7.不可避イベント
お言葉に甘えて温かい湯と美味しいご馳走の至れり尽くせりなおもてなしを受け、神流は数時間振りの休息を取る事が出来た。
太陽神の恩恵は素晴らしく、本当に太陽があると錯覚する明るさと暗さを体感し、体が「夜」と感じると自然と睡魔も来るようになりぐっすりと寝入った。
翌朝。しっかりと睡眠を取れたので気持ちの良い目覚めとなる。
その時、外から声が聴こえた。
男女の声だが、昨日会った誰でもない、初めての声色。
好奇心のまま部屋の窓から覗くと、庭にやはり二名の姿があり、二人とも初めて見る顔だ。
軍人なのか、体術で組み手をしており両者とも相当の手練れである。
よく見てみると、髪の色が全く同じで、顔もよく似ていた。双子の兄妹か。
ジッと観察していたら男の方と目が合った。大人びた笑顔に思わずどきりとして、次いで女の方とも目が合う。こちらは無愛想なのか真顔で会釈をしてきた。
「神流ちゃん、起きてる?」
「あっ、はい!」
扉を隔てた蒼緋の声に慌てて返事をする。「入っても良い?」という問いかけに「どうぞ」と答えると、昨日とはまた違う格好の蒼緋が立っていた。
「朝早くからごめんね。みんな集まってきたから、呼びに来たの」
みんな、というのは昨日話していた“全員”の事なのだろう。「一旦これに着替えてくれる?」と差し出されたのは、紺の生地に金と赤の刺繍を織り交ぜた、着物のような衣装だ。
羽織のようでもあるし、かと思えば韓国の民族衣装のようにも見える。…まあようは、着方が分からない。
「…あの。えっと、着方が…」
ぼかして言うと、蒼緋も気付いてくれた。
「あ、そっか。ごめん、手伝うね」
気を悪くする事もなく、衣装を着付ける用意を始める。
「キツかったら言ってね」
テキパキと、着付けを進めていくうちに「まるでお姫様みたい」と思った神流。それはそうだろう。ひと目見て「カッコいい」と思った蒼緋の装束に対し、神流の服は鮮やかさが違った。
色合い、デザイン、装飾。どれを取っても明らかに違う。
「よし。動きづらくない?」
「へぁ…」
部屋に設置されている姿鏡で、完成した己の格好を見たらあまりにも別人だった。
「そ…そうひ、ねーさん…?あの、派手じゃありませんか…?」
「?これが神流ちゃんの正装だけど?」
せいそうってなんだ。
「うぅ〜…。あの、私こういうの着慣れなくて…。前のじゃ、駄目…?」
「みんなも正装で待ってるの。それに“正式な歓迎”をするからこれはもう変えられないんだよ」
「はぅぁ…」
どうやら不可避イベントらしい。




