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ブッポウソウの夜

夜の鳥が鳴いている。


ボーッ ボッ ボー・・・・



この時期、

 夜になると山に響く声である。



ブッポウソウ と、

  啼いているのだと “じいじ”は言った。


 

ブッポウソウの鳴き声を聴くたびに

千春は、じいじを思い出す・・・



優しく穏やかな老人であった。



例えば、

春の日の穏やかな昼下がり。


日当たりの良い縁側に腰を下ろし、

千春を膝に載せたまま、



ぽつり


ぽつり と、


話を聞かす・・・




鳥のこと。


虫のこと。


山のこと。


自然について。


ヒトについて。



喜び。


悲しみ。



生や


死や・・・・




そうしたまま、祖父の膝で眠る。


それが千春の日常だった・・・




その祖父はもういない。




じいじ・・・




千春はめったに泣かない子だった。


が、


祖父を亡くしたとき

泣いた。




胸に穴が空いた。




悲しくて




淋しくて




つらくて




声も出さずに泣いた。




・・・そして今



じいじのブッポウソウも泣いている・・・


千春は泣いているプッポウソウが見たくなった。




深夜、こっそりと夜具を抜け出し

裏庭に出る。



満月が

庭を蒼白く染めていた。


門をくぐり

裏山へと続く道を登る。


祖父と遊んだ山々であった。



小鳥がいた。



獣もいた。



狸の親子が住んでいた。

その子狸たちが愛らしかった。




その森を進んでいく。


月を頼りに歩いていく。





ずいぶんと森に入ったころ

ふと、 音がした。



足音のような


這うような



サワサワ


ガサガサ



左手の森の奥から聞こえてくる。


千春は眼をこらした。



何かが動いたような気がする。


月が雲に隠れて よく見えない。


・・・・なんだろう

千春の胸がどきどきと鼓動を打つ。



その時、 月が雲から出た。



千春の目がいっぱいに開かれる。


口が叫びの形をとっていた。




なぜなら。




そこに姿を現したのは

”夢魔”だったのだ。




それは猿に似ていた。




長く、強そうな腕。


腕に較べ短い脚。


その身を覆う短く黒い剛毛。




しかし。


猿との類似はそこまでであった。




尻から伸びる、太く、 長い尾。


うねうねとうごめくその尾は、

ぬめった鱗に覆われていた。



もちろん猿にはそのような尻尾は、ない。


そして。


呪われよ

その面貌こそが、猿ではない。



縦に割れた、爬虫類の瞳。



長く突き出た、 口。



そして

チョロチョロとひらめく、赤い舌。




その顔は

大蛇そのものであった。


まるで


巨大な蛇が

猿の尻から潜り込み


その内臓をむさぼり尽くし



喰いすすみ。



喰いすすみ。




しまいに頭を食い破り。


出てきたような おぞましいその形。



猿の皮をかぶった、 蛇。




冗談にもならないその姿は

まさに夢魔であった・・・・・


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