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第一話

 

「勝者マリウス!」



 右手を挙げた審判が勝利者の名前を宣言した。

 勝利者として名を告げられた男――マリウス。

 己の命を賭し挑んだ決闘にマリウスは勝った。


「何で勝っちまうんだ!」

「悪女の手先が!」

「さっさとくたばっちまえ!」


 しかしながら、観客席から湧いたのは勝者を(たた)える歓声ではななかった。何故か観客席を満たしているのは勝った筈のマリウスを非難する怒号と罵声。


 正々堂々と戦い勝ったにも(かか)わらず理不尽に言葉で叩かれ、それでもマリウスは怒りも見せず静かだった。


 マリウスは言った。闘いへ赴く前に――「俺は愛し、剣を捧げたあの方――ライザ様の為に闘うだけだ」


 つまり、彼にとって周りの雑音などどうでもよかったのだ。


 マリウスの目には愛する女性しか映っていない。

 それが報われる事のない恋だと自覚しながらも……


「ぐっ、これ程とは……だが、貴様の体力と魔力はかなり削られたはず」

「……」


 対して負けた対戦相手カルマンは憎悪の目でマリウスを睨みつけた。だが、それでもマリウスは凪いだ湖面のように穏やかな瞳で静かに見返すだけだった。


「まだ四人を相手しなければならない貴様に勝ち目はないぞ!」

「この決闘を受けた時に俺は生を捨てた」


 最初から死など恐れていない。ただ愛する者を裏切る事のみを恐れる。それだけ言い残すと背を向け所定の位置へと戻り目を閉じて静かに佇んだ。


 カルマンは勝負だけではなく人の器でも負けた悔しさに拳を床に叩きつけたが、それ以上は何も言わず闘技場を後にした。



「次の決闘は10分後に……」

「いや、今すぐ開始しろ!」


 審判の声を遮り一人の騎士が闘技場に飛び出してきた。

 赤髪の美丈夫――次の対戦相手である騎士のザックだ。


「カルマンの為にも奴に休む間を与えてはならん」

「ですが、一人で貴方がた五人と戦いを強いられているマリウス殿には休息の権利が……」

「貴様も悪女に(くみ)するか!」


 ザックの言い分に審判は呆れた。


「私はどちらの味方でもありません。ここは神前決闘の場であり、私はただ神の法に従うのみです」

「正義はこちらにあるのだ言う事を聞け!」

「なっ!?」


 そのザックの暴言に審判は鼻白んだ。


 自分達の正義の為なら神前決闘の法を曲げて良いとの言い分は、己を神より上に置いた物言いである。


 先のカルマンも神聖な決闘中に争いの原因となったライザ嬢と代理人のマリウスを口汚く罵って審判の顰蹙(ひんしゅく)を買っていた。


 更に傲慢なザックの言葉を受けて、審判の王太子側への心証はかなり落ちたのではないだろうか。


「こちらは王太子の意向をうけているのだ貴様は我らの言う通りにすればよい!」

「傲慢な! あまり神前決闘を(おとし)める言動をするようなら……」

「審判殿!」


 審判は怒りにザックへ警告しようとしたが、それをマリウスが止めた。


「構わない始めてくれ」

「しかし……いえ、分かりました」



 マリウスは優しい男である。


 相手はこの国の最高権力者の一人である王太子だ。決闘の最中は大丈夫であろうが、終わった後は審判の身の安全は保証されない。


 マリウスが不利な連戦を受け入れたのは、神前決闘を公正に取り仕切ろうとする真面目な審判を案じたからだろう。



「それで良いのだ。王太子に逆らえば貴様とて無事では済まさぬ」



 頷くとザックは満足そうに笑い、開始線まで進み出た。それとは対照的に審判は冷ややかな表情で彼を見ていた。


 その脅迫こそが審判の心証を最悪にしているのだとザックは全く気付いていなかったのだ……


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