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第十五話

 

 白い光が闘技場の全てを白に染め上げた。

 闘技場にいる全ての者の視界が昏くなる。


 ドドォォォン!!!


 その直後、凄まじい轟音がこの場にいる皆の鼓膜を直撃した。


 ――雷!


 この音で観客にもこれが雷光であり、闘技場に落雷したのだと悟った。


 次第に焼かれた目が視力を取り戻していく。


「――ッ!?」


 その目が最初に捉えたのは、闘技場の中央で剣を天に掲げたまま焼け焦げ絶命しているミカエルの姿。


 誰もが言葉を失い息を飲む。

 まるで時が止まったようだ。


 マリウスも目の前で黒焦げになったミカエルを茫然と見つめている。

 そのミカエルだった黒い物体もゆっくりと傾いていくと遂に倒れた。


「マリウス様!」


 初めに動いたのはライザ嬢だった。

 彼女はマリウスの元へと走り寄る。


「ご無事ですか?」


 間近に落ちた雷の衝撃で気を失ったのか、倒れているマリウスの顔をライザ嬢が覗き込む。息があるのを確認したライザ嬢はほっと安堵の息を漏らした。


「うっ、ううう……」

「マリウス様!」

「ライザ様……いったい何が……」


 近くに落雷した余波か、マリウスは少し痺れが残っているようでよろめいたが、ライザ嬢の手を借りながら立ち上がった。


「これは……」


 ミカエルの剣を持つ焼けた遺体を見てマリウスは目を細めた。


「雷が落ちたようなのです」

「雷が?」


 マリウスは空を見上げ、それに釣られてライザ嬢も顔を上げた。いや、闘技場にいる全ての者が天を見た。


 闘技場の真上は雲一つない青空。

 雷雲など影も形も見当たらない。


 この状況に観客はどよめいた。

 先の雷はどこから落ちたのか?


 ――まさしく青天の霹靂ではないか!


「……天罰」

「神の怒りだ」


 誰の発した言葉か分からなかったが、観客の間から自然と湧き上がった。


 天罰だ、不届者のミカエルに神の裁きが下ったのだと……


 一点の曇りもない天より落ちてきた。

 しかも、これほどタイミング良くだ。


 ミカエルは神々の怒りを買ったのだ。

 これは天の怒りが降ったに違いない。


 そんな囁きが観客席から滲み出る。


 その様子を闘技場の最も高い貴賓席から苦り切った顔で一望している者がいた。


 この国で並ぶ者のない尊貴な存在イノラス国王……


 彼の位置からは全てが見えていた。


 確かに闘技場の上空には雲は無いが、僅かに離れた空には巨大な積乱雲が聳えていたのだ。


「これは自然現象か……それとも本当に神の力か……いや、どちらであっても同じ事か」


 この雷が偶然かどうかなどもはやどうでも良い。この場にいる者にとって今の落雷は不可思議な現象であり、それを彼らが神罰と認めてしまったのだ。


「ミカエルめ……しくじりおって」


 実の息子が雷に打たれて死んだと言うのに、イノラスは悼むよりも忌々しげに吐き捨てた。


「せっかくお膳立てしてやったのに醜態を晒して無駄にするとは……」


 情報操作でライザ嬢を悪者に仕立て上げたが、決闘の中で悪辣な振る舞いと神を軽んじる言動でミカエルは民衆の支持を失った。


「しかも、バリアスを衆目で処断するなどと軽率な真似を」


 更に拙いのは支援者である有力貴族の子息であるバリアスを自らの手で斬り捨ててしまった事。これでは国王の元で一つに纏まっていた貴族も割れてしまうだろう。


「極めつけはタイミング悪く落雷で果ておった」


 誰が見てもミカエルに神罰が下ったようにしか思えない。


「これではわしが決めた王太子に神罰が下ったと糾弾されるのも時間の問題だ」


 地の声を失くし、和を乱し、これで天の御心までもが離れれば国の未来はない。


「ミカエルめ、余計な手間を増やしよって親不孝者め。だいたい、あやつはいつも我が儘ばかりで……」


 ミカエルがリーンに篭絡され婚約者を蔑ろにしていたのを黙認していたのは他でもないイノラス王である。


「……これほど迷惑ばかりかける不出来な息子なら死んで寧ろ良かった」


 その己の不始末を棚に上げて実の息子をひとしきり罵倒して溜飲を下げる様は、この親にしてこの子ありだ。


「早急に手を打たねばならんな」


 イノラス王は神前決闘の勝者マリウスを何となしに眺めながら独りごちた。


「この状況でマリウスを葬るのは悪手」


 さすがに今マリウスに危害を加えればイノラス王が疑われる。求心力を失い民衆からも貴族からも見放されつつある時に更に、顰蹙を買う真似をすればどうなるかの分別はつくらしい。


「最良手はマリウスを祭り上げ取り込む事だが……」


 ライザ嬢への仕打ちに義憤を抱いたマリウスの王家への心証は最悪だろう。ましてや決闘に勝つ為、王太子ミカエル達が多くの悪辣な手段を講じている。


「生半可な褒賞ではマリウスも納得すまい。爵位か金か女か……」


 そう言ってイノラス王は首を横に振った。マリウスがそれらを求める姿が想像できないのだろう。


「さて、どうしたものか……ん?」


 頭を悩ませていたイノラス王がマリウスへ視線を戻すと、彼に寄り添う黒髪の美女に目が行った。


「ライザ・バロームか……」


 ライザ嬢を映したイノラス王の目が怪しく光った……


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