14.助けになりたい
「…話が逸れたけど、“神託の娘”に選ばれた貴女には、貴女にしか出来ない使命があってここに導かれてるの。…だから軽率な行動は控えてちょうだい。じゃないと、護れない」
冷静さを取り戻した朔羅の言葉には少しだけ優しさが含まれていた。
「……はい、分かりました」
「……」
「…ほーんと、神流ちゃんて素直よね」
「それどういう意味かしら」
にっこにこな蒼緋。ムッとする朔羅にその矛盾点を指摘する。
「“外の世界”から来た神流ちゃんを嫌う割には、“神託の娘”である神流ちゃんを護るべき存在として認識してる。今凄く中途半端なの、自分で気付いてるでしょ?」
そんなにはっきり言っていいのか。
内心ドキドキしている神流と裏腹に、いつもの光景なのか待機姿勢の紫穂は涼しげな顔である。
「…私は“外の世界”の人間が嫌いなだけよ。地震でこの世界が沈んだ時、人間達は彼らを救う事もなく見捨てた。救える命があったはずなのに、手を差し伸べなかった。今ものうのうと“外の世界”で生きているんでしょう?その“フネ”とやらを造って海の上を悠々と移動して」
…そうか、と。
神流は理解した。
この子は、自分達がアーメイドとしてこの海底で暮らしているのを、かつての人間達が先祖を救わなかったせいだと思っているのだ。
地上で暮らしていたから分かる。地震を含めた天災も、人為的な人災も、それは人の手ではどうしようもない事を。
対策は取れても防げない事。助けたくても限界がある事。
………救えなかった命が無数にあった事。
アーメイドは、海中に適応出来る体を手に入れたから新たな文化を築いたが、沈んだ人種全てがアーメイドの血を引いていたとも限らない。
朔羅達アーメイドの先祖はたまたまその血を引いていた。
果たして、海底に沈みそのまま息絶えた人間が何人いたのだろう。
「……大昔の事は、私は知らないけど…。もし、誰かが。私が救える“誰か”がいるのなら。私は救いたい。私に出来る事全てを使ってでも、助けになりたい」
母を助けられなかった自分が、誰かを救えると言うのなら、それは己の宿命であり使命だと、神流は考えた。
持てる力全てを使って。本当に出来るかなど、今はそんな事分からない。
「…です」
少し間を置いて、自信なさげにそう呟いて。
これまで受け身の態度だった神流の意外な決意を聞いて、その場にいる全員が沈黙する。
あれっ。私何か出しゃばったかしらと。不安になる神流へ、蒼緋がタックルした。
「神流様ッ!」
衝撃にぐえ、とくぐもった声が出る。




