巨人
蒼白き夜の女王が
君臨する闇の底に
赤銅色の巨人が立っていた。
巨木を思わす
逞しき二本の脚。
人の腰ほどの
太さを誇る両の腕。
2mを遙かに超えるその巨体は
巨大な岩を彫り込んだ神像の量感を備えている。
だが、
巨体にまして異彩を放つのは
獲物を狙う鷹のような
闇をさまよう獣のような
月の輝きを宿したその両の眼だ。
その存在感と うちに秘めたエネルギーは
あの大カマキリを遙かに超えるだろう。
カマキリが迫っていた。
聴いた者を狂気に落とす
金切り声をあげながら。
命を刈り取る
死に神の鎌を振り上げながら。
千春は息を呑んだ。
満月に照らされて、目の前にあるのは
想像もしたことのない光景だった。
魔獣の如き巨大なカマキリと、
神が如き赤銅色の巨人
神話の世界がそこにあった。
時はその歩みを止めていた・・・
不動かとも思えた巨人が動いた。
ふりかかる鎌を無視して
怪物に迫る。
巨岩の量感を持つ拳が
カマキリの顔面をしたたかに打っていた。
雷鳴が轟く。
・・・信じがたいことに
カマキリの首が消えていた。
その身を断末魔に震わせながら
ゆっくりと倒れてゆく。
地に立つのは
赤銅の巨人のみ。
千春は魂を奪われていた。
巨人が千春を見た。
突然
巨人の頭上に太陽が出現した。
黄色く
暖かい春のお日様。
それは
巨人が彼女に見せている幻だと
なぜか千春は知っていた。
・・・・そして
巨人が微笑んだ。