3.聖藍と陽苑
神流がそう名乗ると、陽苑は人当たりの良い笑顔を見せて「教えていただきありがとうございます」と律儀に礼を言った。
神職なだけあり、人を安心させるのが上手で、またその話し方も非常に優しかった。
「あの…」
「?何でしょう」
「さっき、私を連れてくるように言っていたって……」
「ああ…」
にこ、と微笑んで陽苑が説明を始める。
「神からお告げを受け、貴女をお待ちしていたんですよ」
「お、告げ…」
「はい」
上へ向けて指を差し、更に続ける。
「『月輝く夜、その者は現れる。月の名を持つ者、運命に導かれその地へ降り立つ』。…ちょうど、今夜は満月でした。お告げの通りですね」
「陽苑。俺は仕事がある。この娘は一度お前に預けるがいいか」
「全くこの仕事馬鹿は。ええ、いいですよ。元々僕がお願いしていたことです。この世界の事も知っていただかないといけないですし」
「そうか。では任せた」
呆れた陽苑をよそに、聖藍は足早に去っていく。
残された神流は不安そうに陽苑を見つめ、それに気付いた陽苑は安心させるように微笑んだ。
「素敵なお召し物ですが、その上からで結構なのでこちらを羽織っていただけますか?この世界の住民は外部からの客には少々敏感です。これを羽織っていれば、貴女が正式な賓客である事が伝わるので、無用な争いを回避出来ます」
手渡されたのは民族衣装のような白を基調とした羽織。紺色の衿に金色で模様が刺繍された羽織で、知識のない神流でも上物の服である事が理解出来た。
それを言われた通り洋服の上から羽織る。
「知らない場所に突然来て不安だらけでしょうが、貴女の事は僕達が責任を持ってお守りします。なのでどうぞご安心を」
「僕、達…?」
「ええ」
先行する陽苑は、道すがら神流に説明した。
「この世界は、外界と隔離されています。…“外の世界”から来た神流さんなら分かるでしょうが、ここは本来、地上の人間は来られません。辿り着く前に息絶え、水圧で形も残りません」
ハッと思い出す。そうだ、こんなに快適に呼吸が出来るから、何の問題もなく会話が出来るから失念していたが、ここは海底なのだ。
相変わらずなぜ呼吸出来るのかは謎だが。
海底でありながら明るいのも謎だ。
「そしてここは海の女神の保護下にあります。海の女神は太陽神より陽の光の恩恵を受けて、それを海底へ届けてくださってるんです。ここが海底なのに明るいのはその為ですね」
「…神様って凄いんですね」




