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 ローザは気を取り直して首を振った。


「ち、違うのよ!そんなことは無かったわ!」


 ローザの否定もむなしく、リーネ婦人がニコニコと微笑んでいる。


「いいじゃない~。レオナルド様は真実の愛を見つけられたってことよ!これを機に、ローザちゃんだけを愛し抜くと誓えばいいじゃないね!そうすれば、ご両親も安心できるわよ」


 (何が真実の愛よ!リーネ様違うのよ!そんなことは無かったのよ!)


 町でたまたま会って、事故みたいにキスをされただけだと言いたいが、きっと言ってしまったらなんだかの罰を受けそうな気がしてローザは唇を噛んで耐えた。


 必死な顔をしているローザを面白そうに見つめながらレオナルドは頷く。


「もちろん、ローザだけを愛しましょう。俺に、愛人がいると勘違いしているようだが、あの者はただの秘書的な役割をしている。もし、ローザが気にするようであれば親密な接触は控えよう」


「そ、そう言う問題じゃなくて!愛人が勘違いとか言われても信じられないわ」


 やっとの思いで声を出すローザにリーネ婦人は笑みを崩さず間に入ってくる。


「レオナルド様が愛人……じゃないわね、秘書の女?を遠ざけると言っているし、愛人ではないと否定しているのだから信じましょう!だって、ローザちゃんとレオナルド様は親密な仲になったのだから……。これを逃したら、いいお嫁入が難しくなるわよ」


 後半は小声で言うリーネ婦人の言葉にローザの両親が咳払いをして顔を伏せた。


「違うの!そんなことは無かったわよ!」

 

 立ち上がって否定をするローザにレオナルドが追い打ちをかける。


「そんなに必死にならなくても大丈夫だ。俺にとってあの日の事は忘れられない衝撃的な日だったから。お前を一生愛そうと決めた記念日だな」


「い、一体何を言っているの?」


 ローザが必死に否定するほど、羞恥心からきているものかと温かい視線が集まる。


「ローザはまだ俺への愛が深まっていないようだ。結婚式までは俺に惚れさせるので大丈夫ですよ」


 不敵に微笑むレオナルドはよっぽど自信があるのかそう言い切るのを聞いてローザは目を見開いた。


「だから、一体何を言っているの?どうして私があなたに惚れると思うの!私は、私は、愛人がいる人なんて……いる人なんて……」


 そこまで言ってクラリと目の前が真っ暗になる。


(私は、私を本当に愛してくれて愛人がいない、ただ一人の人がいいのよ)




 ローザは重い瞼を開けると、見慣れぬ白い天井。


(一体私はどうしたのかしら……)


 ゆっくりと状況を確認すると、大きなベッドに寝かされている。

 そうか、あれは嫌な夢だったのかと大きく息を吐くと近くで一番聞きたくないレオナルドの声がする。


「起きたか……。気分はどうだ?」


 横になったまま視線を向けると、ベッドサイドに椅子を置いてレオナルドが座っていた。

 薄い青い瞳と目があって、ローザは眉をひそめる。


「……最悪の気分よ」


 王子に対して失礼ないい方かとは思ったが今はそんなことを気にしている場合ではない。

 一番会いたくない人物が傍に居る状況に、ローザは理解できずため息をついて目を閉じた。


「それは済まなかった。ローザにとって最悪なことかもしれないが無事に婚約が成立した」


「信じられないわ。私は了承していないもの」


 不貞腐れたように言うローザにレオナルドは苦笑しながら手を伸ばした。

 そっとローザの額にかかった前髪を整える。

 あまりにも優しい手つきに驚いてローザは目を開いてそっと長い指から距離を取る。


「俺がお前を欲しているからだ。今のところはお前の意志は関係ない」


(私以外の女性が聞いたら泣いて喜びそうなお言葉ね)


 愛の告白とも思えるレオナルドの言葉に少しだけローザの心が動いてしまう。

 レオナルドほどの美しい人にそんなことを言われると嬉しいとさえおもってしまう。

 そんな自分が嫌になりローザは息を吐いた。


「……どうしてそんなに私にこだわるの」


 数回しか会っていないはずなのにとローザは疑問に思う。

 レオナルドは長い指でローザの金色の髪の毛を弄びながら答える。


「お前にこうして触れることが出来るから。体温を感じ、共有することに不快感がないからだ」


「意味が解らないわ」


 奇妙な顔をしているローザにレオナルドは軽く口角を上げた。


「そうだろうな。お前は正式に俺の婚約者になった。結婚するまでには俺に惚れさせてみせる」


 ローザの長い髪の毛を一房手に取ってそっと口付けた。


 美形の王子が自分を愛おしそうに見つめているが、心が流されないようにグッと唇を噛んだ。


「私、愛人がいる人は嫌なの」


 何度目かの愛人という言葉にレオナルドは軽く肩をすくめる。


「何度も言うが、あれは愛人ではない。ルー、俺の婚約者殿に挨拶を」


 レオナルドが声を掛けると、スッと影が動いた。

 いつの間にかレオナルドが親しくしている女性ルーが立っている。

 部屋に二人きりだと思っていたローザは突然のルーの存在に驚いて起き上がる。


 (全く気配を感じないわ)


 急に現れたルーに、ローザはドキドキする胸を押さえて見つめた。


「驚かして申し訳ございません、奥様。わたくしは、愛人ではなくレオナルド様にお使いしている者ですのでご心配なさらないでください」


 無表情に言うルーは全く感情が無い人形のようだ。

 黒いロングドレスと同じぐらい黒く長い髪の毛、相変わらず濃いお化粧をしていて今日も美しい。


「……奥様ではないわ」


 嫌味なのかと思いながらローザが小さく言うと、軽く頭を下げた。


「気配を消すのが上手いから傍に置いているだけだ。そしてルーを女だと思ったことが無いから傍に置くことが出来ていた。俺は女を傍に置くことは無い」


 レオナルドの言葉にローザは顔を顰める。


「女を傍に置かない?」


 (ルーという女性は傍に置いているじゃない)


「お前は違う、特別だ……」


 頭がくらくらしそうになるほど美しい顔をしてレオナルドは呟くとローザの腕を引っ張ると力強く抱きしめる。


 お香のような不思議な香りがするレオナルドの胸に顔を埋められる。

 ローザは身をよじって脱出しようとするがビクリともしない。

 何とか逃れようとするローザを強く抱きしめて、レオナルドは大きく息を吐いた。



「こうしてお前を抱きしめることが出来るとは……」


 嬉しそうに言うと、体温を感じるようにレオナルドはローザの頭頂部にキスをする。


「ちょっと、まだ私は認めていませんから」


(愛人じゃないって言われても私は信じないわ)


 レオナルドとルーの噂話を思い出してローザは必死に否定をする。

 寝室にまで彼女は出入りしているという噂はつまりそういうことだろう。

 いくら、お付きの者だと言われてもはいそうですかと信じることはできない。


 いつの間にかルーが居なくなったことに気づいてローザは小さく呟いた。


「それに、まだ奥様じゃないわよ」


「時期が来ればそうなる、気にするな」


 ローザを抱きしめながらレオナルドは軽く微笑んだ。


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