第一録 目覚め
「こ…こは?」
まだ頭がぼやっとする。霧がかかってるみたいだ。
「自分がわからんのか?おかしいな。副作用の一種か?」
普通なら起動した直後に全てを理解していて、無駄な動きをせずに話し動くはずなのだがな。
まぁ良い。どちらにしても成功か失敗かは直ぐ分かるだろう。
「ここは私の研究室だ。とりあえず動けるか?」
腕は?大丈夫だ、首は、足は、うん。どこも問題ないようだ。私はなんでここに?
体のあちこちを動かしながら、今の現状を理解出来ず、不思議に思っている様子のそれを見ながら少し笑みを浮かべている老人が、手元に持っているファイルに何やら書き込んでいる。
「うむ、ひとまずは成功といったところか」
とりあえずは通常機と何ら変わりはなさそうだな。
「私は、あなたは?」
私は確か、大事な用があって…?用?用なんて…?私は…名前は、分から…ない。
なんだ?記憶がない?私は今まで何をしてたんだ?何も…分からない。
いや待てこの人なら知っているんじゃないか?
「自分で自分が分からないようだね。しっかりプログラムしておいたはずなんだが。まぁ良いか、君の名は、そうだなぁ。XIIIと呼ぼう。私は計画主任のマイトだ。そうだな…博士とでも呼んでくれ」
「XIII…XIII…か。博士、計画って何ですか?」
今だあけらかんとした様子のXIIIが訪ねると、マイトは少し難しい顔をしながら話しはじめた。
今の現状とこれからについて。
「…まず、今の現状から話す必要があるな。今、世界は科学技術がかなり発達している。それもかなりのスピードで。町中にはAI技術が搭載された作業用ロボットや移動ロボット、更にはゴミ箱まである。小さな物から大きな物までAIを入れる事で便利になる物全てに技術を使ったわけだ。言うまでもなくこれにより人々の生活はより楽に効率良くなった。しかしここ最近AI達の暴走が報告されている。今までも小さな暴走は報告されていたが、いくつか死傷者が出ている事件まである。今までは寿命やトラブルで発生していた問題だった。私はね…今AI達にこのまま放っておいては良くない何かが起こっていると思っているんだ」
なるほど、何となくだが良くない事がおこりそうだからそれを調査、阻止したいのは分かった。だが、それと私がどう関係あるんだ?あったとして記憶すらもない私に何か出来るのか?
「それで、その事件と計画と私、何が関係あるんですか?」
とりあえず今は情報が欲しい。この人達が私となんらかの関係があるのは明らかだし。引き出せるだけ引き出すしかない。
「AI暴走の原因究明と阻止。これをXIIIにも協力してほしい。その為に君という存在があるのだから」
「…?意味が──」
「君もAIなんだよ!ったくマイトこれも失敗では?理解速度が遅い」
XIIIの言葉を遮りイライラしているのはマイトの助手だ。とは言ってもかつてはマイトと肩を並べ数々の功績を立ててきた人物。マイトの事は密かにライバル視している。
「はぁ、まだわからんだろ?物事には順序というものがある。人に近いから故にそういうことも重要になってくるだろ?ローレンお前は研究者なのに短気過ぎるぞ」
マイトは自分の眉間を左手で掴み顔を横に振りながらため息をついていた。
「と、まぁ順序が逆になったが君はAIだ。ヒューマノイドという方が良いか。更に君は他のヒューマノイドに劣らないように知能、強度、あらゆる性能を改良している。そして喋り方や仕草も人とほとんど見分けがつかないはずだ、これにより人間社会でも更に行動しやすくなるはずだ」
ちょっと待て?何を言ってるんだ?私が人じゃない?そんな訳ないだろ。
起きるや記憶が無く、まるで実験台の様なベッドに寝かされていて、知らない人間が周りに居たらまず混乱するのは当然の事だろう。
しかしXIIIはマイトにより改良された新型だ。自分では気付いていないがこのくらいの事では多少動揺はするも直ぐに現状を大方予想し備えていた。
が、人間に近い感性を持っているXIIIにはまでが何を言っているのか理解出来ていなかった。いや理解をしその上で、もしくはその思考とは別に認めようとしなかった。
「私は人間だ…」
「いいや、君はAIだよ」
「違う私は…何か大事な用があって、それで…」
「…副作用か思考回路に混乱が見受けられるな」
博士はそう呟くと周りの白衣を着た数人と顔を見合せ、そのまま話合っていた。
XIIIはその間ぶつぶつと私は人だ、私はなんだ?と呟いてた。それに気付いてか見兼ねてかマイトが気を使う。
いやもともとこういう人間なのだろう
「…君は君だ。今考えているその感情も思考も君そのものだ。今はそれで良いんじゃないか?だが本当は分かっているはずだ真実を受け止めなさい」
それじゃあ、一瞬垣間見えるあの記憶は?いったい何だってんだよ。くそっ!なんなんだ!考えが、思考がまとまらない!頭が、痛い。
「全くまだ分からないのか?ならこれでどうだ?」
XIIIにはその声と同時に鈍い音が聞こえた。音のする方を見ると自分の左手小指が逆に2つ折になっていた。
「おいローレン‼何をする‼」
マイトが不意の事に驚きながらペンチの様な器具を持っていたローレンの肩を引っ張り、XIIIから遠ざけ言い争っている。
最初は何が起きたか分からなかったが徐々に痛みがXIIIを襲ってきた。
痛い。痛い痛い痛い痛い!唸りながら左手を押さえているXIIIだが同時に喜びのようなものも感じていた。
痛いって事は痛覚がある。
ほら、人間じゃないか!心の中では叫び声と笑い声が入り交じっていた。
が直ぐに痛みと現状から逃げなければと思った、思った瞬間に体はもう動いていた。
「うあぁぁぁああ‼」
その声は悲痛に満ちた声だった。マイト、ローレンを初めその場に居た全員が両手で頭を押さえ目を赤く血走らせていたXIIIを見ていた。