現実は小説より奇なり 上
初心者で初投稿です。お目汚し失礼いたします。
編集の仕事はしたことがないため、誤りがあったらすみません。また、ページの変え方がわからず、少し変は空白になってしまいました。申し訳ありません。
『私、殺し屋になろうと思うの』
………………………………何故そうなりましたか?
はじめまして皆さん、こんにちは。三角明と申します。
昔からそそっかしい所が欠点で、テストではいつも三角を付けられたため、渾名は【さんかく】くんな三角明と申します。
この渾名により、小学中学と三角形の問題が出る度に
『お、三角ー。三角だし答えてみるか!』
と毎度当てられ答えされられる日々で、見事に数学が嫌いになったのは良い思い出です。図形を見るだけで吐き気がします。
数学が嫌いになり数字も嫌になった頃に文学にハマり…今現在は編集の仕事をさせて頂いております。出版社といえば締切も守れず逃走する作家さんたちを捕まえたり、アイディアを出すために打ち合わせで無茶振りされたりという事が待ち受けているのではないかと入社するまでは思っていました。しかし、僕が担当する作家さんたちには、特別手がかかる方もおらず、逃走案件やよく分からない無茶ぶりなどもなく、日々定時上がりが出来ております。感謝しかありません。日頃の僕の行いが良いおかげだとも思っております。さて、今日は担当の先生の1人と次回作の打ち合わせに来たのですが…帰りにジムに行きたいのでできるだけ早めに終わりたい所存です。
ピンポーン
「先生ー、三角です。打ち合わせに参りました。」
「はい、はーい。今開けるねー」
パタパタと音を立ててドアを開けて出てきた一人の女性。街で出会った後に刑事さんに『この女性見かけませんでしたか?』と写真を見せられても、中々思い出せないであろう特徴のないこの人こそ、本日の打ち合わせ相手の住和有咲先生である。
「お茶入れるから、座って待っててー」
「ありがとうございます」
お茶の用意をする先生を尻目にちゃぶ台の前に座り、打ち合わせの準備をさせて頂く。脚の高いテーブルではなくちゃぶ台なのは、先生曰く『作業してると気付いたら近くの床に散らばってるから、机は高さがない方がいいんだよねぇ…』らしい。和室の雰囲気によく合っているものの、ちゃぶ台は脚が低いため、座り慣れてない僕からすると毎度足をしびれさせる難敵です。さて、今日はどうやって座ったものか…と、考えているとお茶を持った先生が現れる。
「いつも言ってるけど、足伸ばしてくれていいよ?」
「いえ、仕事中ですし…成人男性が足を伸ばしながら打ち合わせしているのってなんだか…こう、格好悪くないですか?」
「別に誰が見てる訳でもないからいいのに。」
「『格好悪い』を否定しないってことは、格好悪いと思ってますね?先生…」
出されたお茶を飲みながら、先生を睨むも涼しい顔である。内心少々苛つきながらも、打ち合わせを始めるために、とりあえず姿勢を治し正座をしてみる。……が、既に足が痺れているような気がする。
「で、先生。次回作なんですけど…」
「ああ、三角くん。ごめんね、あの……」
「どうかしました?」
「私、殺し屋になろうと思うの。」
「………?コロ、シヤ??」
「人を殺すのを生業とする人だね。」
「ああ、なるほど〜。」
……………………何故そうなったんですか?
ぽかんとした顔をしながら、先生の顔を見る。俯いた先生の前髪の隙間から、荒みきった目がチラリと見え、悲鳴をあげそうになるのをぐっと堪えた。無理無理無理、あんなの僕じゃお相手できませんよ。人一人くらい殺してそうな顔してませんでした?既に殺っちまった後ってことですか?どうする、どうしましょう…、うーーーあーーーーーー、と、とりあえずここはあえて平然と、『次回作のことですよね!』スタンスで押し切らせてもらいましょう。そして、明らかにヤバそうな雰囲気になれば、110番通報も辞さない構えです。
「えーっと、殺し屋!良いですね!!次の作品はダークヒーローで行っちゃいますか!もしくはヒロインが殺し屋でいきますか?前作の恋愛ものから外れたシリアスな感じ行くか、ラブ要素を多めに入れてダークなラブな感じにします?どうでしょう先生?」
頼む仕事の話で正気に戻ってください!と祈りながらも早口でまくし立て、先生の方を見る。話を聞きながらにこにこはしている様子にほっとしたのもつかの間、目は引き続き荒んでいた。
「違うんだ、三角くん。ごめんね。私が作家をやめて、殺し屋になろうと思うの。」
「なんでそうなりやがりましたか?」
「ありゃ、敬語がめちゃくちゃだよ。いや、ふふふ、どうしても殺さないといけない相手が出来たの…、ふ、ふふふふふ。絶対に殺す。」
「ひぃっ…だ、誰を殺すんですか?はっ!ま、まさか……」
「ん?」
「書きたくもない恋愛モノで連載までさせた編集長を?!」
「いや、書いてたら楽しくなってきたし、新しい刺激にもなったから、編集長には今では感謝してるよ。」
「じゃ、じゃあ!『これってジャンル恋愛ってかギャグじゃね?』と、せせら笑ってた副編集長を?!!」
「あいつそんなこと言っとったんか。今度シバいとけ。」
「ひぃっ…り、了解しました。副編集長の首は取ってきますので…僕だけは助けてくださいー!!!」
「いや、首はいらないよ?軽くシバいといてくれたら良いから。」
「軽く…?」
「なんか軽く嫌な目に合わせといて。」
「分かりました、考えておきます。」
と言われても相手は上司ですし、あまり攻撃的かつ僕だとわかることをして仕返しされても困りますし…副編集長を嫌な目に合わせる方法、何がいいでしょう。ベタに嫌いな虫の模型を引き出しに敷き詰めるとかがいいでしょうか?首をひねりながらも副編集長の嫌がりそうな事を悶々と考える。
「編集の人達じゃないから安心して。いくらムカついても普段会わない相手を殺すとまでは思わないよ、大丈夫大丈夫。」
「じ、じゃあ、一体誰を…?」
「元カレ。」
「へ?」
「あいつ、浮気してやがった。殺す。」
元カレ…?そういえば、僕が先生の家に来ると少し嫌そうな顔をしながら対応してくれていた男性を最近見かけないなと思っていましたが、まさかの浮気。
「しかも、私の元後輩と浮気してやがった…殺す。三角くんが来るたびに『仕事なのはわかってるけど、若い男の人と家で二人っきりは、俺嫉妬しちゃうな…』とか言ってたくせに!自分は!若い女と浮気かよ!!ぼろ雑巾の様にして殺してくれるわ!!!」
殺気強すぎませんか。あ、だから僕は毎度嫌な顔をされてたんですね。なるほど。って、現実逃避している場合ではないですね。えーっと、つまり、『浮気をしていた元カレを殺すために作家を辞めて殺し屋になる』と先生は激怒されているというわけですね。ということは、次回作を書く気もなく打ち合わせもできないと。ふむふむ……流石です先生、作家だけあって意味不明に思考が飛んで謎の着地を見せてますね。割と意味不明な事態ですが、僕の編集人生始まって以来最大のピンチかもしれません。なんとかしなければ…。
「えーっと、先生。」
「何?」
「あーーー、えーーーと、浮気は、よくない。良くないです!そうです、屑の所業です!!絶対に許されるべきではありません!!男の僕からしても許せないです!あの野郎!!」
「そう、そうだよね!」
「はい!毎度毎度僕のことも睨みつける程に自分は嫉妬深いというアピールをしているにも関わらず、自分は若い女性と浮気をするなど言語道断です!!」
「しかも私の元後輩だよ!!許さん…。」
「先生の身内に手を出すなど、余計に許されない行為ですよ!そんなやつは屑です!男として!!人間として!!!……しかし!先生がそんな屑のために手を汚し逮捕され、先生の小説をもう二度と読むことが出来ないなんて…僕を含め先生の小説を楽しみにしている読者は絶対に許せません!!」
「!う、で、でも…」
「しかし、先生の怒りも分かります。当然のことだと思います。信じていた男性に裏切られた怒りや憎しみはそう簡単に癒せるものではないと分かります。」
「み、三角くん…」
「なので!書きましょう!!先生!!!」
「へ?」
「その怒りや憎しみを先生の武器である文章にして、発散させましょう!!先生の手は人を殺す手ではなく、文章を書くための手です!!!」
「三角くん……なんか体よく書かそうとしてない?」
「……いやだな、先生。本心しか言ってないです。本気と書いてまじと読むやつです。」
少し目が泳ぎそうになりながらも、先生の目をしっかりと見つめ返す。嘘はついてないですし、後ろめたいことなんかないですし。どちらかというと、公私混同で急に仕事を辞めると言い出した先生の方が後ろめたいはずですし。思っていても言いませんが。ただ、編集長も『作家の経験を上手く作品に昇華できる様にするのも俺たちの仕事だ』っと言っていましたし、これだけ感情をむき出しにして怒っているなら、上手く誘導できれば面白い作品になるのではないかとは思いますが…。僕、編集者の鑑なのでは。
「でも、確かにそうだよね。目先の許せないって感情だけで奴を殺そうとしてたけど、実際殺したら捕まるもんなあ。」
「そうですよ。先生が殺人で捕まったら先生の本だって、販売中止ですよ。殺人者が書いたとかで黒塗りになるかもしれないですよ。」
「いや、戦時中じゃあるまいし流石にないでしょ。でも、販売中止は悲しいなあ…自分で書いたものは、我が子といっても過言ではないし…難産だった子もたくさんいるしなあ……うん。書くわ。三角くん」
「本当ですか!じゃあ、なんのジャンルにします?失恋経験を活かしてまた恋愛ものにしますか?それとも、今流行りの復讐ものとかもいいかもですけど…あ、でも、別に経験をそのまま活かさなくても、その熱量で全く別ジャンルのファンタジーとかも……」
「ううん、ミステリにする」
「…ミステリですか?」
「うん。奴を私の武器で殺してやる。」
にこりと微笑んだ先生を見て、もしかして変な方向に焚きつけてしまったのではないかと思ったが、完全に後の祭り状態。ただ、僕自身も先生の紡ぐ物語は好きなため、この後の打ち合わせてどんな発想が飛び出してくるのかを楽しみにしながらも、長期戦を覚悟ししびれた足を伸ばした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
本当はこの後の打ち合わせ風景も入れて『上』としたかったのですが、2人の掛け合いを書くのが楽しくなってしまい、予定より長くなってしまったため一度切らせていただきました。そのため、当初はこの話でミステリ要素を出したかったのですが、気付いたらギャグになってしまいました。
次からはミステリになる予定です。プロットは考えてあるので、頑張りたいと思います。