ババ抜き
今日はどうやら肌寒い。寒気が止まらない。そう思っていたら、視界を黒が包んでいた。扉の閉じる音がかすかに聞こえた。黒いパーカーを着た少年が目の前まで来た。その雰囲気はあまりにも異様であった。下半身には学校の制服のようなズボンを履いていて、上半身には肌着に銀のチャックの黒いパーカーといった具合であった。顔には黒マスク、髪型は向かって右側が刈り上げられているアンシンメトリー。不思議に思って話しかけた。
「何歳だ?」
「もう忘れたよ」
「名前は?」
少年は無視して何かを取り出そうとしていた。流石におかしいと思ったが、少年が歩き始めたのでついていった。ふと、少年が
「ダイヤのJがここにあるだろう。これが今にジョーカーになる。」と言った。
どうやらさっき取り出そうとしていたのは、1枚のトランプだったようだ。そして少年はダイヤのJを振ってみたり、はじいたり、裏返しておまじないをかけたり、たくさんのことをしていたがダイヤのJはダイヤのJのままであった。私はがっかりしたが、少年は構わず進んでいき、山に入っていった雪の積もった大きな山だった。道がくねくねしていて、元来た道などとうに忘れていた。それでも少年は山を登っていく。そしてとうとう何も先が見えない所まで来た。前に風景が無いのである。そこから先は何も無いのである。そして、少年は道なき道へと入っていった。少年の背中が最初はぼんやり見えていたが、とうとう見えなくなった。どうやら少年も無に帰したようだ。私は戻るにも戻れず、進むのは不安で、だだ凍てつく寒さを感じながら、呼吸ができなくなってとうとう倒れてしまった。
そして目を開けた。その時、次第に薄れていく意識の中でトランプがあるのに気付いた。確かに、それはジョーカーであった。そして、次の瞬間にはジョーカーも何もかも無くなった。こうして大矢 士は白に包まれ死んでいった。