10.人たらし
それから数日後。
紫穂は面白いくらいに神流に懐いた。
「神流様。本日のお召し物はこちらでいかがでしょう」
「…紫穂?」
「ああでも神流様の珊瑚色のような優しい髪色にはこちらの藍色の方が映えるか…」
珊瑚色。海底ではピンク色をそう呼ぶ。淡い桃色で神流の髪の色だ。
「…紫穂〜?神流ちゃん風邪ひいちゃうわ」
「えっあ!すみません、神流様はどちらをお召しになりたいですか!?」
「…こっちで」
「……なるほど、やはり藍色と金。神流様はお目が高い」
いや、単純に地味で落ち着いた柄のデザインが良かっただけです。
神流は、自分がよそ者である事を理解している。故に、出来るだけ皆と同じで目立たない服を選んだのだ。
来た日こそ、すれ違う周囲の好奇の目に気付き、そして緊張していたのだ。
蒼緋に「正装だ」と言われたあの衣装は、神流に言わせればめちゃくちゃ目立つ主役のデザイン。出来ればああいうタイプはもう着たくない。
七大守護者と呼ばれる聖藍達が落ち着いた衣装(デザインや装飾は凝っていたが)なので、極力彼等と似たデザインに寄せた。
紫穂が選んだ衣装がちょうど、その目立つデザインと地味なデザインの両極端だったので、神流は地味な方を選んだというわけである。
「…さすが、神流様は何をお召しになってもお似合いですね」
「………」
「えらい懐きっぷりね〜」
別に、特別な事はしていない。
護衛として紹介された時、組み手の様子を「カッコイイ」と素直に褒めただけだ。
けれど、それがきっかけで紫穂は誰に言われるでもなく進んで神流に付き従った。
仮住まいである神流の部屋の隣に居を移すほど、である。
「神流ちゃんて人たらし、なのかしらね」
「た、たらしこんでません」
「じゃあ才能だわ」
「そんな事ないもん」
「“もん”だなんて可愛い!」
「神流様はいつだって可愛らしいですよ」
「「………」」
紫穂の豹変振りはさて置き、着替えを済ませたのち蒼緋の案内でとある場所に向かった。
この世界の事を学ぶべく、朔羅の元へ。
……外を歩く時、地味なデザインにしてても、やはり顔を見ればよそ者…“外の世界”の人間だと分かるのだろう。
住民の視線が、かなりの数が神流に注がれた。
蒼緋と紫穂がいる為近付こうとする者こそいなかったが、そういう視線に慣れていない神流は非常に居た堪れない。
というのも、視線の中に良くないものも混じっていたからである。
不思議と、神流はそれが手に取るように分かった。




