第2話『リリィと秘密の扉』
カフェ・ルアンの奥にひっそりと佇む古びた扉。気になった結衣は、そっと手を伸ばした。
触れた瞬間、空気が揺らぎ、目の前がぼやけて――気づくと、自分の部屋の布団の上に横たわっていた。
「えっ……いつの間に?」戸惑いの中で時計を見ると、ほんの数秒しか経っていないように感じられた。
あの扉は、一体何なのだろう。そんな疑問を抱えながらも、結衣はその晩、不思議な夢を見た。
翌日、体育の授業中、運悪く足をひねってしまった結衣は、痛みをこらえながら保健室へ向かっていた。
だが、歩いているうちに視界が揺らぎ、次に気づくと、またあのカフェの店内に立っていた。
「おかえり、結衣」店内の柔らかな灯りの中で、リリィが優しく微笑む。
「え……リリィ?なんでここに……?」
リリィはにこりと笑って、「ここは、あなたの居場所。疲れた心を癒すための場所よ」と話した。
「昨日の扉のこと、気になってたんだね?」
「うん……触れたら急に家に戻っちゃって、夢みたいだった」結衣は正直に打ち明けた。
「その扉はね、女の子だけが入れる秘密の部屋へ繋がっているの。疲れた時や辛い時、ここでゆっくりしてほしいの」
リリィに促されて、結衣は扉の向こうへ一歩踏み出した。
そこは、温かな光に包まれた小さな触れ合いルーム。柔らかなソファとふかふかのクッションが並び、壁には癒しの絵画が飾られている。
「ここなら、誰にも邪魔されずに自分の気持ちを休められる。無理しなくていい場所だよ」
結衣はそっと深呼吸をすると、心の奥にあった重いものが少しずつほどけていくのを感じた。
「ありがとう、リリィ。ここに来てよかった」
「いつでもおいでね。私はここで待ってるから」
静かな時間が流れ、結衣は少しだけ前よりも強くなれた気がした。
秘密の扉の向こうには、ただのカフェではない優しい世界が広がっていた。