18.気分転換
「…朔羅さん、あんなに優秀なのに」
「実際、盈術が使えないのに七大守護者に入れたってもの凄い苦情が来た事もあったわ」
「く、苦情…っ?」
「聖藍が、“俺が認めた、文句あるか”って一蹴したけどね」
「小言が煩いのは老獪の者だけですから、今に始まった事でもないんです」
どこの世界でも、ドラブルは尽きないようだ。
「だから、まあ力が使えなくても神流ちゃんは気にする必要はないって事。覚えといて」
小休憩を挟んだ後、「ついでに官邸の中を案内してやったらどうだ?」と颯紫が聖藍へ提案。
仕事は?と思っていたら、「そうですね、急ぎの仕事も終わりましたし。後は私達で片付けておきます」と柚樹も賛成して。
ちらりと紫穂と蒼緋を見ても。
「後ろから護衛としてお護りしますのでご安心ください」
「そうね。何かあっても私達の目の前でどうこうしようなんて馬鹿はいないわ」
なんてノリノリで。
「…えっと」
仕事は終わった、とは言いつつ、次期当主なら他にも色々あるのでは。
“神託の娘”だからとそう簡単に…。
そんな心配も不安もよそに。
「…案内する」
「あ、ぇ、……はぃ」
王子様がするように、聖藍は手を差し伸べた。手を重ねると優しく握られ、不覚にもきゅん、とする。
部屋を出ると確かに数歩後ろを蒼緋と紫穂がついてくる。ある程度片付いたら颯紫と柚樹も合流すると言っていたが、全員が揃えばそうそうたる顔ぶれになるだろう。
「…聖藍。あの、ほんとに、大丈夫?お仕事…」
「大丈夫だ。元々仕事は溜め込まない主義だから。さっきしていたのも明日の分の前倒しで中断したところで問題はない」
七大守護者は優秀揃いのようだ。
「気分転換も必要、だろ」
ふ。
そんな効果音が聞こえそうな笑み。
無愛想なのではなく、単に多忙で会話をする時間がなかっただけなのだ。
「…ど。どこを案内してくれるの?」
「………まずは、官邸内。その後庭、別邸もあるから順に回るか」
「別邸もあるんだ」
「館詰め状態の時、俺達七大守護者が寝泊まりする為の宿も兼ねてる。…恐らく、いずれお前の部屋にもなる場所だ」
「え?」
てっきり、蒼緋の所にずっと居るものだと思っていた神流はついそんな声を上げる。
「“神託の娘”として出入りする以上、立場は確実に七大守護者より上になるぞ。お前専用の本邸か私邸も用意するから、次の仮住まい程度に見ておけよ」
「ひ、ひぇ…」
まさかそんな大袈裟な事になっていると思わなかった。蒼緋の所も一時的にとは言いつつようやく慣れてきて、気兼ねなくお喋り出来る間柄になったのに。




