4.一族の長
「来る事すら叶わない場所にあるので、ここに“外の世界”から“誰か”が来る事自体が珍しくて。…なので好奇の目で見られる事だけは、どうしても止められないのでご容赦くださいね……」
「はい…」
誰でも好奇心には抗えない。そこは神流も受け入れるしかない。
話を聞いている間も周囲を観察するが、ここが海底である事以外は地上と何ら差がなかった。どこかの民族と言われても全く違和感がない。
途中に見かけた家屋も日本にあるような木造建築に見えたし、そこに至るまでも道はしっかり整備されていた。
案内された屋敷は尚のことである。
「…大きい」
「我ら一族の長の屋敷なので」
ふふ、と笑う。
門を通り、入り口と見られる玄関へ。
「失礼いたします。先代様はおられますか」
陽苑の呼びかけに、歳を召した女性が「はいはい」と出迎える。
「あら、陽苑様」
「突然お邪魔してすみません。先代様は本日は御在宅でしょうか」
「申し訳ございません。急な仕事が入りまして、ただ今出掛けております」
「おや。それは、時期が悪かったですね…」
「夜には戻ると思われますが……急用でしょうか」
「ああ、実は彼女を先代様にご紹介したかったのです」
「彼女…?」
陽苑がスッと神流の前から退く。女性の視線が神流へ移り、「あらあら可愛らしいお嬢さんだこと」と優しく声をかけた。
「“神託の娘”です」
「あら!あらあら!」
途端にパァッと明るい口調になる女性に、神流はオズオズ会釈した。
「…は、はじ、め、まして…」
「初めまして!わざわざお越しいただいたのにごめんなさいね」
「夜またお邪魔する事にしますね」
「あらそうですか?」
「他にも案内したい場所がありますし」
「お忙しい中すみませんね。先代様がお戻りになられたらお伝えしておきますね」
「宜しくお願いします」
最後にもう一度会釈をし、二人は屋敷を出る。
「…陽苑、さん。先代様ってどんな方なんですか…?」
「僕に敬語は不要ですよ。…そうですねぇ……あ。聖藍を覚えてますか?彼と結構似ています」
「聖藍…」
あの蒼い髪の青年に似ている。という事は。
「先代様は、聖藍のお祖父様です。彼のお父上が、現当主にあたり、聖藍は次期当主なんですよ」
この世界の事はまだよく分からないが。
もしかしてあの聖藍はとっても由緒正しい御子息なのでは。
家も大きく陽苑が「一族の長」と言っていた。
そう思った神流が、恐る恐るといった感じで尋ねてみる。
「あ、の。…もしかして。その…聖藍、様って……とても高貴な方…なんでしょうか…」




