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ハルシオン   作者: 斗夢
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プロローグ 僕は牢屋に独り

初めまして、斗夢です。

ファンタジーです。ファンタジーしていってください。

 「aかaudurdhwdi288fdf[ffoffikdkcdf/ffo?kfjesおたfこw」 

 

 ―――この一言が、始まり。

 僕と少女の二人の始まり。

 

 激しく開かれた古ぼけた扉、音は残響するように木霊し、何処とともなく消えて行く。

 コツンコツンコツン、忍び寄るようにゆっくりと、それでも歩を進める音は響き渡り、僕の空っぽな耳にまで届く。

 薄暗い向こう側から歩き寄る歩々は少ししてそれなりの陽が照る元へ入って来た。

 

 そして―――。

 

 僕を見つけた。

 

 心底驚いたような表情で。

 双眸を最大にまで開きに開いて。

 

 僕を見つけた。

 

 牢屋で、椅子に座って呆然と少女を見つめる僕を。

 楔くさびれ、錆びれた鉄格子を跨いで。

 

 「aかaudurdhwdi288fdf[ffoffikdkcdf/ffo?kfjesおたfこw」 

 

 そう言って少女は静かに微笑んだ。


 *****


 「何処だ、ここ」

 

 最初に口から出たのはこの一言。

 意識の外から飛び出た呟き。

 今、現在地の不明、というあり得ない事態に直面していた。

 旅行先で迷子になった訳でもないし、自転車を漕いでちょっとした冒険をしていた訳でもなし。 

 それに、ぶっ飛んだ思考であるが、記憶喪失になったということもない。

 名前だって憶えてるし、自身がつい今さっきまで行きつけのデパートメントでショッピングをしていたことも。

 

 だとするならばここは何処なのか。

 その答えは意外と簡単に、いや「何処か」なのかは分からないが、ここが「どんな場所なのか」は判明した。

 それは、眼前に、いや四方八方、つまりは逃げ道なんかないくらいに広がる光景にあった。

 「牢屋・・・・・・か?」

 牢屋。

 罪を犯した者、罰を受ける場所、更生を行う施設。

 つまるところ、社会のルールを大きく踏み外した言ってしまえば反社会人が集う場所。

 一部分の偏見はあるが、大方はそんな施設のことを指す。

 という説明は置いといて。

 はっきりさせておくが僕自身、決してこのような施設に放り込まれたことはないし、以前にそんな施設にお邪魔になるだけの罪を犯した記憶もない。

 

 「んんっ~じゃあ何だって僕はこんなところに・・・・・・」

 

 首を捻って大きく唸る。

 牢屋の中にいる筈なのに何とも場違いな言動。

 普通なら犯した罪とこれからの人生を前に絶望の顔色を露わにするのが自然だが。

 どうやら、僕はまだ現状を察していないようだ。

 そこまで緊張感がない。

 外面からしてみれば驚愕が含まれているのかもしれないが、内面は、バラエティの撮影に引っかかったのか、シミュレーションの最中なのか。

 いずれドッキリ大成功の用紙とカメラマンの悪戯笑顔を頂戴することになるのだろう、とそれくらいの気持ちでいる。

 

 「そんで僕の驚いた面を全国テレビ放映か。見る側なら一笑で終わるけど、やられた当の本人はなぁ」


 一家庭の一笑は、全国規模にまでなればそれはもう大笑いどころではない。

 そこから運が悪ければネットの晒し上げだ。

 普段叩いている側の人間が叩かれる側にチェンジしたらどうなるのか。

 考えただけでも怖気がする。

 

 「少しは自粛するかね。悪口を言ってはいけませんとか言われて素直に頷いていた頃の純粋な自分みたいにさ」

 

 これまでの僕の姿を脳裏で垣間見て、苦笑を一つ。

 と、気を取り直して。

 僕は頭を動かす。

 ここが何処かが分からないのと現時刻が不明なのが気がかりだが、脱出しようにも―――、

 僕は眼前の、錆びれ、楔れた鉄格子を両手で掴んだ。

 ギギ、ギギと見た目に違わぬ古ぼけた音を立て、押しても引いても一寸たりとも動く気配は見せない。

 相当造りこまれているのか、永い歴史を思わせる鉄格子。

 それを四隅まで調べ、直接抜け出すことは不可能だという結論を得た。

 「ここまで古臭かったら何処かしら動かした拍子にうっかり壊れでもしたら面白そうだな」

 数十分の健闘の末、結論と共に浮かんだのは、面白可笑しい渾身の展開。

 それだけだった。


 *****


 おそらく1時間半が経過した。

 正確なところは何も分からないが、多分そのくらいだろう。

 1時間半、流石に笑えない表情になってきた少年が少々の危機感を覚えるのも仕方のないことだろう。

 冷ややかな空気が肌を滑る。

 夏場にも関わらず八分袖のTシャツを着用していたのが唯一の救いというべきか、薄服だが全然マシだ。

 「温室の管理ぐらいきちんとしてくれよなぁ。・・・・・てっゆうか、まだ終わんねえのかよこの茶番は」

 幾ら今日が休日だとはいえ、時間の侵害ではないのか。

 僕にほんの怒りが湧き出てきた。

 石々で四方を塞ぐ壁、所々に苔や草が生え、当然虫も数匹発見している中、僕は、壁に背中を付けて座り込んでいる。

 石壁のひんやりとした感触も僕の体温が服を通して壁にまで伝わり、今ではすっかり暖炉に当たっている錯覚さえ覚える程だ。

 「それでもなぁ・・・・・・」

 こんなに冷えるなら上着の一枚でも持ってくれば良かったな。

 最近冷えだしたし、それにーー。 

 「もう夕焼け、この時間帯から一段と冷え出すんだ、よ――――夕焼け?」

 はっと自分の発した言葉に立ち上がった。

 夕焼け、反応を示したのはこの単語。

 鉄格子の一部が茜色に照らされている、それはつまり。

 僕は壁から数歩進み、振り向いた。

 「――――っ」直接光に当てられて目を閉じる。

 眩しさに光を手で隠し、慣れてきた頃合いにおずおずと目蓋を開いた。

 高さは僕の目線から頭三つ分。

 見上げた先に光はあった。

 周りを石固めにされた牢屋に差し込む光―――夕日。

 その部分だけ長方形の穴。

 隔離された空間にくり抜かれた自由への出口のように思えた。

 ――――だがそんな粋な計らいなどする筈もない、夕日の光度に抗い目を凝らし、嘆息する。

 お手上げだとジェスチャーして先の壁に背中を押しあて身を預けるように座り込む。

 「要するに、灯り替わりってことか」

 当然と言えば当然か。

 当然、長方形の穴には錆びれた鉄格子が掛かっていた。


 更に数時間が経過した、と思う。

 夕日などとっくに沈み、暗闇の中で優しく輝かせる月明かりだけがこの牢屋を映している。

 比べて少年の心と身体は荒み切っているの。

 「・・・・・・いや、あり得ないだろ」 

 口から零れるのは渾身に近い想いを含めているのに、さほど覇気が感じ取れない。

 「・・・・・・何の冗談なんだ?これは」

 ボソボソと呟くだけ。

 「帰ったら訴えてやる」

 怒りの先に確かな意志を灯し。

 何より、この呆れるほどの茶番の終わりの為に。

 静かに、静かに夜を明かしていった。


 *****


 「夢、じゃないのか」

 闇が明けると同時に目を醒ました僕の第一声は全身の痛みを感じながらのものだった。

 腰や頭、首、手足、日頃の生活からたった一夜離れるだけでこれだ。

 無人島でサバイバルなんてできたもんじゃない。

 痛みの次に感じたのは底がないまでの空腹感。

 これも、たった一食分取り損ねただけなのだが、あれもこれも恵まれた環境で育ったが故であろう。

 このような状況に追い込まれて初めて気づく、自分を守ってくれる者へのありがたみを。

 帰ったら手伝いの一つでもしてやるか。

 痛みと気怠さに抵抗しながら立ち上がる。

 ついでに頭や服にこびり付いている虫達も払って。

 髪に手で触れた時の不潔感と言ったら、正直虫が服に接着されていること以上に強かった。

 それに、虫自体さほどの大きさでもなかったからいいとして、髪と肌に触れた瞬間のベタベタと臭いには苦い顔をしてしまった。

 「早く風呂に入りてえなぁ」

 不潔極まりない自身を見ながら。

 「腹も減ったし、風呂にも入りてえし、どこそこ痛えし・・・・・・あと寒いし」 

 昨日から溜まっていた鬱憤を晴らすように。

 あと、イライラするし。

 朝の心地の良い深呼吸気分で大きく息を吸う。

 ふぅ、と時間を掛けて吐き出し。

 ――――一息。

 ズンズンと鉄格子の前まで歩み寄って。

 もう一度大きく息を吸い上げ・・・・・・。


 「あの~!!早くここから出して頂けませんか~!!見てるんですよね?もう朝なんですけど~!?」


 今朝一番の快声であると同時に今日でベストになるだろう大音量。

 建物の造り的な面も相まって山びこに似た数度の反響。

 壁という壁に声はぶつかって跳ね返る。

 これにはチュンチュン鳴くスズメもびっくり、などは一切なく。

 ただ僕の声が風になって流れくるだけで、車の音は勿論、人の足音どころか、何も返ってはこなかった。

 「―――――――」

 対して僕は。

 「声、小さかったのかな?」

 鈍感、そう括れば簡単だろうが、果たしてここまで疑いなく再び息を吸い込める者はいるだろうか。

 実際、大小なれ勘付いているのだろうが。

 それでも。

 「だ~れ~か~!い~ま~せ~ん~か~!?」

 一度目と比べても差異ない声量。

 流石に気づくだろう、そう確信に近い確信を以て微笑を露わにした。

 すっかり双眸も開き、心体、頭も稼働し始めた。

 非常に晴れ晴れとした朝だ。

 外から差し込む朝日も、僕の心境も。

 今日を機に毎朝発声でもしてみようかと本気で思うほどに。

 鏡でも覗いてみたい、僕は今どんな清々しい表情をしているのだろう。

 自然と笑みが零れる。

 うん。

 きっと、僕は――――。

 

 そこには。

 瞳は激しく淀み、口元は醜く歪む、そんな姿が映っていた。


 ――――こんな表情をしているのだろう。

 

 どくん、と心臓が跳ねた。

 ブチ、と何かが切れた。


 「――――い・・・・・・おい・・・・・・おいっ!ここから出せよ!出せ!見てるんだろ?面白がってんだろ?ぶっ飛ばしてやるからよぉ!早くここから出せよ!!」


 自分でも驚くほどにぶちまける。

 誰にも届かず、一周回して僕に戻ってきた。

 だが、止まらない。


 「馬鹿にしてんじゃねえぞ?おい!!こんっな趣味の悪い汚ってねえ場所に一夜放置とかとんでもない野郎どもだな!そんな面白えか?面白えからやってんだろう!?」

 

 たった一夜。

 されど一夜。

 地球の中の日本の中のごく一般の中流家庭で日々を生きる彼にはあまりにも酷なことだった。

 

 「クソがっ!クソ!クソ!早く、早く出せよ!・・・・・・笑いものにされてもいいからよぅ。んぁだからっ!!」


 髪を、腕を、足を、掻き毟る。

 虫に刺されて腫れあがった腕を。 

 蜘蛛の巣がへばり付いた髪を。

 半ズボンの中から露出した部分に顔を出す虫を。

 

 「あああぁもうっ!!痒い痛い気持ち悪いいいいいいいぃ」


 朝日と共に叫び散らす悲痛と懇願。

 

 牢屋で繰り広げられる独りごとは場所も相まり、さながら懺悔のようだった――――。


ありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。


評価、ブクマ待ってます。

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