11.毒舌の最年少
朔羅の元に着いた時、そこはまるで図書館か、学舎のようだと感じた。扉を開けた先には朔羅が出迎えてはいたが、初対面と同じく敵意を感じる。ただ、住民のそれとは何かが違い、良くないものとは思わなかった。この差はなんなのだろう。
「お待たせ〜!」
「遅い。いつまで待たせるの」
恐らく歳上であろう蒼緋に対して上から目線だ。しかし慣れているのか当の本人は全く気にする素振りもなく。
「朔羅ってば〜ツンデレ〜〜♡可愛い〜♡」
「離してよっ」
むしろ可愛がっている。朔羅はウザがっているが。
「時間通りでしょ。ほら、神流ちゃん」
「あ、えと、宜しくお願いします…」
「…ふん」
ぶっきらぼうだ。その態度がよほど気に入らなかったらしい。紫穂の方が苦言を呈した。
「朔羅。神流様に対して些か無礼ではないのか」
「……ちょぉっと褒められただけですぐ媚び売っちゃって。それ、“外の世界”では尻尾を振る“犬”って言うらしいわよ?貴女にぴったりね」
毒舌が凄い。
え。こんな美少女からとんでもない言葉が聞こえたんだが。
「もう朔羅ってば。神流ちゃんびっくりしちゃってるわよ?」
「別に良い。嫌なら教えないから」
そうだ。神流は、これからこの世界の事を教わる予定でここへ来たのだ。
「よっ、宜しくお願いします!」
「…………少しでも気に入らない態度を取ったらすぐ追い出す」
七大守護者の一人、睦美 朔羅。
最年少にして大人顔負けの頭脳を持ち、次期当主よりその才を認められた者。
歩く辞典。生きた歴史書。
気難しい性格とは裏腹に、その知識量は目を見張るものがある。
「…大昔、海底にあるこの世界は、“外の世界”と同じ海の上にあった」
世界地図を広げ、朔羅が淡々と語り出す。
「––––ある日世界地図を書き換えるほどの大地震が起きた。大部分は地上に残ったけど、一部の土地が海の底へ沈んだ。それが、ここ、アーメイドが住む世界」
「…アーメイド…」
「私達の事。海の中での呼吸に順応し、水圧に耐えられる体を手に入れた当時の種族は、海の女神である『綿津見』から太陽神の恩恵を与えられる事で海底で新たな文化を築き、今の環境を作り上げた」
太古の大地震。海底に沈んだ都市。
十分に有り得る事だ。
「“外の世界”の人間はここへは来られない。それは、呼吸が出来ない事と、水圧。けれどもそれ以外にも要因はある。『綿津見』が招き入れたアーメイドの血を引く者だけが、この海底都市に辿り着けるの」
呼吸と、水圧。それは、陽苑も言っていた。十分に納得出来る理由だったが。それ以上に。
「……アーメイドの、血…?」
「自覚していないだけで、貴女にもその血が流れているという事」
色々あり過ぎて忘れていた。大事なこと。神流は唐突に思い出した。
「……………じゃあ、お母さんは…」
「…お母さん?」
訝しげに、朔羅が首を傾げる。
「わ、私、元々船に乗ってて…。お母さんと一緒に…。船が、沈んで…、みんな、海に……。お、お母さんも……」
すると、当然と言うように、その言葉を口にする。
「ここに来られない人間は、全員死ぬわ」




