推しの国民的アイドルがテロに襲われているようなので救ってみた
「早くこちらに避難してください!!」
轟音と衝撃が会場一帯を包む。
一瞬何が起こったのか分からなかった。
いや今も状況を掴めていない。
さっきまで私はアイドルとしてみんなと一緒に夢の時間を過ごしていたはずだ。
それなのになぜ今はそんな夢の空間が絶望に変わってしまっているのか。
「早見さん!何してるんですか、早く避難してください!!」
マネージャーの声が聞こえる。
…避難?避難して良いのだろうか私は。
先の爆発により、会場全体はパニックになっている。
そりゃそうだろう。命の危機が迫っているのだ。爆弾もいくつ仕掛けられてるのかわかったものではない。
出来るだけ早く外に出たいのは当然だ。
しかし出るのにかなり手こずっている。
この大人数の上、全員が混乱状態。指示が全体に通るわけがない。
「こんなところでボーッとしないでください!!!」
「早くこっちに来てください!」
マネージャーが私を避難させようとする。
私たちにはファンの人たちと違い裏口がある。
そのため、逃げようとすれば素早く逃げることはできる。
ただそれはファンの方々を裏切る行為ではないか。
私たちのコンサートを見に来てくれたお客様なのに、そのお客様より早く逃げるのは良いとは言えないはずだ。
プロとしてファンより自分を優先するわけにはいかない。
私はマイクの電源を入れる。
「皆さん聞いてください!!」
会場全体に声が響く。
その声を皮切りに喧騒が止み、静寂が空間を支配する。
「今この会場で爆発が起こりました。一刻も早く避難しなければなりません。そのために皆さんにはスタッフの案内に従って欲しいんです…」
「私は、ここにいる全員で助かりたい。わざわざ私たちのコンサートを見にきてくださったファンの皆様が無事でいて欲しい…」
「お願いします!私たちに皆さんの命を救わせて下さい!」
頭を下げる。
今私にできることはこれしかない。混乱を抑え、案内に従ってもらうこと。
全員が素早く避難するための最善手になるはずだ。
早見の必死のお願いを聞き、会場にいる全員が冷静さを取り戻し始める。
元々ここにいる全員は、コンサートを見に来るほどのファンなのだ。
自分が応援している人が、推している人が、文字通り命をかけて自分達を助けようとしてくれているのだ。
そのお願いを聞けないファンなどこの中にはいない。
早見のお願いから30分が経った頃。
最初の混乱が嘘のように全員が落ち着いて、避難行動をしている。
「(良かった…皆んな案内に従ってくれてる。)」
「(8割の人は避難し終えてる。あともうちょっとだけ何もなければ…)」
そう考えたのも束の間、再び爆発が起こる
しかもその爆発の場所は…
「きゃ!」
早見の立っているステージの上。
幸い爆弾は屋根の外側に設置されていたらしく爆発の衝撃は受けていない。
しかし、その爆発の影響で瓦礫は落下してくる。
「(あぁ私こんなところで死んじゃうんだ。)」
「(ファンのみんなは大丈夫かな。怪我してる人いないかな。)」
「(まだやりたいこといっぱいあったんだけどな…)」
「(まだ生きていたかったなぁ)」
瓦礫が真下の早見を目掛けて落下してくる。
「よもや、ここにいる全員の命を救うというその言葉忘れたわけではあるまいな。」
直後瓦礫が地面に落下した衝撃があたりに響き渡る。
「え、え?」
「なにがどうなって…」
一体なにが起こったのか全然理解できなかった。
私の真上で爆発が起き、瓦礫で押し潰されるはずだったはずなのに…
「なに俺が手を貸しただけだ。」
そう言いながらお姫様抱っこをされている状態の私を立たせる。
、、だれだこの男の人は。
見た目は結構清潔感のある、イケメンな男性だ。
年齢はおそらく20歳位の若そうな感じ。
「(…結構タイプかも)」
「と、いけないけない。ワタシプロ。レンアイ、ダメゼッタイ。」
うんうん恋愛とかダメだからね。危ない危ない。
「何を1人でぶつぶつ言っている。」
「え、ああいやなんでもないです!」
「全くタイプとかそんなことおもってないです!」
やばい。私何口走ってるんだろう。
…ほらこの人も怪訝な表情を浮かべてる。
「ふっ。まぁそれだけ元気なら問題無かろう。」
「取り敢えずここから脱出する方法を模索するぞ。」
「脱出の方法…?」
この人はなにをいってるんだろう?
普通に非常口から出るか、裏口を使えば良い、、、
え?
「道が塞がれてる…」
さっきの爆発が原因で私たちがいるステージと非常口がある客席側の間に瓦礫が積み上がっている。
しかも裏口の方も爆発の瓦礫の影響で使えそうもない。
「どうしよう…」
私が諦めモードに入ってる横で男性が少し思案した後口を開く。
「ふむ…この状況の脱出の策としては瓦礫を2人でどけるか、他のいけそうな場所を探すかしかないだろうな」
「しかし流石に2人でどかせるとは思えぬ。別の場所を探すのが妥当だろうよ」
「何か他の非常口の場所とかに心当たりはないか?」
そういって視線を私に向ける
「って言われても…」
そんなこと言われても知るわけがない。
コンサートをやる上で非常口とかは地震があったときのために、ある程度把握はするが簡単なものしか知らない。
「(ていうかなんでこの人こんなに冷静なの…)」
「(普通こんなことがあったら混乱したり、怖がるのに…)」
チラッと男性の方に目を向ける
「…?」
「なんだ?なにか知ってるなら言ってみよ」
やばっ視線向けたのバレちゃった
「ああいやなにも知らないですはい」
「なんだ使えんな…」
男性から冷たい目線が降り注ぐ
私はその目線に耐えてるときに、今までなぜか思いつかなかった当たり前のことに考えが至る
「脱出の方法が思いつかないなら無理に動かない方がいいんじゃないですか?」
「ほう…というと?」
男性が一旦思考をとめて私の言葉に耳を傾ける。
「だってこんな爆発の事件が起こってるわけですから、警察や消防もすぐに動きます。」
「私がステージに立っていたのは認知されてるわけですから、捜索し出すとしたら間違いなくここからです。」
「それなら変に移動した方が見つかるのが遅くなるというわけです。」
そう。そもそも脱出しようとするのが間違いなわけで、大人しく助けを待つのが一番ということ。
なんでこんな簡単なことがすぐに思いつかなかったんだろ…
「なるほど、、見かけによらず少しは頭が回るではないか」
男性は心底以外そうな顔でこちらをみる。
「あなた私に喧嘩売ってるでしょ?」
見かけによらずってなんだ見かけによらずって
「アイドルだから馬鹿って偏見は時代遅れ!」
「最近のトレンドは知的アイドルなんだから!」
昔はアイドル=頭良くないっていう偏見があったけど今はそんなことはない。色々なことを勉強したりする人も多い。
「なに、別に馬鹿にしていたとかではない。」
「このような状況でも落ち着いて、当たり前のことに行き着くその度胸に驚いたというだけのことだ。」
「別に揶揄するつもりはなかった。すまない。」
そういって穏やかな微笑を私に向ける。
う、、これはずるい。
「しかし、その案実現は叶わんな」
直後また私たちの上で爆発が起こる
「え…」
「避けるぞ」
そういって男性は私を担ぎ、ギリギリのところで回避する
「またピンポイントで私のいる場所の真上で爆発…」
一回目の爆発と今回の爆発
どちらも私がいる真上で爆発が起こっている
でも今回の爆発は不発か何かだろうか?
威力が低かったような…?
「どこに爆弾があるかわからない中、いつ来るかもわからん助けに期待するのは無駄だ」
「仮にお前たちが狙われて起きた爆発なら、このステージの上に仕掛けられている可能性が高いしな」
確かにそうだ。
私が犯人で私たちを狙っているとしたら、ステージの方に爆弾を多く設置するはず。
そんなところで助けを待つのは無理か…
「良いニュースだ」
男性が少し考え込んでいた私に声をかける
「今の爆発で裏の通路に行く道に隙間が生まれた」
「瓦礫を登ってこの隙間からなら裏の方に入れる」
「裏口は脱出できる場所なのだろう?」
そういって男性が私に質問する
「それはそうですけど…」
何かわからない。でも嫌な予感がする…
「であれば話は早い」
「いくぞ」
そう言って男性は早々と瓦礫の方に歩き始める
「あ、待ってくださいよー」
「流石にこの瓦礫を登るのには時間がかかったな」
「はぁはぁまじで疲れました…」
「腕が痛い…」
私たちはなんとか瓦礫を登りきり、裏口のルートに入る。
裏口の方は爆発の影響が薄かったせいか、道として成立してる。
これならすぐにでも脱出できる…
「こっち側は爆発がほとんど起きてないみたいですね!」
「これなら非常口まですぐです!」
「早く行きましょう!」
私は男性の手を引いて非常口まで行こうとする
「…」
しかし男性は動かない
なにか思案する様子でその場にとどまり続ける
「ちょっなにやってるんですか」
「早く脱出しないと、ここも爆発するかもですよ!!」
「安心しなお嬢さん、ここに爆発物はねーからよ」
突如非常口の方角から5人の男の人が出てくる。
「で?隊長。捕まえていくのはあの女だけでいいのか?」
「ああそれが依頼主の要望だ」
「できるだけ傷をつけずに捕えろ」
「だがもしものときは傷有り無しは問わない」
そう言ってヤンキーの風貌をした人と隊長と呼ばれる人が話す。
「早見少し下がっていろ」
「絶対に俺の前に立つなよ」
私の耳元でささやいてから男性は5人の男組と対面する。
「それで?相談は終わったか下民ども」
「終わったのならさっさとそこを失せよ」
「俺の通行の邪魔だ」
対面した瞬間男性は5人組を煽る。
しかも超上から目線で。
「あ?」
5人組は切れた表情で男性にガンを飛ばす。
「(そりゃそうだよね!?ただでさえやばい状況なのに相手をキレさせてどうするの!?)」
「なんだおまえ?殺されてーのか?」
そう言いながらヤンキー風の相手はナイフを取り出す。
やっぱり殺す気なんだ…
「ふっどうせ下手に出たとしても俺を殺すのだろう?」
「であればなにをしても結果は同じ。好きなようにやらせてもらおう」
男性は呆れの目線を相手に向ける。
それはキレていた相手を行動に移させるには十分な挑発になってしまった。
「まじうざいなお前。目障りだから死ね」
相手はナイフを逆手に構えながら、一直線に男性を狙って走ってくる。
「…」
男性はそれに対して一切の反応を見せない。
相手の行動をただただ見ているだけ。
恐れもなく、淡々と観察しているように見える。
「死ね!!」
凄い勢いで男性の目前まできた相手は、その勢いを利用してナイフを男性目掛けて振り下ろす。
「(もうだめだ男性が死んじゃう…)」
「(助けて神様…!!)」
私は男性が殺される未来を想像し、目を閉じる。
しかしそんな未来は訪れなかった。
「ぐふっ」
「死ぬのはお前であろう。下民風情が」
男性は相手のみぞおちに一発入れた後そのまま相手を殴り飛ばす。
え、なにが起こってるの
殺されると思っていた男性が逆に相手をふき飛ばしている。
「あがっっ」
殴り飛ばされた相手はギリギリのところで受け身をとる。
ただ男性の一撃は重いらしく、なかなか立ち上がれない。
「ほう?今のをくらってなお受け身をとるか」
「やはり貴様ら普通のテロリストというわけではないな」
普通のテロリストではない…?
どいうことか私には全くわからなかった。
そもそもテロリストに普通とか普通じゃないとかあるんだろうか。
「…」
相手の隊長らしきひとはそれに対して一切表情を変えずに無言のまま男性の様子を見る。
「一回目の爆発。あれは一見すればステージ上のアイドルメンバーを殺すために仕掛けられた爆発に見える」
そんな様子を見て男性は相手に向けて話始める。
「だがそれだと疑問が残る。なぜあの瞬間に爆弾を爆発させたのか…」
「あの時は早見のソロの曲のときだ。他のメンバーはステージ上にいない。」
「もしメンバー全員を狙った犯行なら、早見一人のときに爆発させるはずがない。」
「最初俺は時限式の爆弾だと思ったが、それは2回目の爆発で否定された。」
2回目の爆発…
確かあれは私の真上で爆発したはず
「あのとき早見があの場に立っていたのは全くの偶然。もし時限式だとしたらそんな都合よく行く筈がない。」
「であれば貴様らの誰かがそれを鳥瞰できる場に潜み、早見がその真下に来た時に爆発させたということになる。」
「いや?貴様らがここに待機してるところを見るに鳥瞰しているやつは別にいるな?」
えっまだテロリストの仲間がいるの?
私は焦って後ろや周りを見渡すが誰も見当たらない
よかった…近くにいるわけではないらしい
「2回目の、瓦礫があたっても死なない爆発を利用して俺らを貴様らが待つこの裏口に間接的に誘導させていたやつが」
「っ!!」
今まで無表情のまま何の反応もなかった相手が初めて大きく反応する。
「図星か…」
「つまりそいつが今回の俺らの行動を全て計算し、貴様らを派遣した黒幕ということか」
えっちょっと待って
今の男性の言葉が本当なら私たちが、今無傷なのもこの裏口に入れたのも全部がその黒幕の手のひらの中ってこと!?
そんなことがほんとに可能なの!?
「それほどの奴が唯のテロリストなんかやるはずがない」
「貴様らも相当の戦闘経験を積んでいるらしいしな」
確かに…
完全にみぞおちに一発くらった後受け身を完璧にとってるし、今も5人全員が男性の一挙動を見逃さないように警戒してる
普通ではない
「まあ良い。その黒幕も貴様ら全員を倒し顔を拝みに行くとしよう。」
男性の目線がより冷たくなる
「来るがよい下民ども。相手してやる。」
「(どうしよう…なにかこの状況を打開する方法を探さないと…)」
私は今の状況を整理しなおす。
相手は男5人。それも全員が戦闘慣れしているらしいテロリストのプロ。
加えて、男性にはお荷物の私がいる。
状況は最悪。どうにかしないと…
「なんだ来ないのか?」
相手は5人が一人一人距離をとりながら男性の様子を伺う。
男性の挑発にも一切乗らず、油断も感じられない。
「…」
「ならばこちらから行くぞ」
男性が姿勢を低くして相手との距離を一気に詰める。
「(速い…‼︎)」
相手は反応が遅れたが、持ち前の経験と勘で脚を蹴り上げにいく。
しかし男性はそれをジャンプで回避し、上から相手の頭に拳を叩き込む。
「一人。」
その勢いそのままに二人目に狙いをつける。
猛烈な速度で相手の顔面に蹴りを入れるが、相手がギリギリのところで防御の姿勢をとる。
だが、防御をしても勢いは全て殺しきれていない。
体が宙に浮き3メートルほど相手を吹っ飛ばす。
とどめを刺しに行く男性。
それを後ろから狙いにいく2人の敵がいることも把握しており、吹っ飛ばした相手もろとも戦闘不能にする。
圧倒
この一言に尽きる
「これで4人。さて残りはお前だけだがどうする?恥知らずにも敵前逃亡することも赦してやるが?」
男性は上から目線でテロリストに聞く
「(もう何が起こってるか私には全然わからないよ…)」
「(え、1対5よね?なんでこの人一瞬で4人も倒してるの?)」
おかしい。人間としておかしすぎる。
ほんとにこの人は一体何者なの…
「おまえ何者だ」
今まで殆ど喋らなかった相手の隊長然とした男が男性に問いかける。
「こちらの仕掛けを看破し、人数不利の状況でも圧倒するほどの体術。」
「普通ではない。我らを相手にしてこの結果。」
「どこの組織かぐらいは聴かせて貰おうか」
組織?なんの話だろう
テロリストが話してるということは、同職か敵職のどこかの組織の話なのだろうか。
いや警察という可能性もある。
「貴様が何を勘違いしているかは知らぬが、俺はどこにも属してなどおらん。」
「ただこの場に偶然にも居た、、そうさなあ」
「アイドル早見のファンとだけ言っておくことにしよう」
男性は凛々しく、でもどこか温かみをもった雰囲気でそう口にする。
「(なんか、ほんとこの人には敵わないなあ)」
今日初めて会った男性。名前も知らない若い男の人。私の命の恩人。
常に上から目線で見下した目で見てくるけど、他人のために命を張れる優しい人。
ああそっかやっぱり私は…
男性とテロリストが同時に相手に突撃する。
男性は姿勢を落として相手の顔面に回し蹴りを入れようとした。
相手はしっかり反応する。右腕で受け流しカウンターの体制をとり、ナイフを突き刺そうとする。
男性はそれを見て崩れた体制のまま相手を吹き飛ばし距離をはなす。
まさに一進一退の攻防。
先ほどとは様相もかわり、より緊迫した状態でお互いがお互いを観察し合う。
「ふぅ…」
すると突然男性はため息と共に戦闘体制を解き、体全体から力を抜く。
「…?」
相手は訝しげな表情を浮かべるが、好機だと捉え再度素早く男性に接近してナイフを男性の心臓めがけて刺しにかかる。
男性は相手のナイフを心臓部分を外すようにぎりぎりかわす。しかし左肩がナイフで封じられることを読んでいたのか、間髪入れずに右手で相手の顎にアッパーを喰らわせる。
「うぐっ」
相手はそれをかわしきれず、喰らってしまい体勢が崩れたところに男性が全力の回し蹴りを相手にくらわせる。
相手はそのまま瓦礫の壁に打ち付けられ、地面に伏する。
「(凄い、ほんとに1対5の状況を一人で打破した…)」
「(ってそんなこと考えてる場合じゃない!)」
「大丈夫ですか!?」
私は一旦思考をとめ、男性に急いでかけよる。
が、男性はずっとその場で棒立ちしているだけで私の言葉に反応しない。
「ほんとにだいじょ…」
突如男性の体が私の方向に倒れ始める。
「うわっ」
私はギリギリのところで男性を支える。
そして男性の体を驚愕する
「なにこれ…出血の量が尋常じゃない…」
心臓をかわした代わりに左肩に刺されたナイフ。
その部分から出る血の量が普通ではなかったのだ。
「(どうしよう…男性も意識を失ってるみたいだし)」
「(とりあえずナイフを抜かないと)」
そう思って男性に刺さっているナイフを抜こうと手を伸ばした瞬間、、、
「ナイフはそのままでよい。それより早く脱出するぞ」
男性が弱った体を無理矢理に起こして、そう口にする。
「えっでも」
ナイフをそのままにしておくのは絶対に痛いはずだ。
男性は無表情のままだが、冷や汗が出ている。
我慢しているのがまるわかりだ。
「ナイフを抜けば栓が抜けたように血が体内からでるだろう。」
「ただでさえこの出血量だ。そうすれば死ぬのは避けられん。」
なるほど。確かにその通りだ。
それなら男性には痛いのを我慢してもらってでもいち早く脱出しないといけない。
「それなら早く脱出しましょう!」
「動けますか…? 肩貸しますよ?」
男性は何でもないような表情で普通に立ってはいるが重症であるのには違いない。
というか我慢できてるこの人が異常なのだ。
「舐めるな。この程度全く問題にも…っ!」
男性はそう言いながら態勢を崩して倒れそうになる。
ギリギリのところで私が倒れるのを防いだ。
「肩貸しましょうか?」
「…」
男性は私の申し出に無言で顔を背けながら頷く。
さっき大言を吐いてすぐに倒れそうになったのがよっぽど応えたたのだろう。
さっきの堂々としていた様相とは対象にどこか小動物味を感じさせる。
ちょっと可愛いかも…
「よいしょっと。ゆっくり歩きますけど無理だったら言って下さいね」
私は男性の腕を自分の肩に回して体重をかけさせる。
「ああ。悪い」
そう言って歩み出そうとした瞬間…
「っ!急げ…‼︎」
後方で爆発が起こる。
さっきテロリスト五人組と戦っていた場所が一瞬で爆発する。
「また爆弾…どうしてまたこんな」
「考えるのは後だ。さっきの場所が爆発されたってことはタイムリミットが迫ってる。急ぐぞ」
男性はそう言って痛みで苦しそうな顔をしながら足を前に運ぶ。
さっきまでの余裕綽々とした様子とは違い焦燥感をみせている。
「ちょっ!そんないきなり急いで歩いたら体が壊れちゃいますよ」
無理して急げばそれだけ体に負担がかかるのは自明の理である。
今までの爆発の周期からすれば次の爆発まではある程度時間があるはず。
それまでには脱出口につけるはずだ。
「タイムリミットが迫っていると言っただろ!今の爆発は倒れているテロリストを完全に殺す一撃となった。仲間を殺す決断をしたってことはここで勝負を決めるつもりだぞ黒幕は。」
「恐らくここからは爆弾が他の爆弾を感知して爆発する連鎖爆弾に切り替わる。一刻の猶予もないぞ」
脱出口まで必死に足を運びながら男性は話す。
私も男性の腕を肩に回しながらできるだけ早く進む。
爆弾はそうしているうちでも爆発し続ける。
「あっあそこ!あそこが非常口です!」
非常口が見えてきた。
周りは爆発の影響で瓦礫がたくさん積まれてしまっている。私たちが進む道もかなり進みずらくなってきてしまっている。
それでもなんとか進んできて非常口の前まで進んできたのだが、、、
「うそ…」
「扉が開かない…‼︎」
爆発により扉が歪み、扉が開かなくなってしまっている。
こうしている間にも私たちが通ってきた道は連鎖的に爆発が起こっている。
時間がない。
「…」
男性も限界がき始めているのか、反応が薄くなってきている。
「誰か!誰かいませんか!閉じ込められてるんです!助けて!」
扉を叩いて扉の奥に助けを呼びかける。
ここは非常口の一つだ。救助隊がこの会場にもう到着しているならここはマークしているはず。
「…‼︎ だれかそこにいますか!?」
扉の奥から反応がある。
救助隊の人だろう。
「今私ともう1人います!1人が重症で…‼︎」
「早くここからでて治療を受けないと…」
「分かりました!扉を無理矢理開けるので扉から離れていて下さい」
私はもう反応が無くなって項垂れている男性を肩で背負って扉から離れる。
その後すぐに扉から衝突音が鳴り響く。
救助隊の人が扉に向かって体をぶつけているのだろう。
衝突音が何回も聞こえる。
しかし扉はびくともせず、開く気配がしない。
時間がなくなってきて焦りが出てくる。
その時、さっきまで反応がなかった男性が扉に歩き出す。
「扉の前にいるやつ、ちょっとどいてろ。」
男性は扉に向かって全力の回し蹴りを放つ。
するとさっきまてぴくりともしなかった扉が思いっきり吹き飛ぶ。
しかし、扉に蹴りを放った後男性はその場で倒れてしまう。
私は急いで男性に駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
声をかけても反応がない。
それはそうだろう。ただでさえナイフで刺されているというのに無理をしたのだ。これで大丈夫なわけがない。
「女性1人と男性1人を発見。男性が意識不明、出血多量の重症です。救急車を急いでこちらに回して下さい」
救助隊の人は無線を通じて連絡している。
「少し離れていて下さい。今から応急処置をします。」
そういって救助隊の人は処置を開始し始める。
「あ、あの!大丈夫ですよね?このまま死んじゃったりしませんよね…?」
「まだお礼もなにもできてないのに…」
私は男性に何度も救われた。
男性がいなければ私は生きていなかっただろう。
このまま恩も返せないなんてそんなの…
「…最善は尽くします。救急車であれば最低限の処置はできます。」
「幸い意識ははっきりとはしていませんが、呼吸や脈はギリギリのところで耐えています。」
「救急車が来るまでなんとかなれば、あるいはといったところでしょう。」
救助隊の人はその言葉を皮切りに応急処置を開始する。
つまり助かるかどうか微妙、というよりかなり低いのだろう。救助隊の人の顔が暗い。
「神様お願いします。どうかどうか…」
「神に祈るな馬鹿者。俺は神が大嫌いだ。」
声が聞こえる。
自尊心に満ち溢れた堂々した物言いのなかに気遣いが感じられるそんな優しい声が。
「っ!大丈夫ですか!?」
私は男性にそう呼びかける。
「自分が誰だか分かりますか!?こちらのこと認識できていますか!?」
救助隊の人はかなり大きな声で男性にそう尋ねる。
「俺が、自分のことが、わからないわけ、ないだろう。しかし、少し眠い」
男性は苦しそうに言葉を紡いでいる。
今は気力だけで意識を無理やり覚醒させてるにすぎないのだろう。
「今できる処置は済ませました。私は救急車をこちらに誘導してきます!」
「いいですか!?なんでも良いので声をかけ続けて下さい‼︎絶対に眠らせてはダメです‼︎」
救助隊の人はそう私に告げてこの場を離れる。
眠い、というのが良くない。痛いのであれば体の防衛意識が正常に働いていることを示す。だが、眠いというのはそれが働いていないことだ。
「眠くても頑張って下さい!せっかくここまできたんです、恩返しくらいさせて下さい…」
涙が溢れでてきてしまう。
今はそんなことしてる時じゃないと分かってはいる。でも男性が死んでしまったときのことを考えると不安で耐えられなくなってしまう。
「泣くな。お前の、悲しむ表情、は、ファンとしては、あまりみたくない」
男性の顔が少しだけこちらに傾く。
そうだ、私はアイドルだ。どんな状況でもファンの人に笑顔を届ける義務がある。
笑顔、それが今私が男性にできる唯一のことだ。
「分かりました、なら貴方も頑張ってください!もし頑張ったら、そのご褒美に私がなんでもいうこと聞いてあげますよ!」
もし男性が生きてくれるなら、奇跡が起きるならば私はなんでもする。
「自分の推しに、そう言われては、頑張るしか、ないわな」
「そうさなあ、俺の願いは、一つだけ、だ」
男性は少し間をあけて私の目を真っ直ぐに見る。
「お前が欲しい。お前の全てを俺にくれ」
まったく、本当にこの人はどこまでも…
今日初めて会った人。どこまでも上から目線な人。それでも、私を命がけで守ってくれて、私を真っ直ぐ見てくれる人。
そんな人にこんなこと言われたら返事は決まっている。
「はい…‼︎ 私の全てを貴方にあげます!」
「まさかあの状況から生還するとは…あの男は一体…?」
「お荷物を庇いながら、多数を相手取り圧倒する戦闘能力。そして少ない情報から私の存在に勘づく洞察力。そして神嫌い…」
「なるほど、貴方がここで介入してくるのは予想外ではありましたが計画にはなんの支障もありません。」
「それではまたどこかでお会いしましょう。イレギュラー」
「入って良いですかー?」
「良いぞ、入ってこい」
真っ白な壁に覆われた部屋に足を踏み入れていく。
そう、ここは病院だ。
あの後すぐに救急車が来て男性と私をのせて病院に行った。
私の方はほとんどけがなど異常がなかったが、男性の方は重傷で集中治療室に連れていかれたらしい。
峠がいくつもあり、予断を許さない時間がかなり続いたみたいだ。
それでも普通の入院棟で生活できるくらいまで回復したからすごく良かった。良かったのだが…
「なんで彼女の私が面会できるまでにこんなに時間がかかるの!?!?!?!?!?」
なんと私が彼に面会できるようになったのは、彼が普通の入院棟に移ってから一か月がたったころだった。
普通だったらそんなに時間がかからない。
ではなぜそんなに時間がかかってしまったのか。勿論、あの爆発テロが起こったことでその被害者である私たちもかなりのゴタゴタに巻き込まれたというのもある。
しかし一番の理由は
「名前…名前教えてくださいよ…」
名前がわからなかったことだ。あの緊急事態ですっかり名前のことを失念していたのだ。そのため病院で彼女と説明しても、名前がわからないから説得力のかけらもない。
まあ最後はアイドルの権力をフルに使ってここに来たわけだが。
「そういえば自己紹介はしてなかったか」
「一神 拓人、忘れるなよ」
「彼氏の名前はさすがに忘れませんよ。改めまして早見 雫です。末永くお願いします。」
一神拓斗…うん、結構かっこいい名前かも。
「そういえばマネージャーに聞いて驚いたんですけど、まだ18才だったんですね、、えーと一神君?」
「名字で呼ぶな。あまり好きではない。」
「じゃあ拓斗君で。私の一個下、年下だったんですね。」
あんな事態でも引くほどの冷静さ、こちらを気遣う余裕。なにより上から目線の態度。絶対年上だと思ってた。
ああでも可愛いところもあったか。それは年相応かも。
「今はまだ高校に通っている。そんなことよりあの騒動以降アイドル活動のほうは大丈夫なのか?」
「全く問題はないとは言えないですね。表に立つことが怖くなったメンバーの子もいますし、当分は活動自体も抑えめになる感じですかね。」
騒動の影響はかなりのもので、今までの形にそう簡単に戻すことはできないだろう。
「そんな中、忙しそうにしてるマネージャーに彼氏できたことを報告したら半ギレされましけど。」
「…さすがの俺でも引くぞ。その容赦のなさには。」
男性がひきつった表情を私に向ける。
「俺ももう入院生活が終わり、日常に戻る。早見、お前も周りには十分に気を払えよ。非日常は日常に紛れていることが多い。」
「ただでさえここ最近はどうもきな臭い。」
何かを思案した感じで、真剣に私に忠告する。
この人が言うとほんとに何かありそうで怖い。
「ま、お前は俺が守ってやる。心配する必要はない。」
やっば、私の彼氏超かっこいいんですけど
でも彼の言うとおりだ。不安に思っててもしょうがない。
とりあえず今は…
「やっぱり拓斗くん大好きですーー!!今度制服姿の拓斗君見に、学校行っちゃおうかなーー!!」
「くるなたわけ」
この日常が続くことを祈るとしよう。