第1話「ようこそ!カフェ・ルアンへ!」
朝のチャイムが鳴り終わると同時に、教室のドアが勢いよく開いた。
「佐倉!遅刻はだめでしょ!」先生の声に、結衣は深く頭を下げた。寝坊してバタバタと学校に駆け込み、今日のスタートは散々だった。
放課後、いつもの道ではなく気づけば細い裏路地を歩いていた。夕暮れの柔らかな光に照らされて、小さなカフェの看板が目に入る。
『Café LUAN』。文字は優しく輝き、どこか懐かしい雰囲気を醸し出していた。
扉を押すと、鈴の音が軽やかに響いた。中には木の香りと甘い香りが漂い、静かな音楽が流れている。そこには誰かの優しい気配があった。
「いらっしゃいませ」声の主は、まるで女子高生のような制服姿の店員だった。大きな瞳に優しい笑みを浮かべている。
「私の名前はリリィ。ここカフェ・ルアンの店員よ。疲れた心をそっと癒す場所だから、どうぞゆっくりしていってね」
結衣は少し緊張しながらも、口を開いた。
「私は佐倉結衣。学校は苦手だけど、今日みたいな日は少しホッとしたいなって思って……」
「そうだったんだね。ここなら、きっと居心地よく過ごせるよ」
「ありがとう、リリィさん」結衣は窓際の席に座った。メニューを見ると、気持ちに寄り添うような飲み物ばかり。リリィがおすすめしてくれたのは、ふんわり甘いホットココアだった。
飲み物を口にすると、今日の疲れが少しずつ溶けていく気がした。店内の奥には、誰も気づかないような古びた扉がひっそりと佇んでいる。
(この扉……なんだろう?)
結衣の胸に、小さな好奇心が芽生えた。
――ここは、ただのカフェじゃないのかもしれない。