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後宮の下賜姫様  作者: 四宮あか
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後宮の下賜姫様

「ところで貴方様がどなたかお聞きしても?」

 琳明がそういうと男の手は顎から素早く離れた、下級妃賓で饅頭姫と裏で呼ばれていたとしても……琳明は正式な妃の一人だ。

 男が気軽に触れられる身体ではない。

「これは、王の姫君でしたか。失礼いたしました、私は(さい) 玲真(れいしん)。忙しい王に代わり後宮内の王の目が届かぬ所に顔を出し仲裁するのがお役目とでも申しましょうか……」



 玲真は今回あの場所で何があったか知りたかったようで私の宮へと足を運ぶこととなった。

「琳明様どうするのですか?」

 宮が現在備蓄庫のようになる大惨事だからこそ、どこにお通しするのかということだろう。

 全く、頭が痛い……

「何かみられたら困るものでも?」

 こそっと琳明だけに聞こえるようにと小蘭が耳打ちしたにもかかわらず、その話題にすかさず玲真は割り混んできた。

「その目でご覧になればよろしいかと……」

 後宮のお目付け役だというのならば、大惨事になる前に何とかしてくれればよかったものをと琳明は部屋の惨状を思い返して腹が立ち。

 そして、ため息をついた。



 琳明の宮をみた玲真はまさしく絶句という言葉がふさわしかった。

 最初は宮の周りに吊るしてある野菜に対して、眉毛をピクリと動かした後。

「食事が口にあいませんでしたか?」

 と口に出した。

 野菜を干すのは後宮の食材が口に合わないからか? そうじゃないなら吊るすなやめろとやんわりと言ってきてるのがわかる。

 誰が好き好んでやったものかと思うけれど、それをぶつけてはいけないことくらいはわかる。

「これは先日私が王から賜ったものでございます。これでも、ずいぶんと店の者に無理をしてもらいました。流石にこれ以下の量には代金をいただいているのでできないと言われまして。よろしかったら、中でお茶をお出ししましょう」

 



「狭いですがおかけください」

 琳明は頬笑み、玲真に宮のすっかり隅によけられた席につくように促した。

 王の代わりに後宮の仲裁をするというくらいだからそれなりの立場だろう。ここは一つ媚をうって、このひどい備蓄庫状態の部屋を何とかしようと思ったのだ。


 すっかり隅に追いやられた薬草達の中から玲真にいいものをと選ぶ。


 座るように促された玲真はまるで壁のように積み上がる小麦の入った袋に絶句した。

「これは?」

 小蘭に玲真は尋ねた。

「これは、王が琳明様に贈られた小麦でございます。饅頭の材料を届けるようにと……小麦だけではなく野菜も随分届けられまして。雨にあたると傷むので仕方なく小麦を宮に入れましたらこうなりました」

 玲真は絶句した。


 琳明は淡々と茶葉の中に、薬草を混ぜるべく、吟味していると玲真は目ざとく声をかけた。

「これは、対応が遅れもうしわけないことをした。ところで琳明妃は一体何を?」

「茶を調合しております。饅頭だけではなくお茶も評判なんです。こうやって茶葉を合わせることで味が変わるのです」

「……お前何者だ?」

 薬と言えば警戒されると、琳明は言葉を濁し言ったのがあだとなったのかもしれない。急に玲真は先ほどと違った鋭い口調で琳明に詰め寄った。



「何者? とは」

 自分よりもはるかに体格が勝る男にすごまれ距離を詰められては、さすがに足が後ろに下がる。

「これも、これも、これもすべて薬草。私に何を盛るつもりだった? 目的は?」

 玲真は琳明が後宮で見つけて乾燥させた薬草を次々と手に取る、その動作だけで十分だった。彼は少なくとも薬学の知識があると。

 玲真は琳明に詰め寄り、見下ろした。整った顔は訝しげにしかめられ目の前にいる女の正体を見定めるかのように鋭い眼光が琳明の情報を少しでも多く得ようとしてじろじろとみられる。




「別に毒など盛るつもりはございません。上手く化粧でごまかされているようですが、眠れないのでしょう?」

 琳明が手を伸ばすと、一瞬玲真は何をされるのかとビクっと肩を震わせた。琳明の指が玲真の目の下をなぞると白粉がはがれ見事なクマがあらわれた。

「何を……」

「肌が荒れているのを上手くごまかしていたようですが、伸びがいいからと禁止されている鉛のはいった白粉をそのように沢山肌に塗るのは薬師として推奨できません」

「饅頭屋の娘だったはず、入れ替わったのか?」

「別に入れ替わってなどおりません、もともと私は()()を売っていた()()の娘だっただけでございます。腕なら心配ございません。これでも、後宮にさえ召し上げられなければ跡取りは私でしたから」

 そう話しながら手はなれたように薬草茶の準備を続けた。


 玲真の整った顔が何をするのかと琳明をみつめる。

「さぁ、お茶をしましょう。先ほどのことを聞きたいのでしたね?」

 そういって、琳明は最初に一口飲んで見せてから茶器を玲真の眼前に突き出した。


 玲真は茶器を受け取るとこう言った。

「その話は後だ。君が跡取り候補だったのは納得した。見事な眼をもっているようだ。私の仕事は後宮での仲裁役、主に王のお手つきがなく荒れる妃を身体を使わず慰めるのが仕事。体調が悪ければ、それにつけこむ妃が必ず現れるこの容姿だからね。

 宦官が化粧をして自身の体調をごまかし取り繕っているだなんて、ここにいる医官も思わないようだね、これまで見破られなかったから化粧の腕には自信があったんだが……

 さすが女だね」


 口調が丁寧なものからガラリと変わる。

 眼付も以前鋭く値踏みするかのように琳明の上から下までを見つめた。


「男でありながら後宮内を自由に歩き回れるお立場の玲真様から、薬師としてお褒めの言葉を頂けるとは光栄です」

「一つ琳明妃にいいことを教えてやろう。後宮に入るためには多くの条件があるのは知っているだろう? 表立って公開されてない条件の中の一つに薬の知識がある者は、後宮へは入ることができないというのがある。後宮へは王が通われ、お世継ぎを作られ、そして育てられる場所だからだ。

 薬屋の跡取りを諦めてもらったところ大変申し訳ないが……君が薬屋の娘だとわかっていれば下賜姫(かしひめ)として召し上げられることもなかっただろうに……」

 下賜姫というききなれない単語に琳明は首をかしげた。

「かしひめ?」

「あぁ、ききなれない言葉だろうね。君はずいぶん若い官の間で評判の饅頭売りの娘だった。君はもともと王の相手役として後宮にいれたわけではない。もとより、家臣への褒美として下賜されるために後宮に呼んだのさ。君みたく最初から家臣への褒美として下賜されるために後宮に入った姫君のことを裏ではこういうのさ――――後宮の下賜姫様」

 玲真は美しい顔をゆがめて琳明にそういって笑った。



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