#5 合流
艦橋内は、緊迫した状況が続いている。
本来なら、この駆逐艦10隻に守られながら、我々は衛星軌道上の艦隊基地に帰投しているはずだった。
だが、おそらくは地球連合のだれかの発案なのだろう。恩人であるこの地球082の10隻の艦隊への不意打ちを命令してきたのだ。
だが、それが我が艦隊に大いなる危機を与えてしまった。せっかく振り切ったカールゼン艦隊53隻が、こちらに追いついてきた。混乱に乗じて、我々を叩きにきたようだ。
「リーダー艦より通信!地球連合艦隊を防御しつつ、この宙域を脱出せよ!」
「いや、脱出といっても、我が艦は片肺状態、戦艦バトロクロスは停止状態だぞ!?どうするつもりだ!」
「戦艦バトロクロスは駆逐艦2隻で引っ張るそうです。今、その曳航作業を始めるとのこと。」
「間に合うのか?もうあちらの艦隊は目の前だぞ!?」
距離はすでに1万2千キロまで迫っていた。射程内まで、あと数分といったところか。
いくらこちらの駆逐艦にバリアシステムがあるといっても、たったの10隻。しかも、1隻はエンジン不調で、2隻は曳航作業のため動けない。7隻の艦で、我が地球連合艦隊を守れると言うのか?
「とにかく、地球連合艦隊には絶対に反撃するなと伝えろ!こちらが防御に回る!」
7隻の駆逐艦が、地球連合艦隊の真横につく。だが、地球連合艦隊から返信が来る。
「我々は戦闘に入る!手助けは無用!以上です!」
「バカな……戦力差がありすぎだ。無謀としか言いようがない。繰り返し伝えよ!場合によっては、他の艦も航行不能にせざるを得ず!そう伝えろ!」
半分脅しも入れて、なんとか地球連合艦隊の自制を促す地球082艦隊。そんな中、ついにカールゼン艦隊が砲撃を開始した。
「カールゼン艦隊、砲撃を開始!ビームが到達します!」
「バリアシステム展開!作業中の艦艇に当てるな!」
片肺ながらも動けるようになった駆逐艦1332号艦が、戦艦バトロクロスの曳航作業をしている駆逐艦2隻を防御することになった。他の7隻は、なんとかして地球連合艦隊とカールゼン艦隊との間に割り込んで、戦闘を行わせないつもりだ。
だが、いくら巡航艦と駆逐艦のみとはいえ、カールゼン軍は53隻。無数のビームが、地球連合艦隊と外宇宙の駆逐艦10隻に遅いかかる。
バリアがなんとかしのいでくれるが、どうしてもすきまからビームが漏れる。
その隙間から、地球連合艦隊も攻撃をかける。たった7隻では、とてもこの両者を止めることができない。
こっちから見ていて、もどかしい状況が続く。ああ、1万隻の艦隊がここに集結していたら……
が、艦橋の通信士が、突然叫び出す。
「艦長!きました!」
なんだ?何がきたんだ?
「そうか、ついにきたか……」
艦長も納得している。なんのことだか、よくわからない。
私は、小声でニコル少尉に尋ねる。
「おい!何がきたんだ!?」
「さ、さあ……ボーナスが出るって知らせでもきたんですかね?」
そんなこと、今はどうだっていいだろう。戦闘中に、給料の話なんかくるものか。やっぱりこいつ、どこかバカだな。
だが、艦長の言葉の意味は、その直後に分かった。
窓の外に、駆逐艦が滑り込むように現れた。
が、数が多い。次々と現れる。地球連合艦隊とカールゼン軍の黄色のビームなどもろともせず、バリアで弾き飛ばしながら駆逐艦が次々に滑り込んでくる。
私は、思わず窓際に走り込む。何十隻、いや、何百隻もの駆逐艦が、そこには並んでいた。
もはや、両軍のビームなど届きはしない。この暗い宇宙空間に、300メートル級の駆逐艦がびっしりと並んでいる。
「第2派遣団、到着!その数、1千隻!」
なんと、ここにいるのは1千隻もの駆逐艦のようだ。あまりの数の多さに、地球連合艦隊も砲撃を中断する。
おそらく、カールゼン艦隊も諦めたようだ。いや、あちらもこの1千隻の艦隊の一部に囲まれたようだ。
攻撃が止み、戦艦バトロクロスの曳航作業が続けられる。
艦長が、艦橋内の乗員に向かって言う。
「これより当艦は、修理のため戦艦エイブラス・オブ・ロシリカに入港する。」
戦艦に入港?どういうことだ?私は再び、ニコル少尉に尋ねる。
「おい、戦艦に入港って、どう言うことだ。」
「そのまんまですよ。戦艦にあるドックに入港するんです。」
「おい、お前らの艦隊の戦艦って、ドックがついてるのか?」
「ええ、ありますよ。駆逐艦を繋留できるドックが、戦艦エイブラス・オブ・ロシリカの場合、35あるんです。」
「はあ!?駆逐艦用ドックが35も!?」
「他にも、駆逐艦と同じ砲門が30門、戦艦エイブラス・オブ・ロシリカは旧式艦なので、100メートル口径の大型砲2門もついてますね。」
「おい!どんだけついてるんだ、その戦艦というのは!?一体、どれくらいの大きさがあるんだ?」
「戦艦エイブラス・オブ・ロシリカは全長4300メートル。戦艦としては、普通くらいの大きさですね。」
4300メートル。とんでもない大きさだ。それじゃまるで移動基地じゃないか。
「おい、何隻いるんだ、戦艦というのは?」
「だいたい1千隻で3隻。1万隻の一個艦隊には30隻というのが普通です。でも、名前のわりには戦闘には参加していなくて、後方での補給基地といった方がいいですね。」
「そうなのか?砲門が32門も付いてて、攻撃しないのか?」
「図体の大きな戦艦が出しゃばったら、いい的になるだけらしいですからね。攻撃は駆逐艦で行うのが普通で、いざという時に戦艦が出てくるくらいですかね。」
そういうものなのか。彼らの戦法の常識は、我々には到底理解しがたい。
「そうだ、ロベルト少尉。」
「はっ!」
「戦艦バトロクロスも、我が戦艦エイブラス・オブ・ロシリカの修理用ドックに入ることになったそうだ。」
「えっ!?そうなんですか?」
「このまま基地まで引っ張っていくより、戦艦に載せた方が運びやすい。地球連合政府との間でも、それで合意できたらしい。」
「そ、そうなんですか……」
「すでにこの星域には、3千隻が到着している。ここに集まったのはその一部。現在、小惑星帯付近に集結しつつある。来週までには、遠征艦隊全軍、1万隻が集結する予定だそうだ。ま、その話を聞いて、我々に仕掛けたような不意打ちをかける気をなくしたようだな。カールゼン側からも、同じような反応を得ている。」
「はあ、そうですか……」
突然現れた大量の駆逐艦を前に、急に和解ムードが広がりつつある。私もそうだが、さすがにこの星域に住む人々は悟ったようだ。
内宇宙で、揉め事をしている場合ではない、と。