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千春と巨人


夢が千春をさいなむ。




闇から生まれた夢魔


夢魔をむさぼるカマキリ



そして


ころがる おかあさんの顔。




おかあさん


 どうしたの



からだはどこ


    おかあさん





自分の悲鳴で目を覚ます


胸がつぶれそうだ



 哀しみが小さなからだからあふれる。



そんな時


震える千春を抱きしめる腕があった。



太い腕


大きな手



 鋭いけれど優しい瞳。


 

  

 流れ込む慈愛のビジョン。



巨人を見る時

常に太陽の幻影が共にあった。




ーなぐさめてくれている。



母を失い


世界を失った少女を救ったのは

異界の巨人だった。



何者なのか


どこから来たのか



巨人は語らなかった。



語らないのか


それとも

  言葉を解さないのか



千春には分からない。



分からなくても


巨人が千春を守ってくれることだけは

知っていた。



千春は巨人の指を握りしめた。


太陽のぬくもりに見守られながら

日溜まりの眠りにつく。




今夜も月は夜に溶けていく。



                            



巨人は

ひたすらに大きかった。



身長は2メートルを遙かに超え


体重はいくらあるのか

 千春には見当もつかない。



山が動くほどの量感である。



しかし


筋肉でよろわれた肉体は

鈍重さとは無縁だった。



獣たちと戦う時の巨人は

日頃の穏やかさをぬぐい捨て


雷神と化す。



戦いは、いつも一瞬だ。


何が起きたのかも分からない



巨人のあまりの速さに

千春には見えなくなるのであった。



巨人の攻撃を受けた部分は、

乾いた音を立てて消失する。



ーパン!



それで終わりだ。




千春には、

それでも巨人の手加減が分かった。



全力を出してはいない。



巨人の全力がどういうものか


想像もつかない。



いまも


突然襲ってきた

イノシシのような巨獣を倒したところだ。



全長4メートル余り


あり得ない大きさである。




一撃であった。



頭が半分、消えている。




今夜の食事はこの獣になるだろう。



街で集めてきた缶詰なども残り少ない。


肉を無駄にすることもない。


初めの頃は

吐いていた千春だが

近頃は慣れた。



千春は巨人を見上げた。



”おじちゃん” がいなければ死んでいた。



夢魔に襲われ。


カマキリに喰われ。





おかあさんのように。




千春の心に震えが走る。



千春の想いが観えたのか、

巨人の瞳に哀しみが浮かんだ。




無慈悲な月がふたりを照らす。


夜は始まったばかりだった。




ふいに、赤い光球が現れた。



巨人が千春に観せる警戒のヴィジョンである。



ーどうしたの?



見上げると

鷹の目をした巨人がいた。



千春に目をやると

唇に人差し指を立てた。



静かにしておいで。



巨人の心を感じた。



巨人が緊張した面持ちで

あたりをうかがう。



ー何かが来るの?


千春の心を読んだ巨人がうなずく。



いままでどんな怪物が来ようとも

瞬きもせず無造作に

一撃で倒してきた彼である。




その巨人が警戒している。



強敵。




巨人は

千春を抱きかかえるなり

音もなく走り始めた。




速い



ーまるで風・・・



どうやら

敵の風下に回るつもりのようである。




巨人が戦うのをさけるとは

いかなる怪物なのか。




まもなく巨人は、

倒壊したビルの陰に身を隠した。



赤い光球はまだ、

千春の目の前で点滅している。




その明滅が速くなった。




ふと、

千春の感覚に響くものがあった



ー音。




地響きがする。



地面が揺れる。




なにか、

とてつもない質量を持ったものが

近づいてくるのだ。




一瞬後。




来た




地揺れと共に姿を現したものは。





史上最強の怪物、

ティラノサウルス・レックスであった。




ああ、世界はどこに行くのだろう・・・・







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