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後宮の下賜姫様  作者: 四宮あか
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取引の結末

 張 孫卓は目を閉じた。

 おそらく損得や自分に降りかかる可能性などもいろいろ考えているのだろう。

 口をはさまず、孫卓の結論を待つ。


 この交渉が駄目なら琳明にとっては、後宮へ戻ることがかなり厳しくなる。

 琳明を外へ出した業者はわからない。

 それに、後宮とつながりのある大店を見つけられたとしても、後宮へ琳明をこっそり連れていけなんてむちゃくちゃな願いを引き受けはしないだろう。

 張 孫卓はしばらく考えた後、顔から笑みが消えた。

 ぶすっとした顔で、私をまっすぐ見つめるとこういった。

「片道だけだ。後はこちらは知らぬ存ぜぬを通す。アンタが中で失敗しても助け船など出さない」

「それで十分。恩にきるわ」





◇◆◇◆


 琳明のところには一度も持ち込まれたことがないような色とりどりの絹の布、櫛に鏡に他には装飾品があれやこれや。

 前回琳明のところに饅頭の材料を大量に持ってきたときとは違い、数名の女性もいれての訪問だった。


 てっきり、何か変装なり隠れていくなりして後宮に入ると思ったのに。

 琳明は普通に連れてこられたのだ――後宮へと。


「あなたが琳明妃だと指摘されれば、もしやと思い捕まえ連れてきたと言う。指摘されなければ、そのまま私たちの一員として後宮にはいれましょう」

 抗議したかったが、張孫卓にとっても、琳明をつれて後宮へ入ることはかなりの危険を伴うのだ。

 より危険の少ない選択肢を選んでしまうことは今の琳明には責めることはできない。



 他の一緒に後宮へ入る女たちと同じように髪をまとめ上げ、後宮の下女や女官と区別がつくようにそろいの衣に袖を通す。

 意識があるどころか、顔などは琳明のままだからこそ余計に後宮から出た時よりも緊張するが女は度胸。祖父の無理難題にも私はうまくやった。

 堂々としろ、自信のなさは不安を相手へと伝えてしまう。

 変に後ろに下がっていた方が余計に相手が気に留めるものだ。


 琳明は胸をはり、顔を隠すことなく張孫卓とともに後宮への出入り口へと向かった。門番に私のことを知っている人物がいないことを祈るのみ。


 後宮の入り口の門番は二人。張が手を挙げると、頭を軽く下げた後、深い堀に橋が下ろされる。

 馬車が渡り終わると、橋はすぐさまあげられる。

「寒い中ご苦労様です。品物を何点か中に持ち込みたいのですが、検閲をお願いいたします」

 張はそう言って頭を下げる。妃として後宮に入る時とは違い、門を開けるまでに品物を検めるようだ。

 一人の男が荷物に近づき不審な物はないか荷を改め出す。ケチな琳明は改められる商品をみる。どれも一級品だと一目でわかる。

 鼈甲の髪飾りなど見事でため息すらでる。同じ後宮でも、こんなものをポンっと手に入れられる妃もいる、天と地ほどの差があるものだと琳明は思った。


 

 早くと気持ちが焦る。検閲はようやく終わった。これで中に入れる。顔には出さないがほっとする。

「よし、お前こちらにこい」

 琳明を指さし呼ばれたのでドキッとした。

 琳明は呼ばれるまま兵の前にやってきた。

 駄目かと思ったら、男は琳明の袂を触る。なんだ、ただの危ないものを持ち込まないかの点検か。

 琳明が終わると、次々と後宮の中に入る人物が簡易な点検を受けていく、孫卓は袂から短刀を取り出すと兵にあらかじめ渡す。


「よし、いいぞ入れ」

「はい、ごくろうさまです」

 孫卓は頭を深く下げると中へと入ろうと歩みを進める。


「ちょっと、そこの髪色の珍しい女」

 間違いなく琳明のことを呼びとめられて、今度こそ駄目かと震えそうになる。孫卓がここまできたらどう乗り切るかを考えだした顔をした。

「はい、何にございましょうか」

「最近は持ち込みにうるさくてな。今日持ってきた品物はなんだ」

 琳明を除く他の皆さんは一流の商家で働き、かつ後宮への出入りまでしている人材だ。

 私は下っ端なのでわからないなど通じるはずもない。


 そんな下っ端は本来連れてこれる場所ではないからだ。

 孫卓は口をはさまない、いや挟めないのだと思う。

 普段しないことをするとやはり不自然になる。

 そして、琳明がこれを乗り切ることができなければ、張孫卓は簡単に琳明を切り捨て保身に走るだろう。



「……はい、これは失礼を。簡単に説明させていただきますね」

 不幸中の幸い、説明相手はいい家の出である妃ではないどころか、男の兵だ。

 兵でも身分の高いものはもっと中の仕事となる。

 いけ、一世一代の張ったりをかませ。とはいえ、すべての持ち込んだものを琳明は把握してないしかし、品物がよくわからないのは琳明だけでなく兵も一緒だ。からこそ、琳明は品物に歩み寄る。


 自分の知識をすべてひねりだすのだ。

 色は淡いものが多い、飾りもよく見れば春の花が多い。衣には仕立てる時間がつきものだ。今の間に春物を仕立て、布に会う飾りを早めに押さえておきたいのだと思う。

「春物の衣を仕立てるために本日は淡い色を中心に布を何種類かご用意させていただきました。先取りが何事も重要ですから。こちらの薄紅色のものなどは例年人気のお色味となります」

 精一杯それらしいことを並べる。

「細かい説明はいい」

「これは失礼いたしました。衣にあわせて春の花をあしらった飾りを中心に鏡や小物類もご用意してきております。こちらは妃様用ですが、店の方でもそろそろ春物の取り扱いをしております。よろしければ後日、奥さまに一つ見に来てくださいませ。何かご質問があれば、主様もいらっしゃるのでより詳しいお話がきけるかと思います。」

 ニコニコと笑みを浮かべながら適当に商品を取り出しそれらしく説明し、詳しいことは若輩者の私より主様に聞くようにと促した。

「よし、ごくろうだった」




 最後に一礼して、門をなんとか後にした。



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