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「黒髪の彼女」シリーズ

黒髪の彼女は「時間」を考える

作者: 北郷 信羅

 「どうしたら、『明日』に行けると思う?」

彼女は今日も唐突に言った。いつもそうだ。彼女はいつも唐突にものを言う。

「寝てればいい……って、そういう話じゃないですよね」

俺は取り敢えず言ってみる。

「寝て起きたら、それは『今日』でしょ。『明日』じゃないよ」

「ああ……確かに。でも、前日基準の『明日』ではあるんじゃないですか?」

「なら君は、今日イコール明日だって言うの?」

「えっ……それはどうかな……」

「だってそうでしょう」

彼女は腕組みして言う。

「君の論によれば、『今日は昨日の明日』ってことでしょう?」

「そうなりますね」

「詰まる所今日イコール明日であり、また『今日は明日の昨日』とすれば、今日イコール昨日も成り立つ。となれば昨日イコール明日だって必然的に成立するよ」

「うーん、そうですよね……」

俺は何も反論できない。

「―――それじゃあ、あなたはどう考えるんですか?」

「大枠は、同じかな」

「え」

いつも俺の意見に対して批判的な彼女にしては珍しい発言だ。

「……ただ、1つ気になったのは、君の『前日基準の明日』って言葉」

彼女は、問題の答え合わせをするかのように言う。

「私たちの生きている時間は、敢えて言うなら今日の連続なんだよ。だってそうでしょ?昨日も今日も明日もイコールで結ばってるんだから」

「そうですね」

「つまり私が言いたいのは、時間に区切りなんてないってこと。ただ敢えて言うなら、『明日に行く』って言ってる、今既に私たちは昨日にも明日にもいるんだ」

「―――だとすると、今回の議論はそもそもの命題が間違っていたってことですか?」

「私の論ではね。……君はいつも前提を疑わないから」

彼女は長い黒髪を束ね、赤いゴムでとめた。

「私がいつもかつも正しいこと言うとは限らないんだからね?」

「それはそうかもしれないですけど……」

俺今釘を刺されたのか?

「私が何のために君と議論してると思ってる?」

「えー……と、自分の考えの正しさを確認するため?」

「『正しさの確認』って言い方は……ちょっとね。私は私の考え方にそこまで自信、持ってないから」

彼女はペンをコツコツと机に打ちつけながら言った。

「―――もちろん私は、真実に近づきたいとは思ってる」

「……ええと、」

イマイチ彼女の言いたいことが理解できない。

「つまり……?」

「君と議論することで、私の論を深めたいのよ」

彼女はゆっくりと脚を組みかえる。

「それによって私の考えが真実に近づいているかは分からないよ? ―――ただそれ以上に、互いの意見をぶつけ合わせることによって真実に近づこうとする、その過程が私好きなのよね」

「過程……」

「その点から言えば、今の私にとって『昨日』とか『明日』とか、そういう区切りは必要ないね」

彼女はせっかく束ねた髪を解いてしまった。彼女の黒髪は重力に従って、彼女の肩や背を流れる。

「だって私の中で意識される時間は、専らこの1回1回の『議論の時間』だけだもの」

彼女はそんなふうにして、時間の区切りを再定義した。


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