台無し!
ホントこの男あり得ない。元カノと勘違いして誕生日忘れるなんて!
「ゴメン、完全に俺が悪かった」
「…ケーキ食べたい」
「もちろん! 買ってくるよ。他には?」
ものすごい勢いで出かける準備を始め、今にも出ていこうとしている。誕生日なのに、置いてけぼり?
「やっぱ買いに行かなくていい。ギューってして」
「え? あぁ、いいの、それで?」
良くないに決まってんじゃん。服とかアクセとか欲しいし。ケーキどころか、フレンチとか期待してたのに。休日出勤をおして「今夜会おう」って言ってくれたのは偶然だったのね。
「…元カノとか、まだ思い出すんだ…」
「んなわけないだろ。悪かったって」
「思い出してもいいけどさ」
私だって今までの元カレとか、初恋の人とか、記憶から消えるわけじゃないんだから。
「私のこと、その人よりギューってして」
一番愛して。
「そんなの当たり前だろ。お前が一番好きだよ」
調子いいんだから。
「もう、お前がいればいい」
本当、調子、いいんだから。
「泣くなよ。ゴメンって」
「もういい」
一番愛して。一番キスして。一番抱いて。
「本当、ゴメンな。マジで悪かった。マジでなんでもするから」
「いっぱい、ギューってして」
いっぱい、いっぱい。
腰に手が回って、キスされる。そのまま私のベッドに沈み込む。
大きな手と、熱い吐息と、浮かされた眼と、身体の重みがたまらなく心地いい。もう他には何も要らない。ホントだよ?
「…あ、今何時?」
「え? もうすぐ9時かな」
イヤな予感。
「おい、『ふしぎ発見』見よう! 今日マヤ文明スペシャルだぞ」
「はぁ?」
「俺んちテレビ壊れたからなぁ」
え? 今夜会おうって言ってくれたのは、マヤ文明スペシャルのため?
「…………」
「どうした? あ、ビールとかある?」
もう最低! 上げて落として上げて落とすってなんなの、ちょっと!
「もう台無し! 今すぐ出てけーーー!!!」