9.護衛
「最後に、陽苑と蒼緋。二人とも既に顔を合わせているが、改めて自己紹介を」
「はい。澄乃江 陽苑と申します」
「華平 蒼緋でーす」
この二人だけ非常に軽い。周りが重苦しい空気を出しているので、神流を安心させるべくあえてこんな態度をしてくれるのだ。
「そして俺が宇津木 聖藍。こいつらを取りまとめるのが俺の役目だ。ここにいる者は信用していい」
「は、はい…?」
聖藍の言う「信用していい」の意図が分からず、反射的に返事をしたものの。
(…危険な世界、なのかな)
「紫穂が護衛に着くとはいえ、決して一人にはなるな。誰かからの言伝だとしても、必ず俺達誰かの指示を仰ぐ事。いいな?」
「は、い」
(やっぱり危険な世界なのかな!?)
「では、柚樹」
「…はっ。ひとまずはまだ“神託の娘”の存在に気付いた国はありません。北方が怪しい動きを見せておりますが、いつものでしょう」
「よし。引き続き警戒を。各々、己の役割を忘れるな。決して“神託の娘”を奪われる事がないよう、細心の注意を払え」
「「「「「「はっ」」」」」」
幹部会議とやらが早々に終わると全員が立ち上がり、神流の護衛にと任命された紫穂が正面に跪いた。
「…神流様の護衛に任命されました、天草 紫穂と申します。どうぞ、紫穂とお呼びください。この命に代えても神流様をお護りいたします」
とても仰々しい挨拶である。
「あ、あの。紫穂、さん。そんなにかしこまらないでください…」
大層な暮らしをしてきたわけではない神流には、この挨拶はかなりの壁を感じたのだ。
「…わたくしめに、敬語は不要でございます。呼び方も、敬称ではなく呼び捨てで構いません」
「え、いや!あの…」
頑なな姿勢に助け舟を出したのは、すっかりお姉さんムーブなこの人。
「紫穂〜?神流ちゃんが縮こまっちゃうから、もっと柔軟にね」
「…柔軟」
「蒼緋姉さん!」
「ごめんね。家が厳しくて、天草家は大体“こう”なのよ。珍しいのは兄の颯紫くらいだわ」
「…兄の。あ!そういえばさっき庭?で組み手やってた…」
「そう。俺と紫穂だ。初めまして、お嬢さん」
思い出した神流の声に返答するように、背の高い男性。人懐こそうな笑顔で妹の紫穂とは対照的である。
「煩くなかったかな。悪い、時間があればどこでも鍛錬する癖がついてて」
「いえ…!」
ちら、と紫穂を見て。美男美女の並ぶ姿は絵になるなとただそれだけで。
「お二人とも、凄くカッコよかったです」
その言葉に目を見開いたのは紫穂。
こんな真正面からまっすぐに褒められた事がないのだ。真顔で固まってしまい、その反応に神流も困惑する。
「…?…」
「…ふ。ああ、すまない。妹は褒められ慣れてないんだ」
「……兄上」
少しだけ、不服そうに兄を見つめ(睨んで)、紫穂は神流に向き合った。
「……紫穂、です。その……口調は、難しいので……今は、これでご勘弁を……」
少し顔が赤い。
が、悪い気にはならなかった。それだけ、紫穂の真面目な態度に好印象が持てたのだ。




