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後宮の下賜姫様  作者: 四宮あか
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なぜ……

 玲真からの便りはその後ない。

 下級妃賓である琳明が上級妃賓の宮が並ぶ場に何度も足を運ぶのは不自然で、調べたいことや聞きたいことはあるのに動くに動けず。

 焦る気持ちを隠し、琳明はごく普通の下級妃賓としての暮らしをしていた。


 伝えられることは伝えた。

 後は、念のためにと陶器を拭いた布、お茶を含ませた布が手元にある。

 これに毒が付いていないかだ。

 まだ未熟な琳明ではわからなくても祖父なら、もし毒がついていれば何の毒なのか割り出せるのではと思う。

 だが、手紙や荷物には必ず検閲がはいる。

 琳明の祖父に物証は送ることはできても、これが何であるか手紙にしたためるわけにもいかない。誰かに頼むという手段もあるだろうが、後宮でこれを託して市井におりてくれと頼める信用できる人物がいない。

 一番怖いことは、琳明が毒は何か探るために動いていることがばれることだ。




 後宮の木々は色づいた美しい姿から寒さで葉を落とし、冬の装いへと変わっていった。

 早朝、吐く息もいつのころからか白くなり、焦る琳明の気持ちとは裏腹に月日というものはあっという間に流れていく。



 気持ちをごまかすかのように琳明は後宮内を散策し、枯れてしまう前に沢山の薬草を取り、洗い、そして干した。

 薬師として琳明を頼る者はいないから、これほど沢山の種類の薬草をたっぷりと用意しても使い道はない。

 だが、他にできることは何もなかった。




 悶々としながらも、特に動けることもない琳明が薬草の乾燥の進みを調べている時だった。

 ようやく玲真が琳明の宮へとやってきたのである。

 玲真が頭を下げると、それだけで小蘭と香鈴は言いたいことを理解したようで部屋から退出した。



「いつぶりだろうね。下賜姫様」

 玲真はさっそく琳明の立場を再確認させるかのように下賜姫様と呼んだ。

「お久しぶりでございます。玲真様」

 主君と呼んで同じことをやり返してもいいが、どこでだれが聞いてるかわからず玲真様と言うにとどめた。



「本日はどのようなご用件で?」

 玲真は何か用があったから琳明のところに来たはずだ。

「もうすっかり冬だな」

「さようでございますね」

「薬草をこんなに沢山集めたようだが、まだ薬になるような草は後宮内に生えているか?」

「あるにはありますが、もう効能としては摘み取って処理しても満足な効果は得られないでしょう」

「そうか……。下賜姫様は後宮内を散策した際に、冷たい風に当たり風邪で体調を崩された。そうだな1週間ほどもあればなおるだろう」

 ふむふむと玲真は一方的に話を進める。

「どういうことで?」

「草木が枯れば新しく毒をつくるとなると、処理してある材料をさがさねばならない。お前自ら市井におりて、変な流れがないか探れ」

「はぁ!!」

 思わず声を荒げてしまった。

 妃が後宮から出されるなど、本来あってはならないことだ。

 これまでの歴史で後宮での暮らしに嫌気がさし脱走を試みた妃はいるが。

 その制裁は逃げ出した妃だけにとどまらず、一族まとめて首が飛ぶような重罪となる。



「期日までに戻らねば、お前の一族がどうなるかわかるだろう? 賢いお前にはね。もちろんお前を単身では行かせないさ。おい、入れ」

 玲真は控えていた官に部屋に入るように促した。

「ちょっと、信用できるの?」

「よほどの覚悟がなければ、あいつもこんな仕事引き受けないさ」

 玲真は疑う琳明にそういう。


 しばらくして、ゆっくりと部屋に現れたのは宦官の服をきた人物だった。

 玲真と一応妃である私の前に膝をおり頭をさげた。

(筋肉の付き方がまだ若い。顔は見えないけれど、この男は下手したら二十歳に満たないのでは?)


「詳しいことはすでに説明をしてあるからコイツから聞け。こいつは下賜されるのを避けたいお前とは反対に、身分が低いにも関わらず下賜したい妃がいるそうだ」

 玲真の言葉で納得した。

(下賜したい人物がいるような年齢なんだもの、道理で若いわけだわ)

 下賜したい妃がいるからとはいえ、なんて馬鹿なことに首を突っ込んだんだこの男はと思った。

 ここは後宮。

 中の人を外に決して出さぬように外からでもわかる高い塀、深い堀で隔離されたこの場所で頼まれることだなんて、どれだけ危ないことをやらされるかわかりそうなものを……

 琳明はこんなことを引き受けた馬鹿な男とは違い、初めは危なくなったら辞めるつもりだった、誰かを知り逃れられなくなるまでは。



 目の前にいる彼はおそらく宦官である可能性は低い。宦官であれば妃である琳明と同じく簡単に市井には降りれない。

 この男に玲真はどれほどのことを話しているのだろうか? 信用に足る人物だから話たという線は薄いだろう。

 となると失敗したとき切りやすい身分や家柄だから任せた可能性が高い。


 たった一人の女のために下手をすれば死ぬかしれないというのに。

 玲真となんて危ない賭けをしたのだろう……愚かな。




「表を」

 口元を扇子で隠してから琳明がそういうと、男は顔をあげた。

 顔をあげて、琳明は息を飲んだ。

 琳明と同じく、男も琳明の顔をみて固まった。



 もうひと眼だけでも会いたいと思っていた。

 どこにいるのかとずっと気にしていた。

 だが、今この場では絶対に会いたくなかった男が琳明の目の前にいた。


 地方出身の彼が、他に召し上げられた妃達と会うことなどこれまできっとなかっただろう。

 だからことそ思った言葉がそのまま出た。

 だってこの男が下賜したいと願っただろう人物こそ、きっと私だったからだ。


「なんて、馬鹿なことを……」

 玲真の前にかかわらず、琳明はそうつぶやいてしまった。


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