【会議一日目、朝――最初の犠牲者】
――悪夢の会議の、はじまりはじまり。
朝なんてものは存在しない。
私にあるのは昼と夕方と夜中だけ。
夜は人ならざるモノたちの時間。精霊たちがより活発に動くせっかくの好機を、惰眠を貪って逃してしまうなんて、もったいないにも程がある。
――だから。
「ほらっ、お師匠! いいかげん起きてください!」
――私が朝にめっぽう弱かったって、何の問題もないでしょ?
私の名はマリアナ。洗礼名はジルケ。でも洗礼名を名乗ることなんかない。だって、私が洗礼を受けたのは、信仰心からじゃない。ただ、学都シュテファニアの学校で学ぶために洗礼が必須だったから。
小さな頃から、私には霊感に近いものがあった。まだ5歳にも満たない頃は、大人たちには決して見えない「なにか」とよく遊んでいたらしい。それからずっと、私は自然を司る「精霊」たちの存在を疑ったことなんてない。
学校で自然学を専攻して、でもその学問のあまりのくだらなさには呆れた。人間の科学なんて、見えないものを全否定するひどく傲慢かつ不完全なものなのに、自然学は科学によってがんじがらめに縛られて、「精霊」について学びたいと言おうものなら、鼻で笑われればまだ良い方。ひどいときなんて、虫けらか汚物でも見るような目で見られた。「学問」というものに失望した瞬間だった。なんてくだらないのかしら。もう見えているものを必死こいて見ようとするより、見えないものを見る方法を知る方がよっぽど素敵なのに。
だから、数年間は我慢して学校卒業だけを考える辛い時間を過ごし、その反動で私は学都にいた導師に弟子入りした。師匠は、成長と共に能力が衰えていった私と違い、完全な能力者だった。それでも、死にもの狂いで食らいついて食らいついて、ついに「精霊」と会話する方法をものにした私は、嬉々として故郷であるこのフィライデン村に帰ってきていた。それが8年前のこと。今は、養女であり弟子でもあるパミーナと共に、変わらず「精霊」の研究を進めたり、村の人のために占いをして生計を立てている。
そのパミーナが、無情にも私の毛布をはぎ取り、カーテンをジャッと勢いよく開けた。眩しい光がかび臭い部屋に差し込む。……灰になってしまいそう。
「もー、師匠、いい加減に生活リズムをなんとかしてくださいよ。朝ごはん作れないじゃないですかぁ」
「ゔぅー……無理ぃ……」
「無理じゃないです! 大体遅くまで起きっぱなしなのがいけないんですよ!」
「だってぇ……」
寝台の上でぐずぐずしていると、腕を腰に当てて仁王立ちしていたパミーナが、
「……朝ごはん、山菜オンリーにしますよ」
と鬼のようなことを言う。
「それは嫌! 苦いし! 気持ち悪いし! 苦いし!」
「好き嫌いが激しすぎです。そんな嫌ですか……これじゃどっちが親かわかったもんじゃないですよ、お師匠」
ガバッと起き上がった私を見て、パミーナがあきれ顔でため息をついた。
「卵はどうします? ゆで卵か炒り卵か卵焼きか」
「ゆで卵一択!」
「だろうと思いました。ちゃんと目ぇ覚ましといてくださいねー」
軽く笑ったパミーナが部屋から出ていく。いやはや、良い家政婦――げふんげふん、良い弟子を持ってお師匠は幸せねえ。
「まったく、昨夜あんな嵐があったのに、お師匠はいつもと変わりませんねえ」
「嵐! あの嵐はすごかったわね! 水の精霊ヴァルトルーデが予言していたとはいえ、あれほどまでとは思わなかったわ! あの雷、屋根に叩き付けるような激しい雨! ああ、なんて素敵なのかしら! あれこそ大自然のあるべき姿よね! 人間には決して支配することができない、大いなる自然の象徴よ、嵐というものは!」
「あー、はいはい。お師匠、すっかり目が覚めたみたいで良かったです」
「ちょっとパミーナ! 真面目に聞いてるの!?」
「聞いてますよお、もう何百回も。嵐がくるたんびに同じ話をするんですから」
台所の方からするパミーナの呆れた声。前言撤回、やっぱり良い弟子じゃないわ。この世界の美しい真理を全然わかってないもの。まあ、まだ修行が足りない子だし仕方ないわね。
昨日の嵐を彷彿とさせる曇り空を窓の外に見受けながら、仕方なく布団から出ると、突然家の扉が勢いよくノックされた。
「はーい? ちょっと待ってくださーい。――どうしたんでしょうね?」
パミーナが扉の向こうに答えつつ、パタパタと玄関の方へ向かう。私は跳ねた髪を手で撫でつけながら部屋を出ると、パミーナが空けた玄関扉から、転がり込むようにしてフレデリックが入ってきた。
「た、たたた大変です! すぐ来てください! クララさん、クララさんが……!」
つっかえつっかえになりながら、乱れた息を整えることなく叫ぶフレデリック。いつにも増して慌てた様子の彼に、ただならぬ雰囲気を感じて眉を顰める。
「クララが? どうしたの?」
「……殺されたんです!」
「えええ!?」
パミーナが驚いて皿を落とす。パリ―ン! と甲高い音がした。
「と、とにかくすぐ来てください!」
「行くわよ。パミーナ」
「えっ、ああ、はい、えっと、あの、皿が……」
「そんなのいいから!」
「はいい!」
私たちは、フレデリックに続いて、クララの家へと走り出した。
「これは……」
「ひ、ひどい……」
村の花屋の隣にあるクララの家には、嗅ぎ慣れない嫌な臭いが充満していた。私たちの他にも、結構な数の野次馬が来ている。
村人たちの頭の間から覗くと、木の扉が破壊され、中に見える家具や衣類がぐちゃぐちゃに破壊されているのが見えた。それらに飛び散る赤い染みが何なのか、言葉にするのはあまりに残酷だろう。
「うわぁ……」
傍らにいたパミーナが、眉をひそめて、口元を歪める。
そうこうしている間に、家の中からギルベルトとアントンが現れた。2人で木でできた担架を運んでいる。布を掛けられた担架の上に乗っているのは、……クララの遺体で間違いないだろう。
野次馬の中から、牧師のオスヴァルトが現れた。担架の前に歩み寄り、十字を切る。
「クララの魂が安らかに神の楽園へ招かれんことを」
そう祈りの言葉が聞こえた。クララは私と違って敬虔なギーマ教徒だ。まあ、そういうお祈りをしてもらって悪いということはないのでしょう。……神の楽園なんてものがあるとは思えないけどね。
オスヴァルトがギルベルトとアントンに向かって静かにうなずくと、それにうなずき返した2人は、また足を踏み出す。墓地へ行くのね。クララを埋葬しに。
かと思ったら、今度は野次馬たちの中から、車椅子に乗ったエルザが現れる。
「クララ! クララ! ああああああ……!」
車輪を自分で回転させながら、必死で担架を追いかけようとするクララを、オスヴァルトがそっと止めた。
「――エルザ、いけません。体に障ります」
「嫌だ! 放してください、牧師さま! クララ、クララが……!」
「こっちにおいで、エルザ、興奮しすぎるとよくない」
人の群れから、リサが声を上げる。泣きわめくエルザの車椅子をオスヴァルトが押して、声のした方へ運んでいく。そういえば、リサはエルザの主治医代わりだったわね。
「これは何の騒ぎだ」
突如、凛とした声が後ろから聞こえた。振り返ると、村長であるエドヴィンとその秘書ベンヤミンが来ている。誰からともなく道を開け、二人はクララの家の方へ歩いて行った。
「エドヴィン様。クララが、何やら獣に襲われたらしく、このような有様で……」
オスヴァルトが答えると、エドヴィンはクララの家の中を見て顔をしかめる。
「人狼だね」
「人狼だ」
その場に響いた幼さの残る2つの声に、ざわ、と騒ぎが大きくなる。前に進み出たのは、双子の姉妹のエラとベラだった。
「こら、2人とも何を言っているの!」
母親であるティラの言葉を無視して、手をつないだ姉妹は話を続ける。
「おばあさまが前に言ってたもの」
「人狼が夜に人を喰い殺すって、言ってたもの」
「おれも聞いたことある! 人に化けてる怖い怪物なんだよ!」
話に乗って、ドミニクが大声を上げた。それを皮切りに、村人たちが好き勝手に話し始める。
「ということは、この村に人狼が……?」
「待てよ、子供の言う事だろ?」
「でも、あの有様は……」
「それに、もし本当だったら、今日の夜はまた別の誰かが……」
「怖い」
「早く何とかしなきゃ……」
「ええい、静まらんか!」
エドヴィンが声を上げ、その場の騒ぎがぴたりと止まった。
村人たちの視線がエドヴィンに集中する。彼は咳ばらいをして、厳かに声を上げた。
「そこの2人の言う通り、これはほぼ間違いなく、人狼による襲撃だろう。もし理性のないただの獣が村に下りたのだとしたら、畑や牧場を襲うでもなく、村全体に襲い掛かるでもなく、クララの家をピンポイントに襲うことはない。増して、昨夜は酷い嵐だった。普通の獣ならば、縄張りで嵐が過ぎるのを静かに待つだろう。とすれば、これは、我々人間に紛れ、身を潜め、人間の血肉を喰らうことを目的とした人狼によるものだ。異論はあるか」
「…………」
誰も何も言わない。そりゃそうよ。間違ってないもの。そうでなくとも、誰も好き好んで貴族に逆らいたくはない。
私たちの反応を見たエドヴィンが続ける。
「そうだろう。ならば考えられることは1つ。我々の中に、人に紛れ、人を騙し、人を喰らう化け物、人狼が紛れ込んでいるということ。人狼はこの先も夜な夜な正体を現し、我々を1人1人喰らい殺すことだろう。このまま何もせずにいれば、我々は滅びる他ないというわけだ。……それを防ぐ方法はたった1つしかない。そうだろう、オスヴァルト」
エドヴィンが、振り返ってオスヴァルトを見る。つられて皆の視線がオスヴァルトに向いた。彼は話を振られることを予測していたのか、そう驚くこともなく、静かにうなずいた。
「人狼――それは、我々人間を騙し、喰らう化け物であり、『邪悪・虚偽・疑心』の3つの不徳を犯す我々の宿敵であり、そしてまた、神が与えし最大の『試練』の象徴でもあります。その人狼を排除する方法は、《永約聖書》に示されし“人狼会議”によって、人狼を断罪し処刑することのみです」
“人狼会議”。
ギーマ教において最高位の経典とされる《永約聖書》に記された、《人狼会議列伝》で行われる、儀式にも似た会議のこと。実在する化け物、人狼を悪魔として描き、それを特別な力を持った“五英傑”と呼ばれる神の使者たちに率いられた人間たちが、会議によって人狼を退けた伝説に基づいて、実際に人狼と戦うために使われる手法である。
もちろん、私もそれをよく知っている。一応ギーマ教徒だし、学都シュテファニアの学校でも必修科目としてあった「ギーマ教入門」の授業で耳にタコができるほど聞いた。
私がそんなことを思い返している間にも、オスヴァルトが言葉を続ける。
「とはいえ、ここは聖堂でもなければ閉ざされた館でもなく、生活が労働によって成り立つ村ですから、1日のすべてを会議に回すことはほぼ不可能でしょう。そこで、恐れ多くも“五英傑”が1人“大司祭ズィリック”様の代理人として提案いたします。1日の半分はこれまで通りに、それぞれが行うべき仕事を全うしましょう。昼過ぎに、広場に集まって“人狼会議”を行います。日が沈む頃まで会議をして、誰を処刑するべきか、《永約聖書》に基づいて多数決で決定します。日の入りと同時に処刑を行い、夜が過ぎるのを待ちます。――人狼は皆が寝静まった夜にしか活動しません。それでも問題はないかと思いますが、いかがでしょう、エドヴィン様」
“大司祭ズィリック”ねえ……その名前をまた聞くことになるとは思わなかったわ。
“大司祭ズィリック”というのは、オスヴァルトの言葉通り、“五英傑”の1人として《永約聖書》に描かれる伝説上の人物のこと。信心深い彼は神から《聖なる護り》という特殊能力を得て、人狼からの襲撃で全く傷つかなかったという。今でもギーマ教の聖職者はその力を受け継いでいるって話だけど、さて、本当なのかしらね。
何はともあれ、オスヴァルトがそう言うと、エドヴィンはベンヤミンと目配せをして、それから大きくうなずいた。
「いいだろう。皆の者、それで異存ないな」
少しどよめく村人たち、けれど相変わらず異を唱える者はいない。
すると、エドヴィンの傍らにいたベンヤミンが1歩前に足を踏み出した。
「では、牧師オスヴァルトに倣い、私も“五英傑”が1人“賢者シュテファン”の代理人を名乗りましょう。私が、今回の“人狼会議”の議長を務めさせていただきます」
声高く、ベンヤミンがそう宣言する。
“賢者シュテファン”は“人狼会議列伝”の中でも議長を務め、その明晰な頭脳により人狼の巧妙な嘘を見抜き、人狼撃退に大きく貢献した人物。今彼の名は、学都シュテファニアに受け継がれ、学校でも彼のような明晰な人物の育成に力を入れている。……まあ、ベンヤミンは大学を首席で卒業したらしいし、そう名乗っても構わない人物ではあるわね、一応。
「オスヴァルトの提案通り、昼過ぎまではこれまで通り過ごしてもらいます。陽五刻(およそ午後三時半)に広場に集合、一刻(一刻は二時間二十四分)の間会議を行い、陰一刻(およそ午後六時)に処刑者を決定します。異論はありませんね。それでは――」
「ちょ、おい! さすがにちょっと待てよ!」
エドヴィンが現れてから初めて、野次馬の中から大声が飛び出した。声の主はノーマンね。
「何であんたらが全部決めてるんだよ。人狼が誰なのか、誰にもわからないんだぜ? あんたらが全員人狼で、俺たちをうまいこと丸め込んで自分たちの都合が良いようにしてるって、そういう可能性だってあるだろ?」
「まあ、確かに」
ヒューベルトが賛同の声を上げる。この2人の意見が合うなんて珍しいわね。よく知らないけど、ノーマンはヒューベルトに怒られてるところしか見たことないわ。
それを聞いたオスヴァルトが、そっと目を伏せる。
「そうですね……ギーマ教の聖職者である私が人狼であるとはあまり考えてほしくはありませんが、もしそれを疑っていたとしても、私たちのこの提案は決して人狼にとって有益なものではないということはわかってほしいですね」
オスヴァルトのその言葉を受けて、ベンヤミンが畳みかける。
「それに、それ以上の妙案があるというのですか? ノーマン」
「う……それは……」
「私が人狼であるかどうか、それはそれこそ、会議のときに議論すれば良いこと。皆の決定ならば、私は処刑も受け入れましょう」
「……うーん」
「他に意見は?」
ベンヤミンが村人たちを見回す。すると、おずおずと手が上がった。
「あの……すみません」
サマンサがそんな声と共に歩み出る。サマンサは、確か教会でオスヴァルトの元で働いている修道女だったわね。
「牧師様やベンヤミンさんが人狼であると疑っているわけではありません。ただ、1つだけ。……処刑は、必ず行わなくてはいけないのでしょうか?」
「と言いますと?」
「毎日必ず処刑をしなければならないと決めてしまうと、それは人狼ではない人を処刑してしまうことに繋がってしまいます。人狼であると確証がついたときだけ処刑するのではいけないのでしょうか?」
「それでは駄目だ」
オスヴァルトでもベンヤミンでもなく、しばらく黙っていたエドヴィンが答えた。
「なぜですか?」
「そんな悠長なことをやっている暇があると思うか? 人狼は襲撃を待ってはくれんぞ。人狼の数は確実に減らないまま、人間の数は確実に減っていく、そんな状況が許されるはずがない」
「そんな、昼と夜で2人人間が減ってしまうより良いんじゃないですか?」
「さて、人狼以外の人間が必ずしも村の人間の味方とも限らんしな」
「え……?」
エドヴィンの意味深な言葉に、サマンサは次の言葉が出ない。
「ま、潜んでるのが人狼だけとも限らないし」
突如響いたその言葉は野次馬の中から響いた。今のは……誰の声だったかしら?
「る、ルイスさん。どういう意味ですか?」
サマンサの声にやっと気が付く。ルイスね。彼いつもあんまり喋らないし、そもそも釣りばっかりして村にいないから、顔はともかく声なんか覚えてなかったわ。
「別に、そのままの意味だけど。人狼が大暴れしてる影で、こっそり勝利を狙ってる別の人外だったり、あるいは人狼信者の人間だったり、色々いるかもねって話。そうなると、人狼かどうかなんてどうでもいいのかもよ。人間にとって有益か有害か、重要なのはそれだけかも」
「…………」
重苦しい沈黙が辺りを包む。……これは、どういうことかしら。空気が、今のルイスの言葉を肯定しているように感じられた。皆はこの空気を感じ取っているのかしら。
「――とにかく」
沈黙を破ったのはオスヴァルトだった。
「“人狼会議”は、できうる限り《永約聖書》に則って行われるべきです。多少我々の生活リズムに合わせることはあっても、根本的に変えてしまうとそれはもう“人狼会議”でも何でもない。神の教えに反することをわざわざお勧めはしません」
「そうだな。他に意見は? ……ないな? では陽五刻まで解散。それまで何をしようと、誰と何を話そうと自由だ。――どこで誰が見聞きしているかわからないということだけは覚えておくのだな」
エドヴィンの言葉に、全員押し黙る。今の脅すような言葉、少し気になるわね。
この淀んだ空気を気にすることなく、エドヴィンは「行くぞ」とベンヤミンに声をかけ、その場から足早に立ち去る。金縛りから解けたように、1人、また1人とその場から去っていった。
「うわあ……なんだかとんでもないことになっちゃいましたねえ、お師匠」
どこか緊張感に欠けるパミーナの声が横から聞こえた。まったくこの子ったら。
「そうね。……でも、ようやく私の力を人々の役に立たせるときが来たようだわ」
「え? それってどういうことですか?」
「いい、パミーナ。大いなる自然の一部である精霊たちに隠し立てなどできないのよ。……“大司祭ズィリック”、“賢者シュテファン”の代理人がいるのなら、“聖導師マリウス”の代理人がいたっておかしくないでしょう? ……やってみせるわよ。この村の中に潜む人狼の正体、必ずや白日の下にさらしてあげましょう」
“聖導師マリウス”というのは、“人狼会議列伝”に登場する“五英傑”の1人のこと。夜の間に、選んだ相手が人狼かそうでないか見極める能力を持っていた。そして、この私も精霊に問いかけることで同じことを再現することができる。実践したことはないけど、その方法は理論上確立している。この村に“聖導師マリウス”の代理人がいるなら、それは私を置いて他にはいないでしょうね。
思わず口元が歪む。見せてあげるわ、私の能力を内心、あるいは見るからに馬鹿にしていた連中に。村の役に立つことで、私のこれまでを、これからを、私はようやく自他ともに正当化できる。否定され、蔑まれ、黙殺されてきた日々に終わりを告げるの。
「お、お師匠~。なんか怖いですよ、笑い方が」
「ふふふふ……見てなさい、人狼ども。私のいるこの村で行動を起こしたこと、後悔させてあげるわ。人間だろうと人狼だろうと、大いなる自然、大いなる精霊の力の前では矮小な存在にすぎないのよ!」
「あ、ダメだ。お師匠どっか行っちゃった」
「さあっ、パミーナ! 早速戻るわよ! 今夜から早速占いの儀式をするための準備をしないと!」
「あああ、待ってくださいよお師匠~」
意気揚々と家までの道を急ぐ。後ろからよたよたとついてくるパミーナの腕を引いて、私は村外れに続く小道を全速力で駆けた。