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後宮の下賜姫様  作者: 四宮あか
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玲真の思惑

後宮から妃が市井に降りることは普通ならありえない。

 危険にさらされ、熱まで出した苦労したのは事実で。

 だからこそ、恐ろしい仮説を認められずにいた。




 でも、いつまでもそれを琳明が認めずにいることのほうがずっと玲真に振り回されていることになる。

 琳明は深呼吸をすると到底すんなりとなっとくできることではないが、玲真に嵌められたかもしれない事実を受け入れ、玲真が妃である琳明を市井へと出した本当の思惑について考える。



 琳明の顔つきが変わり、上游は満足そうに髭を撫でつけた。



 玲真は後宮に身分を偽り、堂々と後宮へ顔をさらし出入りしていた。

 陶器を麗華は使っていたことを玲真に報告したけれど。

 そんなこと上級妃賓のところを後宮の困りごとを解決するために回っている玲真なら、銀食器ではないことにとっくに気が付いていただろう。




 比較的手に入りやすい毒物ヒ素。

 中和薬を飲ませていたということは、間違いなく毒は何かわかっていて対処をしていたということいなる。

 毒の流れを掴むように、市井に行かされたけれど。

 そんなの毒の種類が、日常生活でもありふれた物となれば、流れの特定の使用がないのがわからないはずもない。

 となると、私をわざわざ後宮から危険があるなかで、抜け出させ市井に降りさせたのはなぜか……


「毒はありふれたものだった、珍しいものではないし。毒が何かわかっているなら、流通量が多くて探しようがないこともわかっていたはずなのに、なぜ私に探せと命じたの?

―――――まさか、私が市井に降りることが目的だった」

 なんとなく浮かんだことを琳明は口に出す。こうして口にしていくうちにバラバラだったことがまとまったりする。

「そう考えるのが一番しっくりくるな。どういう経路で後宮に持ち込まれたかを明らかにしてくることは、砂漠の中から1粒の砂糖を探すようなものじゃからな。となると、彼の目的は別にあった、それを遂行させるために毒という理由をでっちあげ、お前を市井に出すという大ごとを実行したと考えるのが普通だろうな」

 ひげをなでつけながら流石歳を重ねているだけあって、冷静に客観的に上游は分析しだした。




 つまり玲真は私と向俊に市井に降りて毒の流れを明らかにさせるためにやったのではなく。

 後宮内で何か起こすことで、敵の目をそらさせたかったのが今回の一番の目的ということだろうか。

 そもそもずさんすぎる二重底での脱出方法を提案してきたことがやっぱりおかしかった。

 琳明に問題の解決を頼むのではなく、もし脱出する際にみつかり、出入りの業者の荷物にまぎれて妃が後宮から出ようとしたという事件が起こるだけでも玲真にとってはよかったのではないだろうか。



 もし、琳明が見つかれば、それこそうまく理由を並べて後宮に毒物を持ち込んだ業者がどれかわからずとも、すべての取引をいったん見直しすることにして自分の息のかかった業者にもっともらしい理由でかえることができる。


 玲真にもしも見つかったらと聞いたとき、『処分は私がすることになるから、その時にうまくとりなしてやるから心配するな。鞭で何発かもらうくらいですむだろう』といっていたが、これはあくまで口頭で言われたことであって、最初の約束とは違い書面には残してない。

 


 玲真の身分が身分だから琳明は命令されることを疑問に持たなかったけれど。

 商人同士だったら絶対に口約束などはなかったことにされては困るし、よほど信頼のおける相手としか結ばない。

 玲真は琳明にとって信頼に足る人物だとは言えない、ただ王であることが真実だったとしても、琳明を最後の最後まで守る保証がない。

 玲真は分がわるくなれば、その約束はしていないからと琳明を見捨てる可能性があったことに今更気がついて琳明は顔が青くなった。




 突如やられた杜撰な計画と思っていたが、脱出の際は琳明と歳が近く武官になったばかりで後ろ盾どころか姓もない切られてもちっとも怖くない向俊。

 琳明にはわざわざ下女の衣を調達してあった。

「向俊。玲真様と何か約束や契約をした?」

 あわてて隣にたたずむ向俊に琳明は聞いた。

「下賜したい妃がいるどうやったら、貴族でもない私でも下賜できるかを聞いて回ったら上官から紹介されたのが玲真様だった」

 頭の中でばらばらになっていた物語がようやくまとまりだす。

 そもそも後ろ盾もなく名字もない向俊が武官としてまだ都にいるのか、そこからしてまずおかしかったのだ。

 突出してるならともかく……

 


 どこからか下賜したい妃がいるという話は玲真に伝わり、#あえて__・__#向俊は都に残されたのだとしたら?

「それで……」

「下賜したい妃がいるとは面白いと話をきいてくれたのが玲真様で。それなりの身分の方なのだと、何度か会ううちにわかってそれで。妃の一人を1週間だけ市井に降りるのを手伝ってほしいことと脱出方法についての説明を受けた」

「書面は? 何かその約束を書面に書いたの?」

 琳明がそう詰め寄ると向俊は首を横に振った。そりゃそうだ、商人である琳明と違い向俊は書面に約束事を残など思いつきもしなかったのかもしれない。



 琳明の中で疑いがだんだん確信へと変わる。

 後宮に毒を持ち込んだ犯人を見つけるより、怪しいと思わしい出入り業者を一層した方が楽で確実に決まってる。玲真は後宮に毒物を持ちこむ輩がいなくなればいいのであって、持ち込む人物を特定する必要などないのだ。




 玲真の目的は最初から琳明に持ち込まれている毒は何かとか、どこの業者が持ち込んでいるのかを探らせることじゃないし、妃が後宮で失踪したことで後宮内で誰かから目をそらせたい出来事があるわけでもない。



 毒を持ちこんでいる業者を特定せずとも、業者を一掃できばいいのだ。

 だから、妙齢の男とともに後宮から業者の手引きで妃が後宮から失踪したという、業者側が言い逃れのできない事実が欲しいだけなのだ。

 妃は幸いにも下賜姫として召し上げた市井から呼び寄せた町娘と地方からしばらく都に滞在し武官の試験を受けた後ろ盾のない男、二人の関係などがどのような仲だったか理由などあとで何とでもでっちあげできる。



 玲真と取り交わした琳明との約束は成功した暁には下賜姫ではなく普通の妃とするだけで、玲真を手助けしている間の琳明の生存の保障などされてない。



 

「待って! 今日はいつなの? 私たちが後宮から出てどれくらいたった?」

「いつって、倒れたのが昨日だから1日と半日ほど」

「向俊、武官の仕事は?」

「玲真様に話を通してくれた上官が融通を……」

 おそらくそちらもグルだろう。向俊が仕事にちょうどこなかった時期と一致させるつもりかもしれない。

「すぐに、仕事にいって、すぐによ。そうね、上官に何を聞かれても昨日は体調が悪くて身寄りもないから連絡の一つもできなくてすみませんで通しなさいいいわね」

「わかった」

 琳明の凄みに向俊は何度もうなずく。孫娘と結婚したらこいつはずっとこんな感じに尻に敷かれていくのだろうなと上游はくすりと笑った。




「こうしちゃいられないわ。すぐに後宮へ戻らなければ……」




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