差は圧倒的であった。



逃げることも出来ない。



ビルの瓦礫で出来た

袋小路に追い込まれているのだ。



引けず

出られず。




残された道は

ティラノサウルスを倒すのみ。




だが所詮

拳銃の小口径では

彼の厚い皮膚を貫くことは出来ない。



反撃も出来ぬまま

いままたひとりの男が

喰われた。



残るはひとりの女性のみ。



拳銃を乱射するが

かまわず

ティラノサウルスが迫る。




女が

己の無力さを呪ったその時。




ドン!




轟音がとどろいた。




瞬間、かの怪物が吹き飛んでいた


地響きを上げて地に落ちる。



ティラノサウルスには

何が起こったのか理解できなかった。



いままで

自分にここまでのダメージを与えたのは、

巨大なディプロドクスの一撃だけだ。



しかし

土煙がおさまったとき、

そこに立っていたのは人間だった。



他の人間の倍ほどもあるが、

彼から見ればただの獲物に過ぎない。


一声吼えると

ティラノサウルスは巨人に向かって突進していった。



ふっと、

巨人が消えた。



次の瞬間。



ドーン!



再びの衝撃に

ティラノサウルスは怯んだ。




間違いない



この小さな人間が

彼を吹き飛ばしたのだ。




野生の判断は速い



戦えばどちらかが倒れる。




そう思った時には退却を始めていた。




不意を突かれぬよう

巨人に目をやったまま後じさる。



巨人が追わぬのを確かめて

向きを変えた。


逃げ足は速い。



怪物は去った。





ーーーーーーーーーー





残ったのは

巨人と

女ひとりだった。



「おじちゃ~ん!」



少女がひとり、物陰から走り出して巨人に抱きついた。



千春である。



巨人は千春を抱き上げて肩に乗せた。




その様子を見ていた女が

巨人に歩み寄ってきた。




千春は目をみはった。



ーキレイなひと!



それは

輝くばかりに美しい女だった。




美女も千春を見詰めて微笑んだ・・・




千春と由美子


それは

  運命の出会いであった。





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