第六話
「「「――ッ!!!」」」
ミカエルの言葉を遮り、代理人として名乗りを上げた男に会場中が息を呑んだ。
「お前はマリウス!!」
「どうして貴様が!?」
ミカエル達が驚くのも無理はない。
聖女としてリーンが勝利の立役者となったように、このマリウスもまた英雄として戦争に貢献した人物だからだ。
身分こそ低いが、彼は名だたる敵将を幾人も討ち取っている。
「王太子を、皆を敵に回すつもりか!」
「今からでも遅くない撤回しろ!」
マリウスの実力は誰もが知るところであるから、半ば脅しも混えて必死に辞退するよう説得し始めた。ミカエル達も英雄を相手になどしたくないのだ。
「己の非を省みず、女性1人を嬲り者にする振る舞いは見過ごせない」
しかし、マリウスは臆する事なく淡々と王太子を非難した。神前決闘を強制してきたのはミカエルの方である。こうなってはミカエル達も引くに引けない。
マリウスとミカエル達が睨み合い、膠着状態となった。
いかに英雄と言えど5対1ならミカエルも勝てるとは思っているだろう。だが、被害は甚大となるのは予想に難くないだろう。
冷や汗を流しているミカエルは己を支える側近達の幾人が斃されるか、神前決闘を提案した事を後悔しているに違いない。
「マリウスの参加を認めよう」
そんな張り詰めた空気を破ったのは、エンシア国の王イノラスだった。
「ただし、参加者は次代を担う有望な若者だ。決闘で可惜その命を散らすのは許容できぬゆえ、マリウスには対戦相手を死なせる事を禁ずる」
滅茶苦茶な理屈だ!?
これではマリウスは殺意ある対戦者を殺さぬよう手加減して戦わねばならない。決闘、しかも神前決闘に権力を持ち込むなど神を畏れぬ蛮行である。
「さすが父上」
「おお!」
「これなら英雄と言えども」
だが、神聖な決闘を穢す行為にも、勝てると踏んだミカエル達は恥知らずにも活気づいた。
これ程の不利な条件ではマリウスに勝機は無いと誰もが信じて疑わなかった。それは、当事者であるライザ嬢も同じ。
「マリウス様、もう良いのです。あなたが私の為に死地へ赴くなど……」
驚く事に他に頼る者のない彼女がマリウスに代理人を降りるよう願ったのだ。
無関係のマリウスが自分のせいで殺されるかもしれない事実がライザ嬢には堪えられなかったのかもしれない。
「ライザ様、俺はあなたを救いたいのです」
「もう十分です。誰も手を差し伸べてくれない中でマリウス様だけが味方してくれた。それだけで私は救われました」
「ですが、俺が引けば確実にあなたは死ぬ」
「マリウス様は絶望の中で一条の光を照らしてくれました。誰もが敵となり心細く折れてしまいそうでしたが、あなたのお陰で踏み止まり私は矜持を失わずに済んだのです」
まだ少し顔色が悪いが、ライザ嬢は先程までよりも生気が宿り理知的な雰囲気を取り戻している。
「私は粛々と自らの運命を受け入れます」
まさに憑き物が落ちたかのようで、愛に狂った彼女はもうそこにはいない。その毅然とした姿は美しく、マリウスは眩しそうに目を細めた。
「マリウスよ、今ならまだ許してやる。さあ、ライザの代理人を辞退するのだ」
今ならマリウスは引き下がるとミカエルは踏んだ。この場の誰もが勝機の無いマリウスは尻込みするだろうと信じて疑わない。
「俺はその条件で一向に構わない」
だが、マリウスは薄く笑ってイノラス王の無理難題を意に返さなかった。
「神を畏れず神を穢し、神を敬わず神を侮る、そんな者が決闘で命を惜しむなど気の緩みしか生まれぬよ」
「吐かしたな!」
ミカエルは激昂し、側近や周囲の者もそれに同調した。
「英雄と煽られて増長したか愚か者め!」
「その命あると思うな!」
ミカエル達は威嚇するように恫喝したが、マリウスは何事も無かったような涼しい顔のままだった……