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奈月と楓の日常

9月16日。奈月と楓は気分よく目覚めた。2人は同じマンションの違う階に住んでいた。今日は休みだが、奈月たちはジュールたちにミニスカートの着用を義務付けられた。理由を聞くと「どうせ僕たちとやるから」だそうだ。でも魔法戦士の正規のコスチュームのチアはミニスカートの丈が短め。しかも10代向けよりもなぜか三十路向けの方が更に短め。上のシャツだってブラジャーが下から見えるか見えないかギリギリまでカットされた。市販のミニスカートの方が丈が長めだが、ふだん履かない奈月たちにはハードル高め。2人は外出したが、あまり遠出はしたくない。何しろこれから変質者が本気を出してくるからだ。パトネット愛知のメルマガでは夏以降変質者情報が乏しいが、鵜呑みにするバカはいない。「むしろ少ない時期の方が怖いわね」「そうね。見えない情報の方がある意味正しいわ」奈月たちは遠出を控えた。夏場に変質者情報が激減するのは必ずしも変質者の激減を意味しない。むしろ逆。誰もが呪い殺したくなるほどの名古屋の地獄の酷暑と悪魔の残暑が目くらましになってるだけ。帰宅した2人はふと下の階の人を思い出した。仮に上木原さんとしよう。上木原さんはたぶん統合失調症。いつも誰かと話しているが、その相手を見た人はいない。その相手についてはさまざまな憶測を呼んできた。イマジナリーフレンド説や宇宙人説。誇大妄想説に妖精説。中には端末を通して誰かと話しているんじゃないか?という人もいたが、それはない。声量が違うからだ。とにかく地声がデカくてよく通る。奈月たちは彼と面識がなく親しくもないが、毎日必ず声を聴く。「最近あの人の声聴いてないわね」「そうね。大丈夫かしら?」するとかすかに上木原さんの声が聴こえた。奈月たちは安堵した。名古屋の悪魔の残暑は何を引き起こすかわからない。三十路の私たちでさえいつ何時でも死ねる自信満々なのだ。まるで武装酒場のごとくうちのマンションの住人は濃いメンツばかり。かつてヘビを飼っていた輩がいた。ある日の朝、洗濯機を回しているといきなり愛知県警のゴツいポリスメンが2人来て仰天した。どうやらヘビが逃げたらしいが、私たちは違うと思う。そいつが逃がしたに違いない。「どうせ金運目当てに決まってるわ」「浅はかなどバカね」最近うちの大家がおかしい。もともと会員制のイタリアンをやっていたが去年の春に閉店。その後パスタの自販機を置いたがわずか1年で潰れた。年明けからテイクアウトとデリバリー専門のボッタクリハンバーガー屋をオープンしたが、4月30日から一時閉店。5月31日まで丸1ヶ月ほど閉めた。6月から再開したが、客を見たのは2月まで。しかも2人だけ。大家は前の店が潰れるまで午前10時台に周りの掃き掃除をするのがルーティンだったが、それが徐々に崩れ始めた。異変を感じたのは7月22日。何と夜に掃き掃除を始めたのだ。たぶん初めて。しかも断続的に30分くらい掃いていた。異変は続いた。その店はお盆も営業を続けたのだ。シャッターに張り紙がなかったから間違いない。万が一お盆に子どもが集まったとしてもあんなバカ高いハンバーガー屋が開いててよかったと思う人はいない。何しろひつまぶしと被るくらいの値段。ましてやサービスでコーラやフライドポテトを付けているとも思えない。要は世間知らずのド素人。「さすがにパスタは売れてると思ってたけどね」「長年にわたりイタリアンしてた割にはレパートリーが少なすぎ」「確か1000円くらいしてたのを覚えてるわ」ジュールたちによれば1個4000円から5000円の価格設定は正気の沙汰ではないと言い切る。「中国人ですら買わないだろ」「それ以前にあそこは商店街だと認識すらされてないわ」「株や日経平均や不動産や物価が上がったところで庶民の豊かさには微塵も寄与しない」さすがに彼らの洞察は下手な投資漫画など足元にも及ばない。異世界側はよくも悪くも価値のないものには価値を置かない。「庶民の幸せや豊かさに寄与したか?」をマルスは見ていた。庶民の幸せや豊かさに微塵も寄与しないものには価値を置きようがないと言い切る。「デジタル社会は人のことを微塵も考えない薄っぺらくて幼稚な社会だ」「確かにね。アナログ社会の方がいいと思うシーンは歳を重ねるたびに増えてきたわ」「デジタルなんてグリコのオマケさ」「そうね。むしろ陰湿な犯罪の温床に成り下がったわ」技術至上主義の日本に比べ異世界は不便さを受け入れる。「異世界はデジタル社会を志向しないのね?」「あまりにも失うものが大きすぎるからさ」日本は空疎な社会だが、ジュールたちは技術にあまりこだわらない。「弟たちの間では自慢師ゲームが流行ってるよ」「あれはいいわね」「残念ながら僕たちにはしょぼい自慢ネタがなくてね」「実は私たちあのゲームが大好き」「マウントを取るならしょぼい自慢ネタに限るね」

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