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「ローザ!我が娘よ!待っていた!」


 ローザはため息をついて歓迎している父親を見つめた。

 城の中の執務室には数人の事務員がローザを父と同じように歓迎して迎えてくれる。


「何度も言うけれど、私は部外者なの。大切な書類を私が見ていることがバレたら大変なことになるわよ」

 

 ローザはため息をついて事務員が勧めてくれたソファーへと腰かけた。

 執務室に置かれている机は向かい合わせに数個並んでおり、一番奥に部署で一番偉いローザの父バルサルの机が置かれている。

 どの机の上にも遺産相続に関する書類が山済みになっていて、仕事が溜まっているのが目に見えて解った。


「仕方ないだろう。ローザ以外誰がこの書類が改ざんされたものなのか、まだ生きている人間なのかと判断できるというのだ。おぉ、神よ!娘の特殊な能力に今日も感謝します」

 

 バルサルは大量の書類をローテーブルの上に置くと神に祈るような仕草をする。

 ローザは呆れて大きなため息をついた。


「全く、私からしたら何の得にもならない能力だわ!」


「そんなことありませんよ。ローザさんのその能力があれば僕達は余計な労力をせずに仕事をすることが出来るのです。お願いします、今回も助けてください。怪しい書類が多すぎるのです」


「解ったわよ」


 事務員たちに頭を下げられてローザは渋々頷いて書類を手に取った。

 領主が亡くなったために息子ではなく内縁の妻に相続をしてほしいという生前領主が書いた遺書とサインがしてある。

 ローザはじっと見つめて首を振った。


「これを書いたのは女性ね。領主は男性だったから本人が希望している遺書ではないわこのサインも女性がしているわよ」


「ありがとうございます。次はこれを……」


 丁寧に頭を下げながら次の書類を手渡された。

 

「相続をした兄が亡くなって弟が家屋敷を継ぎたいですって……。これも嘘よ。兄は生きているわ。よくもまぁ、まだ生きているのにこんな書類を城へ送ってくるわよね。しかし本人にサインさせることが出来たわねこの書類」


 書類をじっと眺めて判断をしていくローザを眺めてバルサルは関心しながら頷いている。


「本当に助かる。が、どうしてその妙な力が宿っているのだろうな?」


「そんなの私が知るはずないでしょ。書類のサインや字をみれば、書いたのが男か女が解るし生きているかどうかもわかるなんて自分でも気持ち悪いわよ」


 顔を顰めながら言うローザに執務室に居た事務員たちは一斉に首を振った。


「気持ち悪いなんてとんでもない!素晴らしい能力です!ローザさんのおかげで無駄に現場に行って調査をしないで済むのですから!」


 神に向かって拝むような仕草をする事務員たちにローザは若干引きつつ書類を眺めた。


(どうして解るのかって自分でも不思議なのよねぇ)


 ローザの特殊能力は自分のために活かされたことは無いが父の仕事の役に立っている。

 仕事を手伝った日は父から多めのお小遣いを貰えるので、それは嬉しいがもっと自分の為になるような特殊能力が欲しかった。

 考えても仕方がないとローザは新しい書類へと手を伸ばすとドアがノックされた。


「書類を隠せ」


 バルサルが小声で指示をすると事務員たちは素早くローザの前から書類をひったくり奥へと隠す。

 書類が隠されたことを確認してバルサルがドアを開けた。


「お仕事中失礼致しますわ」


 華やかな女性の声にローザが思わず振り返ると豪華な青い色のドレスを着た、リーネ第二夫人が微笑んで立っていた。

 後ろには侍女が控えている。

 突然のリーネ第二夫人のお出ましに、ローザと事務員たちは一斉に立ち上がって頭を下げた。


「お仕事中ごめんなさいね。お邪魔してもよろしいかしら」


 現王の第二夫人を追い返すこともできずバルサルは頭を下げながら頷く。


「どうぞ」


「ありがとう」


 リーネ第二夫人は目配せをして侍女を下がらせると自分だけ室内へと入ってくる。

 一体何事かと思いつつローザは自分が父の仕事場に居ることもおかしいと思い退出しようとソファーから移動をすると声がかかる。


「ローザさん、貴女に話が合ってわざわざここまで来たのよ」


「私ですか?」


 リーネ第二夫人とはパーティーの時に数回話した程度だ。

 そんな自分に一体何の用だろうと、ドキリと心臓が音を立てる。


(まさか、書類を見ていたことがバレたのではないわよね)


 冷や冷やしながらバルサルを見ると同じように青い顔をしてる。

 リーネ婦人は我が物顔でソファーに腰かけるとローザにも座るように促した。


「あの、お話とは……」


 怒られるのではないかとドキドキしながら聞くローザにリーネ第二夫人はニコニコと微笑む。


「ローザさんは今年20歳になるわよね。まだ、婚約者は決まっていないで間違いないわね?」


「はい。決まっておりませんが」


 ローザの横に座って来た父を横目で見ると頷いている。


「よかったわぁ~。そんなローザちゃんにレオナルド様とお見合いをしてくれないかと思って」


「レオナルド様ですか……」


 レオナルドと言えば現王の第一子。

 本妻の息子だ。

 レオナルドの母アントリスは27年前に不幸な事故ですでに亡くなっている。

 その後第二夫人としてやってきたのがリーネだ。

 リーネはその後すぐに男子を生んでおり、現在王位を継ぐ予定で教育されていると聞く。

 

 「浮かない顔ね。レオナルド様は私がお腹を痛めて生んだわけではないけれど可愛い息子よ。もう33歳になるというのに結婚をするそぶりが無いの。ローザちゃんならお似合いだと思っているのよ」


 ニコニコ微笑みながら淀みなく言うリーネにローザは軽く首を振った。


「ありがたいお話ですが、私はまだ20歳で年齢的につり合いがとれると思いません。そもそも、レオナルド様が私を気に入るはずもございません。ほら、私はキツイ顔をしているとよく言われておりまして……」


「そんなことないわ。キツイ顔なんかじゃないの美人すぎてきつく見えるのよ」

 

 慰められているのか、けなされているのか解らずローザは乾いた笑いをうかべた。


 レオナルドは青い瞳、銀に近い金の髪の毛、背は高く小説の押絵のように美しい男性だが冷たい印象から女性達が近づかない印象がある。


  女性達が近づかないのはその他にも、常に一人の美しい黒髪の女が傍に居るからだ。

 噂では寝室まで出入りをしているという事から、まともなご令嬢はもっともな理由を付けて縁談をお断りしているという。



「会うだけでいいのよ!ローザちゃんは身分も釣り合っているし容姿も可愛いし、完璧なのよ」


「はぁ……」


 褒められているがちっとも嬉しくないとローザは気の無い返事をするがリーネ婦人のトークは終わらない。


「私の息子なんて、つい最近恋人ができたと言ってよく調べたら身分が相応しくない子だったのよ。いくら恋愛と言っても立場というものがあるでしょ?好き嫌いで選んでいる立場じゃないの。それも、レオナルド様が王位を放棄したからあの子に全部重圧がかかっているでしょ?もし王になったら、妻の身分が低いなんてよくないと思うのよ」


「はぁ……」


 ローザは愛し合っていれば身分なんてどうでもよいのではと思ったが口答えできる立場ではないので曖昧にうなずいた。


「ロベールは結婚したいと言ってくるけれど、私は反対なのよ!せめてレオナルド様は身分の相応しい女性と結婚してほしいの。分かるでしょ?」


 ロベールとはリーネ婦人の実の息子だ。

 レオナルドとは腹違いの兄弟になる。


 リーネ婦人の凄まじい剣幕にローザは思わず頷いてしまう。

 頷かないとリーネ婦人に眼圧で殺されそうだ。


「良かったわぁ。ローザちゃんが頷いてくれて。ありがとう」


 長いまつ毛をパチパチさせて喜ぶリーネ婦人にローザは乾いた笑いをうかべた。


「えっと?」


「さっさとお見合いをしましょう。ちょうどレオナルドが上の部屋に居るの。今日、会う約束をしたから一緒に行きましょう」


 有無を和さずローザの腕を掴んで立ち上がったリーネ婦人に戸惑う。

 リーネ婦人の手を振りほどくこともできずローザは助けを求めるように父を振り返った。


「お父様……」


「レオナルド様に気に入られるようがんばりなさい!」


 期待を込めるようにギラギラした目で見つめられてローザは肩を落とした。


(お父様こそ身分に目がくらんでいるじゃない!)


 我が子が王家へ嫁に行くことを想像して喜んでいる父親を見てローザは首を振った。


「私無理です!レオナルド様に気に入られるはずがないです」


「会うだけでいいのよ!会うだけ!」


 リーネ婦人は高笑いしながらリーネを引っ張って歩き出した。



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