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#7 カールゼン共和国

「機関始動!各種センサー作動開始!」

「機関始動!出力上昇!問題なし!」

「繋留ロック解除!駆逐艦1332号艦、発進!」


あれから1週間、修理された駆逐艦1332号艦は、前進を開始した。

低い機関音を立てながら、修理用ドックを出港する。向かう先は、すでに決まっている。


カールゼン共和国だ。


この1週間のうちに、地球連合改め地球(アース)861統一政府は、カールゼン共和国の独立を承認した。といっても、同時にカールゼン共和国も地球(アース)861統一政府への参加を決める。

これまでなら2か月かかっていた小惑星帯(アステロイドベルト)までが、わずか5、6時間もあれば行ける場所となり、一方でその奥にあるワームホール帯から、別の星へと行くことができる時代になってしまった。

その小惑星帯(アステロイドベルト)に、続々と地球(アース)082遠征艦隊が集結しつつある。その数はまもなく1万隻に達しようとしていた。

地球、いや、地球(アース)861の周回軌道上には、駆逐艦1332号艦の所属する第4小艦隊340隻が展開していた。

で、私の乗るこの駆逐艦1332号艦の任務は、カールゼン共和国の代表を、地球(アース)861に送り届けることである。このため、我々は月にあるカールゼン共和国首都、ターポートへと向かっている。

灰色の大地が大半だが、ところどころ緑と海が作られている月。その緑の中心に、ターポートがある。

彼らの仕掛けた戦争により、私の家族は亡くなった。だから正直言って、こんなところに来たいとは思えない。が、そんなことも言ってられない時代だ。私は私怨を抑えて、その星に降り立つ。

ところで、この駆逐艦は月にそのまま降りるようだ。

すでにカールゼン共和国や我々の地球(アース)861に、何隻もの駆逐艦が降り立っている。

だが、これは我々にとっては驚異的なことだ。

そもそも、全長が100メートルを超える宇宙船が地上に降りるなど、考えられない。

こんな大きな船が一度地上に降りてしまえば、再び宇宙に出るのにとてつもないパワーが必要だ。

就役時には、大型のロケットランチャーを取り付けて打ち上げるが、その後は宇宙に建設した艦隊基地に停泊するというのが我々にとっての大型艦の運用方法だ。人間だけが、シャトルを使って基地に向かい。戦闘艦に乗り込む。

そもそも、大型戦艦を地上に送り込むことなど、不可能だ。大気圏突入時の熱でやられてしまう。

ところが、彼らはその気になれば、全長が4、5キロもある戦艦を地上に送ることができるそうだ。最大で、全長10キロの民間船舶まで大気圏内におりられると言う。

あのバリアシステムを使って、大気圏突入時の熱を遮断するようだ。だから、突入時の熱など問題ないらしい。

その非常識な船に乗って、私は今、カールゼン共和国へと向かっている。

徐々に降下する駆逐艦1332号艦。


「対地レーダー作動開始!」

「バリア展開!大気圏突入、開始!」


徐々に窓の外が、オレンジ色に染まる。大気との間に生じるプラズマの光だ。だが、船体はなんともない。あのバリアシステムが効いてる証拠だ。

やがて、地上が見えてくる。しばらく高度1000メートル付近を進むと、目的地である首都ターポートの宇宙港が見えてきた。

多数のシャトル発射口を備えるこの宇宙港、その穴の脇の物資積込み用のスペースにこの艦は降り立つ。

不思議なものだが、こんな大きなものが、空中に静止している。いわゆる反重力というやつだろう。重力制御を可能にする機器を実用化できたからこそ、重力下でもこんな大きな船を自在に操ることができる。


「高度100……80……60……ギアダウン!40……20……着地!」


ズシンという音とともに、駆逐艦1332号艦は地上に降り立った。

私は任務のため、地上に降りる……ところなのだが、窓の外を見てはしゃいでいる娘がいる。


「見てくださいよ!ここ、面白いですよ!なんか、灰色の大地に緑がところどころ生えてますよ!変な星ですね!」

「そりゃ、元々は生命体の存在できない星だったのを、無理矢理大気を作って地球にような環境に変えた星なんだよ。だから、まだ大気がなかった頃の名残の灰色の大地が、ああやって残っているんだよ。」

「へぇ~っ!すごいですねぇ!こんなに大きな星を変えちゃったんですか!?そういえば、クレーターがたくさんありますね!おもしろーい!」


いや、あんたらの方がすごいだろう。あんな馬鹿でかい戦艦に街を作り、地上と違わぬ空間をいとも簡単に作り上げている。そんなやつらが本気を出せば、星一個を丸々改造することなど、造作もなかろう。

ともかく、我々はこの「月」に降り立つ。やはりというか、ニコル少尉が違和感を感じている。


「うーん、なんだかちょっとふわっとする感じですねぇ……変な気分です。」


そりゃそうだろう。この星は地球(アース)861の3分の2の星、重力が70パーセントしかない。普通に歩くと、思いの外前に進んでしまう。

案の定、ニコル少尉はその重力に馴染めず転んでしまう。慎重さが足りないというか、なんというか、もうちょっと周りに気をつけて欲しいものだ。


「あたたた……」

「おい、大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です。重力が小さい分、こけた時のダメージも小さいようですし。」


とはいえ、転ばないのが最もダメージが小さい。そちらを注意して欲しいものだ。

カールゼン共和国の政府庁舎に向かう。まさか私が、ここを訪れることになるとは思わなかったが、今私は、地球(アース)861の代表の一人としてここにきている。

他にも政府高官が2人、士官が1名きている。地球(アース)082側からも交渉官が1人、副長と技術士官に、ニコル少尉も同行する。

別にニコル少尉が同行する理由がないような気がするんだが、地球(アース)082の連中は、もうすっかりこの星域の交渉にニコル少尉を前面に出すつもりのようだ。

ペースメーカーとしては最適だと考えているようだ。あの能天気ぶりは、交渉する側の緊張感を和らげてくれる。カールゼン共和国側の大使とも、すっかり和んでしまった。


「ほほう、あなた方の戦艦には、そんなものを売っている街があるのですか!」

「えへへ、そうなんですよ。これがとても美味しくてですねぇ……」


彼女はただ自分の好きな食い物の話をしているだけなのだが、なぜ高官と呼ばれる人ほど、彼女のこの和やかな雰囲気に飲まれてしまうのか?

彼女と出会ってかれこれ9日目だが、不思議な娘だ。

そんな彼女とも、私はいつの間にか馴染みすぎていた。


「おい、高官殿相手に、パフェの話はやりすぎじゃないのか!?」

「いいじゃないですか!相手も喜んでるんだし!」


私の言うことなど、聞きゃあしない。まあ、1週間もの間、戦艦エンブレス・オブ・ロシリカの街でデートし続けた結果だ。

政府高官らが庁舎で話をしている間、私とニコル少尉は外で待つ。

外には、護衛のための兵士が数名、立っている。そんな兵士達に話しかけるニコル少尉。


「こんにちは。護衛のお仕事、ご苦労様です!」


能天気に話しかけてくるこの娘を、いぶかしげな顔で睨む衛兵達。だが、10分もするとすっかり彼女の術中にはまる。


「へぇ~っ!そんな映画があるんだ!」

「そうなんですよ!いずれこの星でも上映されるはずですから、ぜひみてください!面白いですよ!」


駆逐艦内では孤立気味だったというニコル少尉だが、なかなかどうして、和み力は抜群だ。


「なあ、ニコル少尉。」

「なんですか?」

「貴官は駆逐艦ではほとんど一人だったというが、本当なのか?随分と仲間を作るのが上手いようだが。」

「うーん、そうですねぇ。なんででしょう?でも、ロベルト少尉と出会うまでは、こんなことはなかったですね。」


彼女いわく、私と出会ってから変わったという。だが、別に私が何かをしたわけでもないし、たまたま駆逐艦の中では気の合う人がいなかったというだけなのだろう。


政府高官が出てきた。カールゼン共和国の大使も一緒だ。実は彼らは、このまま駆逐艦1332号艦に乗り込み、地球(アース)861統一政府のあるプリンスベーンという都市に向かうことになっている。

あれだけの攻撃力を誇る駆逐艦だが、今回の任務は要人運び。この妙に社交的で能天気な娘が乗る艦には、ふさわしい任務だ。


「カールゼン共和国大使殿、地球(アース)861政府高官殿、および交渉官殿の登場を確認!出発準備、完了しました!」

「では、当艦はこれより地球(アース)861、プリンスベーンに向け出発する!機関始動!微速上昇!」

「機関出力7パーセント!微速上昇!」


カールゼン共和国の大使らを乗せた駆逐艦1332号艦が出発する。彼らはまず、高度4万メートルまで上昇して、そこでエンジン全開、大気圏離脱を行うという。

空気の薄いところまで来ると、もはや上空は真っ暗だ。何度も見ている光景だが、空中に静止した状態でこの高さまで来たのは初めてだ。


「規定高度到達!進路上に航行物なし!進路クリア!」

「機関および各種機器類、センサー異常なし!」

「よし!両舷前進強速!大気圏離脱を開始!」


ゴォーッという大きなエンジン音が響く。大使や政府高官らは、これほどの大きな船がブースターもなしで重力圏を脱出できることに感銘を受けていたようだ。私自身も、その1人である。

窓の外をどんどん小さくなってくるカールゼン共和国のある月。かつてはここが中継基地だったが、今やここを中継せずとも簡単に外宇宙まで行けてしまう。独立は果たしたものの、この共和国の存在意義が問われるという別の問題が出てきた。

で、ものの20分ほどで地球(アース)861に到着する。再び、大気圏突入準備に入る。

再びオレンジ色のプラズマが生じる。それが消えると、大都市プリンスベーンが見えてきた。

そこのシャトル発射場前に降りることになっている。街の上空をゆっくりと進入する駆逐艦1332号艦。地上では、この大きな艦が飛んでいるところを見上げる人々が大勢見える。

こんな大きな物体が、平然と空を突き進む姿は、宇宙に馴染んだ我々でも見たことがない。好奇心と畏れを抱きながら、この艦を見ているに違いない。


ゆっくりと予定地に着陸する駆逐艦1332号艦。

下部の大型ハッチが開き、まずは副長が降りる。その後ろを我が統一政府の高官が、そしてその後ろを交渉官とカールゼン共和国の大使が並んで降りてくる。

私とニコル少尉は、その後ろからついていく。両側には、衛兵が立って護衛している。そんな衛兵達に手を振る能天気娘。

まったく、こんな場所で愛想など振りまく必要などないのに、何をしているんだか……少し態度を改めるよう、こっそり忠告しようと思った、その時だった。


何を思ったか、ニコル少尉が、カールゼン共和国の大使の背中を突き飛ばす。

な、何てことするんだ、このバカ娘!そう思いながら彼女の方を見た。

すると、衛兵の1人がカールゼン共和国の大使に向けて、銃を向けているではないか。

次の瞬間、2発の銃声が鳴り響く。

大使とニコル少尉が、その場に倒れた。

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