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ヨアヒムとライエルの日常

9月15日。ヨアヒムとライエルは気分よく目覚めた。2人はオロロン学園高等部2年生でクラスメイト。彼らは同じマンションの違う階に住んでいた。ヨアヒムはジュール。ライエルはミシェルの弟。オロロン学園は男子校だが、周りに共学や女子校がない。だからといって男色に走る生徒はほぼいない。しかも異世界は娯楽が乏しく、アニメやゲームや漫画が日本より40年くらい遅れていた。その代わりに低俗な番組がなく、日本みたいにテレビを見ていたらバカになることはない。すでに優秀な兄者たちは投資家の道を歩き始めたが、弟たちはごくふつう。兄者から教わったのは「日本には投資するな」ということだけ。いやもちろん他にもいろいろ教わったのだが、頭に全く残らなかった。いまだに誰が始めたのかは謎だが、クラスでは自慢師ゲームが大流行。残念ながら兄者たちにはなじまなかった。彼らはハイスペックだからあまりしょぼい自慢ネタを持っていない。何しろいかに自分がしょぼいかを自慢し合ってマウントを取り合う熱い真剣勝負なのだ。かと言ってヨアヒムたちがクロマティー高校レベルなのかといえば必ずそうではない。彼らは燃えた。密かにコンセントレーションを高める者まで出始めた。オロロン学園はまるでリアルクロマティー高校みたいな様相を見せ始めた。何しろ一筋縄ではいかないようなツワモノばかり。この学園はマルス推進校の指定を受けた唯一の学校でもある。隔絶した陸の孤島。マルス制度がユニークなのはエリートを志向しないことだ。エリートが国を滅ぼすのは日本を見れば一目瞭然。だからこそ異世界はエリートを育てない。スポーツバカも偏差値バカもいらない。生徒会も部活もいらないしPTAもいらない。もちろん受験もない。強いて言うなら娯楽が乏しい。パチンコを初めとするギャンブルはもちろん夜の仕事も存在しない。でも彼らには出逢いがない。だからこそマルスに志願したのだ。異世界はいまだにアナログ社会だしネットがあまり普及しない。彼らはデジタル社会に甘い夢を見なかった。ごくまれにこうした日本の文化が紹介されたりするが、厳選されたものに限る。さっそく32人いるクラス内でトーナメントが行われた。ヨアヒムたちは順調に勝ち上がり、決勝まで駒を進めた。まずヨアヒムが兄者と一緒に日本へ行き、とある店で親子丼を食べた話を始めた。ライエルは彼がいったい何を自慢したいのかさっぱりわからない。「確かにうまかったよ親子丼は」「なあヨアヒム、君はいったい何を自慢したいんだ?」「それを当てるのが君の仕事だろ?」「確かにな」ライエルは腕を組んで考え込んだがわからない。だが閃いた。「わかったぞ。完食したことだな」「いや違うな」「グリーンピースを残さずに食べたことか?」「それも違うな」「ううむ。手強いやつよ」「僕は親子丼の意味を知らなかったのさ」ライエルは不敵に笑った。彼は兄者と一緒に日本へ行き、生まれて初めてカップ焼きそばを食べた話を始めた。異世界ではカップめん文化がなく、日本で初めて食べた話が多い。「もしかしてUFOか?」「いやがつ盛りさ」今度はヨアヒムがうなり始めた。彼がいったい何を自慢したいのかさっぱりわからない。「兄者はすごくうまそうに食べていたよ」「がつ盛りがマズいわけないだろ」「それがな、すごくマズかったのさ」ライエルはヒントを出した。彼は兄者と食べる前にトイレに立ったという。「単純にめんが伸びただけだろうが」「違うな」「君の兄者がゆず胡椒を余分に入れたとか?」「それも違うな」「じゃあ君はいったい何だ?」「僕はお湯を捨てるのを忘れた。いやそもそもお湯を捨てるという発想すら思いつかなかったのさ」判定の結果、ヨアヒムが優勝。惜しくも敗れたライエルは頭を抱えた。ヨアヒムは景品にノート。ライエルは鉛筆をもらった。自慢師ゲームは一過性のブームに終わらずオロロン学園に定着した。異世界ではごくまれに日本ブームが起こるが、たいがい線香花火に終わる。彼らはアナログ社会に誇りを持ち、デジタル社会を下に見る風潮があった。誰もがサル以下に落ちぶれたくないからだ。技術がいかに凄かろうがモラルがなければ国が滅ぶ。今も昔も日本は敵国。異世界側が敵国の文化を取り入れないのは当たり前。自慢師ブームは極めて珍しい現象だが、だからといってネット社会がいいとはならない。むしろ不便なくらいで丁度いい。ないものねだりばかりしている今の日本とは対照的。カルーン公国がこの学校しかマルス推進校に指定しないのは人数が足りるから。中等部と高等部。各学年が32人。192人しかいないがマルスは100組200人。彼らは2人1組で任務に就く。満12歳から18歳までだが任務に就けるのは満14歳から。もともと異世界側はシードマンと呼ばれる男性兵士を魔法戦士にあてがってきたが、双方の力の拮抗を図るためマルス制度が発足した。

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