閑話、プライベートダンジョン
※本編42話、『久しぶりの学校Ⅱ』の後、眠と西麻布が一緒にレベル上げをしているシーンのお話です。
――西麻布礼奈視点――
神奈川県藤沢市江の島。
ここに、私の家が所有しているプライベートダンジョン『西麻布3号』がある。
プライベートダンジョンというのは、国ではなく企業や個人が所有しているダンジョンのこと。
『西麻布3号』ダンジョンは、国内3位の所属探索者数を誇る探索者企業ギルド『N2』と魔素センサー等の検出計測制御機器最大手『ライフリーク』を持つ私の家が、総額4000億円で国からリース契約したCランクダンジョンである。
同じCランク帯でも、深度及びダンジョン報酬的にはオーガの方が数段上。
でもここなら個人所有のために24時間潜れる。
スタミナを無尽蔵に回復できる士郎からすれば、こちらの方が断然レベル上げの効率がいいでしょう。
そういう訳で、私と士郎はその3号ダンジョンの最深部にある広大なすり鉢状の沼地、通称『フォールアウト』にやってきていた。
私の格好はオーガの時と同じ特注のベストにグローブ、短めのバトルスカートにブーツとハイソックス。
この姿が一番身軽で戦いやすく、かつ私の美しさを最大限に引き立ててくれる。
一方士郎はいつものクソダサジャージ。
顔もまあ悪くないし、体もレベル上げで引き締まっているんだから、もっとカッコいい格好すればいいのに。
まあでもいいか。
士郎がダサい方が私の美しさも際立つし、変な虫もつきづらくなる。
なんて考えているうち、私達の前方、沼地の中を巨大な樹木型のモンスターが根っこを足代わりにして歩行しているのが見えた。
「士郎。
あのモンスターを見なさい。
アイツは『ツリーギガント』。
ああ見えて実は死霊騎士族よ。
そして、死霊騎士族最大の弱点は回復魔法スキル。
それを今から見せてあげるわ」
私は士郎にそう言うと、両手を高く伸ばした後頭の後ろで組んだ。
そして、両掌に全身の魔素を集中し始める。
色々試したけれど、私はこのポーズが一番魔素を集中できる。
やがて私は両掌をツリーギガントの群れへと向けた。
「神域大回復!」
そして叫ぶ。
すると、私の掌から魔素が光線上に放たれ、その光線はツリーギガントの頭上に幅10数メートルの黄色の魔法陣のようなものを描いた。
魔法陣の中から金色の光が滝のようになってツリーギガントたちに降り注ぐ。
余りの光の量に一瞬辺りが昼間のように明るくなり、直後に3体のツリーギガントが崩れ落ちた。
その体は白煙となって私と士郎にまとわりついて来る。
「へえ。
回復魔法初めて見た。
普通の使い方とは違うっぽいけど、すごく効率いいね」
士郎が感心した様子で私に言ってきた。
その顔を見た途端、私の背筋がゾクゾクしてくる。
「どう?
やっぱり私は頼りになるでしょう」
「うん。
ありがとう西麻布さん」
私が尋ねると、士郎が感謝してきた。
ふふ……!
ふふふふふふ!
いいわねえええええこの感じ!
あのクソ生意気な士郎を上手にサポートして上げられるなんて、さすが私だわ!
っていうか、そもそも士郎如きが私より上に立とうだなんておこがましいのよ!
士郎は大人しく私の言う事聞いていればいいの!
ああ、この関係をいつまでも維持していきたい……!
「フフ……。
まあ探索者としては私の方がセンパイだから?
安心してこの私についてきなさい!」
私は後髪を掻き上げそう言うと、沼地の更に奥の方を目指して歩き出した。
この先に洞窟があって、その内部がボス部屋になっている。
「いい?
この先に居るモンスターは『ボーンゴレム』。
骨の巨人の姿をしたモンスターで、高い筋力と耐久性がやっかいな相手だわ。
だから一定の距離を保って戦って、ヒットアンドアウェイ戦法で倒すのが基本ね」
言っている間に洞窟へと着いた。
だが雰囲気がおかしい。
いつもボーンゴレムが出現する時は、洞窟中に骨でできた十字架みたいのが生える。
ボーンゴレムは敵が遠くに居るとこの十字架を投げて攻撃してくるのだが、今日はそれが見当たらない。
代わりに何か無色透明な粘液で洞窟中がギトギトしている。
臭いも少し変わっていた。
土と錆の臭いが充満している。
キモ……!?
なんなのよこれ……!
帰ってシャワー浴びたい……!
私がそんな風に思っていると、やがて洞窟の先に開けた空間が現れた。
広さは一般的な球場ほど。
いつもならボーンゴーレムがいるはずの空間である。
そこに佇んでいたのは、トゲトゲしている殻を背負った、巨大な一匹のカタツムリだった。
げっ。
いつもの奴と違うじゃない。
ってことはアイツ、エクストラボスね。
このダンジョンには何回も潜っているけれど、初めて見たわ。
でもあのモンスターは私知ってる。
教科書で見たもの。
たしか……!
「士郎。
あのモンスターは『アダマンタイマイ』。
岩石族のモンスターで、硬い殻と、頭から生やした触手で竜巻を起こしてくるわ。
しかも厄介なことにあいつ再生能力すごいのよね。
一撃で倒さないといけないんだけど、耐久性だけならオーガのドラゴンよりも上だし、殻から頭を出すのを待つしかないわ」
私がボスの倒し方について語っていると、
「あいつ硬いけどヒール当てたら倒せるよ。
俺一回ポーションぶっかけて倒した事ある」
士郎が普通に言ってきた。
何言ってるのかしらコイツ。
ポーションで倒すって、ついに頭おかしくなった?
「そんなわけないでしょ」
「いや超回復って概念があってね。
ヒールって細胞組織の修復や分裂を促進させているんだけど、それが一定値を超えると暴走して、増えすぎた細胞のせいで逆にダメージになるんだ。
アダマンタイマイはただでさえ再生するから、効果的なんだよ」
「超回復?
そんなの聞いたことないわね。
回復魔法で敵にダメージ与えるとか、あり得ないわ」
「世の中には西麻布さんの知らないこともあるんだよ。
とにかくやってみて。
一発だから」
士郎のやけに自信満々な言葉に、私は黙り込む。
こいつバカなのかしら。
この私がないって言ったらないのに。
……。
ああ。
ひょっとしてコイツ、自分がリードできないからってパチこいてるんじゃないかしら?
そうとしか思えないわ。
まったく小さい男ね。
仕方ない。
レベル上げを手伝って上げると言ったついでに、現実って奴も教えてあげるとしましょうか。
私はそう決めると、腕組みをして士郎を睨みつけた。
「アナタ、私の期末テストの成績知ってる?」
「いや知らないけど」
「知らないなら教えてあげるわ。
全18科目の内、実技試験を含む9科目で満点。
東京校では常にトップだし、世界各国にあるHW専門学校生と比べても5本指に入る成績だわ。
実技ならともかく、座学でアナタの出る幕はないの。
私のような美人をリードしたいというアナタの気持ちは凄く分かるけれど、現実を知りなさい?」
私が腰に手を当てて言うと、士郎はウンウン頷いた。
そして、
「いいから試してみて」
真顔で言ってくる。
なんなのよこいつ。
ホントに負けず嫌いな奴ね……!?
「ハア。
仕方ないわね。
一度きりよ?
遊んでるヒマなんてないんだから」
私は仕方なく『神域大回復』をアダマンタイマイに向けて放った。
すると、
「ギエエエエエエエエエエエッ!!」
たちまちアダマンタイマイが苦しみ始める。
アダマンタイマイの殻や体から、白煙がモクモクと上がり、やがてその体が崩れ始める。
そんなバカな……!
「ななな、なんで!?」
「アイツと初めて戦った時、どうやっても倒しようがなくって色々試したからさ。
それでこの倒し方知ってるんだ」
士郎がなんてことない調子で言う。
一方私は怒っていた。
こんな事があっていいはずがない。
だって士郎は学校の成績も中の下。
私はトップ中のトップ。
ありえない。
「ふざけないで!
私は学校の勉強はもちろん、アメリカや中国の論文だって読んでるのよ!?
超回復なんて概念聞いたこともないわ!!
こんなのウソよ!!」
「でも論文って結構遅いじゃん。
エビデンスとかしっかりしてないといけないから、事実を確認してからそれが論文になるまで最低でも1年はかかる。
だから最新情報は常に自分で確かめないとね」
「……ッ!?」
士郎がシレッと偉そうな口を利いてきた。
まるで学の無い子供に言い聞かせるような口調である。
士郎のクセに……ッ!
この私をバカにするなんて許せない……ッ!
こうなったら……ッ!
怒り心頭に至った私は、士郎を鷹のように鋭い目でキッと睨んだ。
そして両腕と片足をスッと持ち上げる。
まるで鶴が威嚇するかのように。
そう。
通信教育で習った中国拳法『鶴拳』の構えだ。
「きえええええええッ!!!」
鶴の嘴のように鋭く揃えた指の先端で、私は士郎を攻撃した。
打つべし打つべし打つべし打つべしッ!!!
死ね死ねバカ士郎ッ!!!
「なになになに急にどうしたの!?」
私の猛烈な突き攻撃に、士郎が狼狽えている。
フン!
少しは思い知ったか!
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