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呪文:四字熟語(+)  作者: 彼方 日出秋
4/8

古文・漢文もしくは脱衣麻雀

*1

闇落ちし、師匠を倒した兄弟子(ずっと気になっているのだが師匠にとって兄弟子ということは、私から見れば正しくは「伯父」弟子になるのだろうか?)の悪い噂があちこちから聞こえてくる。方々で退魔と称して困っている貧しい人々から多額の報酬をぼったくったり(それがさらに魔物と組んだ自作自演だという説すらある)、ディズニーランド旅行の社員積立金を使い込んだりと悪行の限りを尽くしているという。

同じ血族じゃなかった流派に連なる者の中に、強きを助け弱くを挫く彼が居ること自体、私は我慢がならなかった。


*2

人里離れた、見るからに不気味な地底湖の畔にある兄弟子(伯父弟子?)の秘密アジトを私は急襲した。


-乾坤一擲

アジトはド派手に崩壊したが、素早く身を躱した兄弟子は残念ながら無傷だった。


「あの時の小娘が良くぞここまで成長したものだな。」

肩に付いた埃を手早く右手で払いながら、いやらしい視線で私の顔や胸、腰、お尻を体の線に沿って上から下にねっとりと舐め回すように這わせ、遠慮なく値定めて来る。

兄弟子が言った「成長」の意味が魔法の技量ではないことを覚った私に、地底湖に響き渡る兄弟子の声が被さる。


-脱衣麻雀

ボワンと白い煙に包まれ、私の趣味良くキメた衣装が露出度の高いバニーガールに変わった。体のライン丸出しの黒のぴっちりとしたバニースーツ、網タイツにピンヒール。頭には白くて長いウサ耳、首には白い襟に黒いボウタイ、両手首には白いカフス、そしてお尻にはふんわりした白くて丸いウサ尻尾が付いている。

-勝負に負けると脱がされてしまうのか?いや、私が勝って兄弟子(あいつ)の裸を拝むのはもっと嫌!

身構える私に対し、兄弟子(やつ)は私のバニーガール姿を見て目尻を下げて野卑に笑う。

「うけけけけけけ。」


どうやら単に私をこの格好にしたかっただけらしい。・・・考え過ぎて損した。ホッとすると同時にこんな相手に一瞬でも怯んでしまった自分に対してをも含めて、ムラムラと怒りが沸き上がってきた。

-こんなセクハラ野郎をこの世に生かしてはおいては、世のため人のためにならない。

私は中年禿げの、この女の敵を滅することを固く決意した。


一方、兄弟子と会って以来、私の鞄の封印箱の中で龍玉が「ここから出せ」と云うようにカタカタと動いている。より強い力を持つ主を求める龍玉が、本能的に兄弟子の方が私より力量が上なことを察しているのだろう。

その事実に思い至った時、私の計画バトルプランは崩壊した。切り札として龍玉を使うことを考えていた(龍玉が暴走した時は「闇の砂」が止めてくれると、「闇の砂」に妙な信頼を置いていた)が、龍玉が兄弟子に力を貸すような事態になればアベコベになってしまう。


 龍玉に気を取られていると、

古代魔法「詩経」で兄弟子が仕掛けてきた。


-祇園精舎之鐘声


平家物語か。くーっ。高校の古文・漢文の授業を教科書によだれを垂らして寝てないで真面目に受けておけば良かったと後悔したが、もう遅い。後悔先立たずとはこのことである。呪文の効果が私に降り掛かるのを防ぐには続きを受ける他ない。私は返歌を唱えた。


-有諸行無常響


光と共に魔法陣と対戦時計が現れ、闘技場リングに閉じ込められる。彼我の実力差を鑑みたのか、対戦時計が私にお手付き3回のハンデを与えてくれた。それに不満なのか龍玉が鞄の中で再びカタカタと不穏な音を立てる。


-婆羅双樹之花色【兄弟子】

-顕盛者必衰理【私】


リズミカルで心地よい詠唱の掛け合いが続く。


-奢人不久、如春夜之夢 武者終滅、同風前之塵【兄弟子】

 あっ、ずるい。女の敵が残りを言ってしまった。さすが悪名名高いだけのことはある。

この続きは何だっけかな、中国の皇帝だったかなと焦って昔の記憶を辿っていると、勝敗の帰趨を察した龍玉が封印箱をぶち破り、バイーンと自らの意思で兄弟子の方に飛んで行ってしまった。

-落ち着け。落ち着くんだ。

自分を落ち着かせようと心の中でそう唱えながらも、想定外の出来事の連続にワタワタと焦りまくる私に対戦時計が無情な判定を下す。全ての呪文の効果が、全てを無に還す無常な砂塵の奔流の渦となり唸りを上げ私に襲い掛かる、そのとき。あちらこちらでちびちび使い、残り少なくなっていた「闇の砂」が、龍玉が飛び出した鞄の裂け目から小瓶ごと渦の真ん中に割り込み、和了あがると死ぬと呼ばれている伝説の麻雀の役の名を唱えた。


-九蓮宝燈

パリンと小瓶が割れると14枚の紅い牌となって渦から私を庇い、砕け散り塵となって消え去った。別れの言葉を私に残して。

走死走愛そうしそうあい)。」

 

えっ?と思う間にダブル役満の威力で親をも吹き飛ばす粉塵爆発が起き、消えかけていた闘技場リングと対戦時計を地底湖諸共、形状崩壊させる。衝撃波に弾き飛ばされる中、思い浮かんだのは自分でも意外な一言だった。

人としての生はとっくに終わっていたとは言え2度に渡って私のピンチを救ってくれた「闇の砂」に

 -もう少し優しくしてあげれば良かった。

私はほんのちょっぴりだけ後悔した。


 *3

次に意識が戻った時、私は瓦礫に埋もれていた。体のあちこちに激痛が走る。守備力が低いこんな服を着ているのだから仕方がないのかも知れないが、肋骨が折れて肺に突き刺さっているらしい。私は兄弟子を取り逃がし、龍玉と「闇の砂」をも失った。おまけにこんな破廉恥な格好までさせられている。

-このままで済ます訳にはいかない。

あんな変態にこんな屈辱的な仕打ちを受けたまま終わるなんて私のプライドが許さなかった。だが、思うように体を動かせない。


―○△□×

回復呪文を唱えようとするが、胸の奥から熱い塊がせり上がって来て言葉にならない。

がはっと血を吐き、私は再び意識を失った。


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