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後宮の下賜姫様  作者: 四宮あか
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目に焼き付ける

 後宮に今後も残る妃だと決定した琳明の生活は一変した。

 住まいこそ17歳になるまでは、下級妃賓の宮で留まることになったが。

 その後は王に望まれて後宮に残ることとなる琳明は、誕生日がくれば上級妃賓の住まう場所へと宮を移すこととなる。



 一番の変化は周りの琳明への扱いだ。

 これまでは、妃の中で一番下の位の琳明は、下女にとっても同じ妃にとっても、琳明はいずれ17歳になれば市井にもどされる女だったのだ。

 でも、もう違う。後宮へと残れという王の意思表示があったのだから、寵愛されていなかったとしても利用価値はあると判断されたと皆が知ったからだ。




 後宮で堂々と毒殺を試みた事件は、緘口令が敷かれてはいるが後宮で知らぬものなどいなかったし。その事件で琳明が優秀な薬師であり、事件解決に一役買ったのも周知の事実となっていた。

 だからこそ、琳明が王に後宮に残るように言われたという噂が立ちどころに広まると、少なくとも利用価値はあるだろうとだれもが疑わなかった。

 下女や女官だけではない。下級妃賓の妃たちですら、琳明より先に頭をさげ挨拶をするようになったのだ。

 そうされればされるほど、私はいっぱい食わされここに残ることになったのだと突きつけられる。


 玲真との契約に穴がないかと何度も書面を改めたが。

 そこには玲真が言う通り。契約の穴はなかった。

 そして、突きつけられるのはそこには愛はなく。利用価値があるから残される私は、鳥かごに入れられた鳥のように、この後宮で何度も空を見上げるのだろう……



 そんなころに祖父から琳明に文が届いた。

 元気に過ごしているかということ。

 いつ後宮から戻ってくることになるか分かり次第連絡してほしいこと。

 琳明の母が帰ってきたら好きな物をなんでも作ると張り切っていること。

 読んでいた文字はだんだんとゆがんでいく、琳明の目じりに涙がたまったからだ。

 目からぽたりと落ちた涙は達筆な祖父の文字をにじませた。



 涙が治まってから琳明は返事を書いた。

『戻れなくなった』

 たったそれだけである。





――――



 どれだけ足掻いても無駄なものは無駄。

 突きつけられた現実は残酷だった。

 玲真は琳明の宮へと何度も足を運んだが、琳明は玲真に交渉すらせず。

 空を眺めていた。


 



 いよいよ17の誕生日がもう1週間と控えていたときだった。

 朝から慌ただしく身支度をされいつもと違うことに琳明は小蘭に何があったかと聞いた。

「お忘れですか、あんなに楽しみにされていたではありませんか。今日は武官の力量比べの催しがある日ですよ。玉のついた簪はこちらでよろしかったですか? まずは軽く髪に椿の油を塗りましょう」

 もう、そんな日だったのか……

 すっかり忘れてしまっていたというか、祖父への手紙を書いた日依頼すっかり生活の張り合いがなくなってしまっていた。



「そう……」

 琳明の気持ちはすっかり沈んでいた、それでも、髪は丁寧にとかされつやが出ていく。軽く結わえて頭に琳明が散々悩んでいた玉がついた簪がつけられる。

 鏡に映った自分をみて琳明は思った。よく眠れていないから肌が荒れているし、化粧でうまくごまかされているけれど、クマがひどいのだろうと。薬師ゆえに、ふっと鏡をみた自分の顔から体調をついつい計ってしまうが、こんなことができない普通の女だったら、私はどうなっていたんだろうと思ってしまう。

 まぁ、そうだったら名も知らぬ官に褒美に下賜されて終わりどころか、薬屋の跡取りとしての勝負にまけていただろうな。

 琳明は乾いた笑いを浮かべた。



 ずらりと妃が並ぶはあの宴のとき以来だろう。あの時は一番下の席だった琳明の席は下級妃賓の中で一番高い位置にあった。

 まぁ、あの事件の後妃は半数ほどとなったのだから少し上がったところでたいして変わらないのだけれど。それでも、近くで最後に向俊を観られる最後かもしれないとあって。

 琳明の視線は、王である玲真ではなく出番を待つ武官達のほうへと注がれていた。




 王からの言葉と偉そうな武官の挨拶が終わり力量比べは始まった。

 といってもすべての試合を琳明が観戦できるわけではない。都にいる武官の数は多く、試合場がいくつも並ぶ。もちろん琳明を含む妃達の前でも試合が行われているが、向俊が目の前で行われる試合に運よく出るとは限らない。

 琳明は必死に沢山の人の中で向俊を探すが、運悪く向俊は妃達が座っている場所から遠い場所で試合をしているようでその姿を観ることはかなわない。

 目の前で模擬槍をつかって戦う武官達を眺めながら、妃達は優雅に酒を嗜み物を食べる。

 少しずつ勝ち負けが決まっていき、負けたものは観覧へと回る。



 どれくらいの試合が行われたのだろうか、人数が少なくなったことで、残りの試合はすべて目の前にある試合場で行われるそうで、ここまで勝ち上がった武官がずらりと並んだ。

 その並んだ中にまさかの向俊を見つけて琳明は思わず口元を両手で覆ってしまった。そうでもしないと声が出てしまったから。

『見に来て、成績をみて安心して嫁いでほしい』何度も試合を見に来てほしいと向俊が言っていたことを琳明はようやく思い出した。

 あれほど人数がいたのにここに残れるほどの実力者だったのかと。


 向俊がまっすぐ琳明を見つめた。琳明と向俊の間には20mほど距離がある。それでも彼が私をみているのがわかる。この段階になって琳明はようやく思い出す。ただ大会が開かれるわけではない褒美をもらえるということに。


 演習ではあるが、ここから先は終盤で王の御前で行われる優勝者を決めるものとなる。

 槍も練習用の刃の部分が木のものから、本物へと変わる。

 薬師の琳明にしてみると、練習で本物を使うなんて怪我することを考えるとばかげていると思ってしまうが。本物を使わないと得られない緊張感を経験しないといけないと言われると何も言えない。



 神なんか信じない琳明だったが、今日ばかりは思わず手を握りしめ怪我などしないよう祈った。



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