賢者ゼロ、魔法適性なし
魔法適性。
それは18歳時に誰もが開花する才能だ。
第一適性から第四適性まで存在し、その内訳は下記の通りとなる。
第一適性……ずば抜けた才能の持ち主。あらゆる属性にて強力な魔法を使いこなせる。
第二適性……才能あり。単一属性の強力な魔法を使いこなせる。
第三適性……才能なし。単一属性の弱い魔法しか使えない。
第四適性……正真正銘の才能なし。火を灯したり光をつけたり、生活レベルの魔法しか使えない。
一般の人であれば、この《選定の儀》は特に気にしない。
魔法の才能は遺伝が大きく影響するので、だいたいが「第三適性」及び「第四適性」になるからだ。
だが、俺――ゼロ・レイドリアスは別。
侯爵家として生まれた俺にとって、18歳の誕生日は《運命の日》といってもいい。
なにせ貴族にとっては、魔法の才能が最重要だから。
魔法の才能が、そのまま家の存亡に関わるから。
さらに言えば、現在、レイドリアス家は立場の危うい状況に立たされている。
ここ魔法王国ヴァレスタインにおいて、魔法の才能は絶対。貴族はその高い魔力でもって人民を助けたり、国の要職に就いたり、他国による侵略を防いだりするもの。その引き換えとして貴族は現在の地位を維持している。
つまり魔法の才能というのは、貴族にとって絶対に重要なものなのだ。
しかしながら、近年のレイドリアス家は才ある者に恵まれず……近いうちに伯爵家に落とされるとの評判が出回っている。
「わかっているなゼロよ。絶対に第一魔法を授かるのだぞ!」
だから父――バウロ・レイドリアスは、俺の才能に期待していた。
「この日のために、魔法の創始者様――ゼロ様と同じ名をつけたのだ! おまえにはそれくらい期待していると思え‼」
「は……はい!」
レイドリアス家。その一室にて。
父に発破をかけられ、俺は背筋を伸ばす。
今日という日のために、俺は懸命に修行を重ねてきた。
絶対に第一適性を授けられるように。父の恩に報いるために。
あとはこの《適性の儀》で第一適性と診断されれば、俺がこのレイドリアス家を建て直すことができる。
だからなにがなんでも、第一適性にならないとな……!
と、次の瞬間。
「うっ……!」
俺の脳裏に、突如いくつもの映像が浮かび上がってきた。
「なんだ……これは……?」
急に意識が遠ざかり始め――
そして突如、俺の前世の記憶が蘇った。
★
ああ……
俺はなんと幸せ者だろうか。
「ゼロ様……」
「ああ……おいたわしい……」
ベッドに横たわる俺を、二人の美女が涙ながらに見守っている。
両者とも俺の手をぎゅっと握り、そのほんのりとした体温が、俺の死への恐怖感を遠ざけさせた。
「ふふ……よいのだ……。おまえたちのおかげで、俺は幸せだったよ」
「なりませぬ。ゼロ様は魔法の基礎を作ってくださった。なのに、お歳94にして逝ってしまわれるなんて……!」
くしゃっとした泣き顔を浮かべながら、美女が俺の胸に顔を埋める。
「ありがとう。俺が魔法のすべてを作り上げたなぞ、おこがましいが……。これで《師匠》にすこしは近づけただろうか……?」
「ええ、もちろん! ゼロ様は私たちの希望です!」
「はは……大げさな奴だ……」
俺は残る力を振り絞り、彼女の頭を撫でる。
たったこれだけの動作で手が震えてしまうとは、寄る年波には勝てないものか。
それでも……このまま逝くつもりは毛頭ない。
俺は最期まで、《師匠》の背中に追いつくことができなかった。
だからこそ、来世にかけてみようと――
極秘裏に開発を進めた《転生魔法》を、こっそり自分にかけておいた。
うまくいくかは不明だが、成功すれば晴れて転生を果たせるはずだ。
――もちろん、魔法の技術をすべて引き継いだ状態で。
これならば、俺は転生後、新たな境地に達するはずだ。
その意味でも、死は怖くない。
死こそすなわち、新たな一歩であると――俺は信じている。
「ああ……。ありがとう、みんな。俺は……これで……」
「そんな! ゼロ様! ゼロ様ぁぁぁぁぁぁぁああ!」
美女の叫び声を最期に、俺の意識はぷつりと途切れた。
★
「ゼロ。ゼロよ、どうしたのだ」
「…………はっ」
ふいに名前を呼ばれ、俺は我に返った。
「ゼロ。今日は大事な《選定の儀》だ。しゃきっとしなさい」
「え、ええ。わかりました。父上」
――間違いない。
いまのは前世の記憶だ。
大賢者ゼロ・ガーリア。そう呼ばれ、おこがましいながらも《魔法の基礎を作った》とまで称されていた。
しかし、いかに大賢者といえども加齢には勝てず……
新たな境地に達するため、自分に転生魔法をかけていたんだった。
「ゼロよ。おまえは歴代でも魔法の扱いがうまかった。無事《第一適正》が選定されるよう、期待しておるぞ」
「は、はい。父上……」
そして今生、俺はまたも《ゼロ》と名付けられた。
ゼロ・レイドリアス――侯爵家として名高い貴族の息子として。
「ちょ……ちょっと待てよ……」
その《魔法の創始者》って、まさか俺のことか……?
いや。いやいやいや。
まさか。
そんな馬鹿なことがあろうはずがない。
たぶん同名の人物だろう、うん。
前世の俺はそこまでの異業を成し遂げていないはずだしな。
昔は《魔法王国》という名称ですらなかったし、俺の死後いろいろあったのかもしれない。
たしか、現在はガーリア1004年。
俺の死後、1004年経っている計算になる。
って、ガーリアって俺の家名だったような……さすがに偶然か。
そして今生の俺――ゼロ・レイドリアスは現在18歳。
この歳になると誰もが《選定の儀》にかけられ、魔法の適正を診断される。
だけど……うーん。
記憶をとりもどしたいま、これがさっぱりよくわからないんだよな。
たしかに、魔法には才能が重要だが――それ以上に、訓練のほうが大切だと俺は思っている。
自分に合った修行法を、正しいやり方で継続すれば……誰だってある程度は魔法を使えるはずなんだよな。
なのに、こうやって魔法の才能を限定する意味がわからない。
《選定の儀》なんて前世にはなかった仕組みだし……俺の死後、色々と変わったんだろうな。
魔法の才能についても、前世の俺が発見できなかっただけかもしれないし。
そして父バウロは、俺をこの第一適正であってほしいと思っているわけだ。
それが証拠に、王都でも最もベテランとされる鑑定士をわざわざ屋敷に呼び寄せている。別に鑑定士によって結果が変わるわけでもなかろうに、それだけ気合を込めているということだろうな。
「あなたが……今回の《選定者》ですかな」
レイドリアス家。その屋敷の一室にて。
準備を終えた老齢の鑑定士が、厳かな声でそう告げた。
「はい。ゼロ・レイドリアスです」
「うむ……よろしい」
現在、この部屋には俺と父、そして鑑定士しかいない。
これもまた父の配慮だ。
大人数の視線に晒されて、鑑定の結果がブレては困るということらしい。
「それではゼロ殿。前に来なさい」
「はい……!」
思わず声がうわずってしまう。
転生魔法で前世の魔法を引き継いだとはいえ――今生でもそれが通じるかわからないからな。
現に、こうして謎の魔法適正の仕組みができあがっているわけだし……
千年前の能力が、現代でも通じるかはいまもって不明なのだ。
その意味では、この《選定の儀》は絶好の機会だろう。
仕組みは正直よくわからないけれど、第一適正として認められれば才能があるってことだしな。そうなれば無事、大賢者ゼロの能力は現代にも通じるということになる。
この《選定の儀》、めちゃくちゃ心臓に悪い。
「ゼロ。しゃきっとしなさい」
「はい……!」
父に発破をかけられ、俺はかろうじて元気な返事をする。
そのまま俺は鑑定士の前まで歩み寄り――
そして鑑定士と机を向かい合わせた位置で立ち止まった。
「この水晶に右手をかざしなさい。それによって儀式は完了する」
そう告げられ、俺は小さく頷く。
ごくり。
そのまま震える手で、俺は机上の水晶に右手をかざした。
――ん?
なんだ?
気のせいだろうか。
この水晶のなかに、なにかしらの生物がいるのを感じる。
しかも俺が手をかざした瞬間、びくっと怯え出したような……
「な、なんじゃと……⁉」
途端、鑑定士がぎょっと目を見開いた。
「ば、馬鹿な! こんなことが……⁉」
「ふふ、どうだ鑑定士よ。我が息子の才能に言葉も出ぬか」
父バウロが誇らしげに歩み寄ってくるが、次の瞬間に鑑定士から放たれた言葉は、俺の予想だにしないものだった。
「いえ……鑑定結果は――第四適性です」
な……⁉
だ、第四適性だって……⁉
生活レベルの魔法しか使えないって、嘘だろ……⁉
「ば、馬鹿な!」
一番大きな反応をしたのは父だった。
「ゼ、ゼロは栄誉あるレイドリアス家の息子なのだぞ! 先代はみな第二か第一適正だったはず……! なのに第四適性ということがありうるのか⁉」
「しかし、水晶の反応がありませんからな。第四適性、と判断するのが妥当でしょう」
「…………」
「信じられぬ気持ちはわかりますが、これでも鑑定士として長年修行を積んできた身。残念ながら、結果は正確だと思われます」
鑑定士がゆっくりとそう告げた瞬間。
俺の左手の甲に、四角の紋様が浮かび上がった。
これこそが第四適性――
才能なしと鑑定された者が授けられる、劣等なる魔法紋だ。
「な……ななななな……!」
この瞬間を、俺は忘れもしないだろう。
さっきまで俺を大切に扱ってくれた父バウロが――態度を大きく豹変させたのだから。
「おのれゼロ……! この私の恩義を無駄にしおって……!」
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