【会議前日、夜――最後の夜】
日が完全に落ちて、夜になってしまうと、だんだんと家に帰り出す人が増えてきた。
特に、小さな子供やその親御さん、次の日の朝早い人たちがそれぞれ帰って行く。
「今日みたいな素敵な日を過ごせてよかったです。本当に、よかった」
帰り際にぽつりと溢したユリアさんの言葉が、いやに耳に響いた。
私も、リサさんと一緒にエルザをお家へ送り届けて、お店に帰ってきていた。
明日は朝からお祭りの後片付けをしないといけない。片付けまでがお祭りだ。きちんと花飾りの処理をして、明日からまたいつも通りの毎日を過ごすために片付けてしまわないと。
明日の準備をするためにお店に戻ると、カウンターの上に見覚えのない紙が置かれているのを見つけた。
「あれ……?」
呟いて手に取ると、どうやらフレデリックさんが手紙を届けてくれたみたい。封筒の隣に、
『朝お届けするのを忘れてました。ごめんね。手紙のお届けです フレデリック』
と書かれた紙が置かれていた。
封筒を拾い上げると、差出人のところに両親の名前が書いてあった。この間送った手紙の返事かな。準備が終わったら読もう。読んで、また返事を書こう。
私はエプロンのポケットに手紙を大事にしまうと、明日の準備を始めた。
家に戻って、書き物机の上のランプを灯す。封筒を開けて中身の便せんを取り出すと、懐かしい街の香りがした気がした。
さあ読もう、と思った瞬間のこと。
ピシャ―――――――ン!!
という、すさまじい音と共に、窓の外に稲妻が光った。
「きゃっ……!」
思わず手紙を取り落とす。び、びっくりした……と、胸を撫で下ろす。今日一日いい天気だったのに、どうして急に雷なんて落ちるんだろう、と疑問に思いながら窓の方へ歩く。外を見ると、さっきまでの星空が嘘のように曇って、どろどろとした溝色のとぐろを巻いていた。
ゴロゴロゴロ……と雷が唸る。でも、異変はそれだけじゃなかった。
オオ―――――――――ン……
何か、妙な音がする。例えるなら、何か獣の遠吠えのような。不穏な空気が辺りを流れている。今までこの村でこんな異常な状況はなかった。一体どうしてしまったんだろう。まるで私が知らない場所みたいに、景色がよそよそしく冷たい。
ピシャ――――――――――――ン!!!
また、大きな雷が落ちる。
それと同時に、バキッ!! と大きな音が、比較的近くから聞こえてきた。
「!?」
音の方を振り返ると、木の扉が真っ二つに割れていた。いや、破壊されていた。
割れた扉の奥に、黒い影がたくさん見える。
「あ、あなたたちは……どうして?」
私の震えた声に答える者はいない。
次の瞬間、影が私に襲い掛かる。抵抗する間もなく、視界全体が赤くそまり、そして意識ごと全て消えてしまった。
最期に感じたのは、鋭く熱い痛みと、獣のような荒い息遣いの音だけだった。
――この世界には、人間以外の知的生物が何種か存在する。
天使、妖狐、死神――そして、人狼。
今宵、神聖ルスタ王国フィライデン村において、人に紛れ、人を騙し、人を喰らう化け物、人狼による最初の犠牲者が発生した。
いよいよ、《永約聖書》に記された“人狼会議”が幕を上げる。
フィライデン村の住民は、全部で30人。犠牲者となったクララを除くと、残り29人。
最後に生き残るのは、人間か、人狼か、はたまた……。
悪夢のはじまりへ、ようこそ。