16.溟海の加護
書類の山を次々と片付けていく姿はまるで社長のよう。次期当主と言われているのでその為だろう。
「…柚樹。休憩を取る。……人数分の茶を用意しろ」
「はっ。かしこまりました」
黙々と続けていた事務であるはずなのに、突如の休憩宣言。
はからずも邪魔をしてしまったかと不安がる神流に、ぼそっと颯紫が耳打ち。
「元々適宜休憩は取ってるんだ。気にしなくていい。ほら、根の詰め過ぎは良くないと、言うだろ?」
颯紫はとてもよく周りを見ていた。蒼緋の男バージョンと言われれば早い。
来客用の椅子に神流達を誘導し、「さあどうぞ」と掛けさせる流れは手慣れている。
少しして柚樹が茶菓子の乗ったワゴンを押して入ってくる。本当に人数分用意されていた。
書類から完全に離れた聖藍も椅子に腰掛ける。
「どうせ聞きたい事もあるんだろ。俺達も数百年振りの“神託の娘”だから、“外の世界”について興味はある。色々聞かせてくれ」
あ、なるほど。彼らにとって地上はもはや異世界か歴史上の国なので、この世界の住民として興味があるのだと、神流は理解した。
「私で良ければ」
「…なるほど、“外の世界”では“カガク”が発展しているのか」
専門知識がない上での文明の説明はとても難しい。しかし彼らは「そういうもの」として聞いてくれるので神流はとても気が楽だった。
「……こっちでは何を?」
「“溟海の加護”を使う」
「めいかいのかご。」
そして海底ならではの聞きなれない言葉でピンと来ない神流に、お手本を見せる。
聖藍が手のひらを上に向けると何かを唱える事もなく小さな魚がパシャリと水音を響かせ出現した。
「さ、魚…?」
「俺達は“盈術”と呼んでる。溟海の加護はアーメイド全てが使える力だが、術式は国によって名称が変わる」
「…何だか、カッコいいね」
よく見てみると魚だと思われたが小さな人魚であると分かった。聖藍の髪色と同じ深い藍色。溟海の加護、と言っていたが、つまりは海の妖精の一種だろう。
「…みんなも出せるの?」
手本として出してくれたのは聖藍のみ。
けれど先ほど言ったようにアーメイドの全員が使える力ならば。
そう期待してそれぞれに視線を移すと。
「出せるわよ〜。ホラ」
率先してお披露目したのが蒼緋。人魚の色合いが光の加減で複雑に見えてとても神秘的だ。
「武器としてなら出せます」
「俺もだな」
紫穂、颯紫はそれぞれ槍と剣に擬態させた。
元が水だからなのか、使い手の意思次第で変幻自在らしい。
「温度を変えるのが得意です」
そう言ったのがお茶を用意した柚樹。この飲み物を温かくしたのも能力の一つだろう。
「…あまり聖藍様や皆のように派手な事は出来ません」
そう言う彼は、自分の力に少々悲観的だった。




