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 レオナルドとの突然の出会いのおかげでその後のローザは、マリーに心配をさせてしまった。

 彼と出会ったことを言う事も出来ず、怒りと落ち込みが同時に押し寄せ情緒不安定になる。


 何とか気持ちを落ち着かせてマリーと刺繍糸を買い、とてもお茶をする気分に慣れずローザは早々と帰宅をした。


 「ありえないわ……」


 帰宅してすぐベッドにうつ伏せになって呟く。

 

 (私だって判ってやったという事?でも、いつもの愛人と一緒に居たじゃない)


 結局、愛人と町で会うため隠れ蓑にされたのではないかと結論を付けるがどうしても納得がいかない。

 あれではただの痴漢行為だ。


(いくら権力があるからって酷いわ!……初めてだったのに)


 初めては、もっとロマンチックに好きな人とするはずだったとローザは悲しくなり枕に顔を埋める。


「酷い!酷いわ」


 何度呟いても心は落ち着くことは無かった。





「ローザ!お前何をしたんだ?」


 ローザの父バルサルが血相を変えてノックもせず部屋に入って来た。

 

 いつの間にか眠ってしまっていたローザは驚いて飛び起きる。


「何?どうしたの?お父様」


 ボーっとする頭で顔を青くしているバルサルを見てローザは呟く。


「どうしたのではない!何をしたんだ!レオナルド殿下から手紙が来ているぞ」


「手紙?」


 今度正式に謝罪をするというレオナルドの言葉を思い出してローザは頷いて父から手紙を受け取る。


(昨日の今日で早い謝罪ね)


 それでも許すものかと手紙を開こうとするとバルサルはもう一通封筒を見せてきた。


「ワシにも手紙が来た。お前とワシにだぞ。これは、お前が書類を見ていることがバレたのではないか?」


「違うわよ。レオナルド様とはちょっといろいろあったから」


「ちょっと?いろいろあった?」


 何があったんだという目で見られてローザは冷めた目で見つめ返した。

 ローザの冷めた顔を見てバルサルは嫌な予感がしたのか顔を顰めて封筒を見つめている。


「封を開けたくないのは私も同じよお父様」


 ローザは心を落ち着かせて大家の紋章で封がしてある蜜蝋をはがず。

 ゆっくりと手紙を取り出すと、綺麗な文字で謝罪をしたいので明日城へ来てほしいと書いてある。

 残念なことに、サインもレオナルド本人が書いたものに間違いないようだ。

 

(今更謝罪なんていらないのに!)


 もう二度と顔を見たくないと思いながらバルサルを見ると震える手で手紙を見つめていた。


「お父様の方は何が書いてあったの?」


「お、お前と婚約をすると書いてある。妃候補ではなく、正式な婚約をと書いてある!」


「はぁぁぁ?」


 父の言葉が信じられずローザは叫びながら手紙をひったくった。

 こちらもレオナルドの直筆ですべて書いてあることを確認してローザは目を見開く。


「どういう事?どうしてレオナルド様が私と婚約をするのよ!」


「ワシが知る訳ないだろう!お前が王子の好みだったのではないか?……黒髪の愛人とはタイプがだいぶ違うがな……」


 余計な一言を言う父親を睨みつけてローザは手紙を握りつぶした。


「ありえないわ!昨日の出来事より最悪よ!私は、愛人がいるような人は嫌よ!ねぇ、お父様何とかして頂戴」


「無理だ!良かったではないか、王家にお嫁入ができるのだぞ!我が家もとうとう王家とご縁ができたのだぞ!これで我が家は安泰だ!」


 喜ぶ父親を無視してローザは頭を抱えた。


「何がどうしたら婚約まで話が進むのよ!謝るんじゃなかったの?」


「ローザ、この手紙は本当にレオナルド王子からの手紙か?誰かのいたずらではあるまいな」


 喜んでいたバルサルは正気に戻って手紙を胡散臭そうに眺め始めた。

 相続の書類が改ざんされているのを嫌というほど見ているバルサルはこんなうまい話が無いと疑い始めたようだ。


 ローザはうんざりしながら首を振った。


「残念ながらレオナルド王子の直筆のサインに間違いないわ。……どうして本人と分かるかは聞かないでね」


「お前の気味が悪い能力が説明できないのは知っている。そうか、本物の手紙なのだな」


 バルサルが小躍りしながら部屋を出て行くのを見てローザはため息をついた。


「大変なことになったわ」


 顔は好みだが愛人がいる男などまっぴらだ。

 これが謝罪だというのならきっぱりと断ろう。

 そう決断をしてローザは手紙を握りつぶした。






「お父様、私行きたくないわ」


 両親とともに城へと来たが、急に怖くなりローザは小さく呟いた。

 王子が待っているという部屋のドアの前まで来て怖気けずいたローザにバルサルは目をカッと見開く。


「しっかりせんか!レオナルド王子がローザをぜひ嫁にと行ってくださっているんだぞ!たとえ愛人がいたとしても正妻としてしっかりしていればいんだ!」


 小声で怒ってくるバルサルにローザは唇を尖らせる。


「だって、私嫌よ。愛人がいる人となんて、いくら美形でも無理!」


「顔はお前好みの美形だろう。愛人が不満なら追い出してしまえ!」


 それまで黙って親子の話を聞いていたケイトがため息をついた。


「二人とも、いい加減にしなさい。私たちがお断りできる立場でないの。ローザもいい加減腹を決めて頑張りなさい」


「お母さまも酷いわ。私は愛人がいる人は嫌よ」


「愛人、愛人と煩い!男なら愛人の一人や二人いるもんだぞ!」


 ローザとケイトは冷たい視線をバルサルに向ける。

 バルサルは自分で言った言葉の重大さに気づいて慌てて顔を左右に振った。


「わ、わしには愛人は居ないからな!信じてくれケイトぉぉ!」


 隣に立っている妻に泣いて縋ろうとしていると後ろから噴き出して笑う声が聞こえた。

 ローザ達は自分たちが城の中で何をしているのか気づき、一瞬固まる。

 3人同時に、笑っている人物をゆっくりと振り返ると騎士服に身を包んだレオナルドが立っていた。


「失礼。聞くつもりはなかったのだが、お父上の声が大きくて全て聞いてしまった」


「こ、これは失礼をいたしました」


 冷や汗をかきながら頭を下げるバルサルに、ローザも仕方なく頭を下げた。


「立ち話もなんですし、部屋の中でお話ししましょ」


 レオナルドの後ろから引きつった笑みを浮かべているリーネ第二夫人がローザ一家を部屋へ入るように促してくれる。

 

 一番聞かれたくない人物に、愛人問題を言ってしまったとローザ達は低姿勢で部屋へと入った。

 

 なぜか笑みを称えて上機嫌なレオナルドはソファーに偉そうに座ると、その隣にリーネ第二夫人も座る。

 ローザ達もローテブルを挟んで着席をした。


 すかさずお茶と書類がテーブルの上に置かれる。


「あの、これは一体……」


 すでに用意されていた書類を見るのも恐ろしい。

 あまりの手際の良さにローザは目を見開いて机の上に置かれている書類を凝視する。

 嫌な予感がしつつローザが引きつった笑みを浮かべながら聞くと、リーネ婦人がニコニコと笑いなら答えてくれる。


「正式な婚約の書類よ!どういう心境の変化かわからないけれど、レオナルド様がぜひローザちゃんを妻にしたいって言うから!急いで書類を作れと命令したのよ!」


「あの、何かの間違いではないですか?」


 引きつった顔をして言うローザにリーネ婦人は首を振る。


「間違いじゃないのよ!ローザちゃんがいいのですって!やっぱり、身分がちゃんとしているしなんて言ってもローザちゃんは美人だからお似合いだと思ったのよ!」


 リーネの言葉が信じられずローザは胡散臭そうにレオナルドを見た。

 笑みを浮かべたまま偉そうに足を組んで座っているレオナルドは間違いではないとゆっくりと微笑んだ。

 あまりにもその微笑みが怪しく美しすぎて、地獄からやってきた物語の王子の様だ。


 人間離れした美しさに一瞬ボーっと彼を見つめてしまい慌てて首を軽く振った。


「レオナルド様、私はとても婚約を望まれるような者ではないのですが。何かのお間違えではないですか?」


 違うと言ってほしいと願いを込めて聞くがレオナルドは笑みを称えたままローザを見つめた。


「間違いなんてとんでもない。あの日交わした熱い出来事を忘れたのか?」


「はぁぁぁ?」


 意味深に言われてローザは思わず声を上げる。

 あまりにも無礼な態度に隣に座っていた父親が軽く腕を叩いてくるが知ったことではない。


「なにも、ありませんけれど!」


 あの日の事は水に流そうと言うが、レオナルドは微笑んでローザを愛おしそうに見つめ返す。


「俺はあの日から一瞬たりとローザの体温を忘れたことが無かったのに、それはあんまりだな」


「なっ、なっ!」


 体温だとか、熱い出来事など思わせぶりないい方にこれではまるで一晩を過ごしたように聞こえるではないかとローザは驚きのあまり声が出ず口をパクパクとさせた。


 そんなローザとレオナルドをローザの両親とリーネ婦人が生暖かい目で見つめてくる。



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