12.アーメイドの血
「………、死…?」
かたわらで、蒼緋が「あちゃー」と天を仰ぐ。
「“フネ”って確か、海の上の移動手段よね。海に投げ出されたのなら、人間に救出されない限り沈む。沈んだ者は、さっきも言ったけど大半が死ぬのよ。跡形も残さず」
「ちょ、朔羅、言葉を選んで…」
「これも勉強の内。現実を受け入れないと、この先には進めない」
一気に青ざめていく神流。
母が沈むのをこの目で見た。あれは幻でも幻覚でもない。しかし、後を追うように自らも沈んだが、朔羅の言う通り母の姿はそれっきり見なかった。
“跡形も残さず”。自分はアーメイドの血を引いていたからこの世界に辿り着けた。
血を引いていない母は、淘汰されたのか。
「………」
「…同情はしない。孤児ならこの世界にもごまんといる。貴女一人に気を遣うほど、甘くない」
「……まあ、親がいても、まともに構ってもらえない子もいるしね」
「…蒼緋、姉さん…も…?」
「あたしの親は仕事ばっかりよ。聖藍と陽苑もそう。だから昔は悪ガキってよく呼ばれたの」
みんな、円満な家庭環境ではない。親がいても育児放棄したり、子を殺してしまう事もある。
神流は幸せな方だった。母子家庭だが母とは仲が良く、二人で旅行する程度には良好で。
“神流は、生き延びてね”
母が最期に遺した言葉だ。それを今、神流はようやく噛み締めた。
母との約束。母からの最期の言葉。
「…私、この世界で生き延びるって母と約束したの。だから、生きなくちゃいけない」
覚悟を決めた。しっかりと歩いていく覚悟。
母を忘れるわけではない。母の想いと共に生きるのだ。
「……ふうん。少しはやれるみたいね。まだ認めたわけじゃないけど」
「素直じゃないんだから〜」
「煩い」
次に取り出したのは民俗学の本。
数冊ある内の一冊を神流の前に開き、とあるページを指す。
「海底に住む種族の総称をアーメイド。更に枝分かれして地域や部族毎に名称がある。私達はここの“盈月共倭国”にいる」
トン、と指で叩いた場所には“盈月共倭国”と達筆で文字が書かれていた。
「…えいげつ」
「満月を意味する言葉よ。この国では“当主”が最高位なの。その下に七大守護者と言って私達がそれぞれの管轄を担ってる」
「…朔羅さんも、七大守護者なんですよね」
出来るだけ機嫌を損ねないよう、神流は細心の注意を払った。この美少女は部外者である自分を嫌っている。はっきりした理由は分からないが、そうであるのは確か。
「そうよ。それも史上最年少。私以外は全員歳上」




