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 「ねぇ、私は行かなくてもいいと思うのよ」


 ローザはレオナルドに横抱きに抱えられて廊下を進んでいく。

 空はまだ暗く、真夜中だというのに廊下を歩く人は多い。

 パーティー後ということもあるが、事件があったためにどの部署も忙しく動いているようだ。


「俺の目の届かない所にローザを置いておくことはできない」


 レオナルドの母親の話を聞いた後にそう言われてしまっては反論することもできないとローザは口を噤んだ。

 それでももう犯人はいないのではないかと思うが、意外と心配性のレオナルドには何を言っても無駄だろう。

 抱えられるほど足は痛まないが、レオナルドの歩くスピードに付いてくことも出来そうにないのでローザは大人しく抱えられることにする。


 速足で歩くレオナルドの後ろを、大泣きして目を腫らしたロベールも必死で付いてくる。

 

 レオナルドは地下へと向かう階段を降りて行く。

 ジメジメとした暗く辛気臭い雰囲気にローザは身震いをする。


「どこに行くんですか?」


「尋問室だ」


「尋問室!」


 とんてもない所に連れて行かれるとますますローザは身震いをした。

 地下だからという訳でなく、空気も重く感じる灰色の石作りの薄暗い地下の階段を降り切ると、見張りの騎士が二人立っていた。

 レオナルドとロベールの姿を見ると驚いた顔をしつつ敬礼をする。

 

 細長い廊下は鉄製の扉が何個か見え、そのうちの1つの扉の前で立ち止まった。


「コンラートの取り調べはここか?」


 レオナルドの問いに扉を見張っていた騎士が敬礼しつつ頷く。

 レオナルドは無言で扉を開くと、中に居た騎士達が驚いて立ち上がった。


「レオナルド様、ロベール様。どうされました?」


「コンラートに聞きたいことがある」


 ローザを抱えながらレオナルドは部屋に入る。

 手錠と足に手錠を掛けられたコンラートが座っていた。

 質素な木の机を挟んでコンラートの前に座っていた大きな体をした騎士も立ち上がって敬礼をする。


「コンラートは何か言ったか?隊長」


「”俺は悪くない”の一点張りで、宝石を盗んでいたのも金持ちから奪って貧乏な平民に分けるのだ何が悪いと言って話にならん」


 隊長と呼ばれた男はコンラートを睨みつけた。

 疲れた様子のコンラートはうつろな目で前を向いたままレオナルドにもローザにも視線を向けない。

 無表情なまま口を開く。


「俺達は貴族というだけで金に困らないだろう。世の中には働いていても報われない人が大勢いるんだ」


 抑揚のない声で言うコンラートにレオナルドは口の端を上げて笑った。


「お前の恋人もそうなのか?酒場の女だったんだろう?」


 酒場の女という言葉にコンラートは微かに反応をする。

 また黙ったコンラートを見下ろしながらレオナルドは口を開いた。


「一人の女の死体が見つかった。顔は損傷が激しく直ぐに身元が分からない、年頃は20歳前後、胸のあたりの茶色い髪の毛、そして首元にハート型のネックレスをしていた」


 暗闇に置かれていた女性の特徴をレオナルドは言っていく。

 ハート型のネックレスと聞いてコンラートの両手が小刻みに震え出した。

 レオナルドに抱えらえていたローザもハッとする。


 町で偶然会った時、確かに彼女の胸元に銀のハートのネックレスをしていた。


「そんな、何かの間違いではないのか」


 唸るように低く呟くとボロボロと涙をこぼし始めた。

 隊長は騎士に目配せをすると、すぐに銀色のネックレスが手渡される。


「これに見覚えはあるか?」


 隊長がハートのチャームが付いた銀色のネックレスをコンラートに見せる。

 血で汚れ鈍く光る銀色のチャームを見てコンラートは目を見開いた。


「俺が彼女に買ってあげたものだ」


「ほーう。これは盗んだ宝石ではないのか?」


 宝石が1つもついていないペンダントを見て隊長は嫌味っぽく言う。


「盗んだ宝石は、すべてフェビアンが回収をしていた」


「なんだって、やはりあいつも仲間じゃねぇか」


 隊長は机をたたくと騎士が進み出てくる。


「フェビアンは今だ行方不明です」


「くそ、お前は宝石をフェビアンに渡して金を貰っていたのか?」


 涙を流しながらコンラートは首を振る。


「宝石を金に換えたら、貧民に分ける約束だ」


「阿呆が、そんなことするわけないだろう。あいつがすべての事件の首謀者か?それともアンブローか?」


「それより、ヘレンはどこに居るんだ?」


 巨体の隊長を押しのけてロベールがコンラートに問う。


「ヘレン?」


「茶色い髪の毛の可愛い女の子だよ」


「貴族の娘を人質に取ったという話は聞いたがどこに居るか知らない」

 

 ローザを抱えながら黙って聞いていたレオナルドが口を開いた。


「殺したのはアンブローだろう。あいつは人をいたぶって殺すのが趣味のようだから。きっとヘレン嬢もロベールの見ている前で殺したかったのだろう」


 吐き気を我慢するようにレオナルドは眉をひそめる。

 アンブローを思い浮かべるだけで気分が悪くなるのだろうと、ローザはレオナルドの腕をそっと撫でた。

 大丈夫だというようにレオナルドは頷く。


「あいつの思考は普通でない。もし、ロベールの前で殺すのならば城の敷地内に居るかもしれない。愛する人の目の前で殺したいのだったらな」


 レオナルドが呟くと隊長は眉をひそめる。


「騎士がわんさかいる城に居ますかね」


「アンブローはただ人を殺すのを楽しんでいるわけではない。愛しい人が目の前で殺され、絶望する姿を見るのが好きなんだ」


「かなりの変態ですな」


 隊長は大きなため息をつくと騎士に命令をした。


「聞いたか。今すぐ城の敷地内を大捜索しろ」


 ドアの前に居た騎士は敬礼をすると部屋から飛び出していく。


 緊迫した空気の中、ローザはレオナルドの胸を叩いた。


「できるかどうかわからないけれど、やってみたいことがあるわ。城の地図を用意してください」


 

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