#2 遭遇
異変に気付いたのは、戦艦バトロクロスのレーダー手だった。
「艦長!第15衛星の軌道が変です!明らかに軌道が修正されています!」
たまたま私は直前に行われた戦闘報告のために、艦橋にいた私は、その報告を聞いた。
地球の周りには、全長が1キロを超える衛星が全部で20基ある。人工物のものもあるが、大半は小惑星帯から運ばれた小惑星を使ったのものである。
主に、資源調達用と基地用途を兼ねて設置されたものだが、その一つに異変が現れたというのだ。
「どういうことだ!?」
「現在、軌道を計算!第1モニターに、予測進路出します!これは……」
別の士官が軌道を計算する。すると、驚くべき結果がそこには表示されていた。
「間違いありません!第15衛星、地球めがけて落下中!予測落下地点、サウゼリア大陸の西方20キロ!」
「なんだと!?第15衛星の規模と現在位置は!?」
「直径およそ3キロ!大型の衛星で、カールゼン軍の艦隊基地として使われていたものです!現在、地球までの距離40万キロ!このペースでは、あと20時間後に落下します!」
「総司令部に連絡!第15衛星、地球に向けて落下中!追撃の要あり!」
「はっ!」
つい先ほど、戦闘が行われた。
敵の駆逐艦5隻が、我が戦艦バトロクロス率いるこの艦隊に急接近してきたのだ。そこで、我々航宙機隊が発進し、これを撃滅した。
だが今思えば、これは第15衛星の軌道修正作業を悟られぬための作戦だったのではないか?
今や、我が軍は戦艦5隻、長射程ビーム砲を搭載した巡航艦が7隻、駆逐艦が30隻となっている。
一方の敵は、戦艦はゼロ、巡航艦17隻、駆逐艦47隻まで減っている。
航空兵力は、我々の新型航宙攻撃機A-1170はすでに300機を超えた。一方で敵は、航宙機の母艦としての役割を果たす戦艦がないため、すでに200機程度の航宙機運用をするのがやっとの状態。戦力差はほぼ互角。あとひと月もすれば、我々が圧倒できるところまで来ていた。
そんな最中でのこの第15衛星落下作戦。当然だが、こんなものが地上に落ちれば、大変なことになる。
大陸すぐ横に落ちた第15衛星は、高さ数キロの大津波を起こす。落下地点近くでは、溶岩のように溶けた岩による地殻津波も起こるとされる。
サウゼリア大陸には、20億人もの人々が住んでいる。が、この衛星落下でその90パーセントが死に至る。
他の大陸でも、沿岸部で大きな被害が起こる。おそらくそれだけでも死者は億を超えるだろう。
90億を超える我が地球の大多数が死に、その衛星落下で引き起こされる気象変動でさらに多くの餓死者、病死者が出る。地上は、地獄の様相に変わり果てる。
これはもうカールゼン共和国の独立戦争などではない。殲滅戦だ。奴らは、我々地球を滅ぼそうというのだ。私の家族のみならず、地球にいるさらに多くの人を虐殺しようというのか?
だが、その時は地球連合側も報復するだろう。地球軌道に近い衛星に核エンジンを搭載して軌道を変え、月に落下させる。テラフォーミングされたばかりの脆弱な星に住む9億の人類など、1発の衛星落下で全滅は免れない。
もはやこの段階で、目的の失われた戦争となってしまった。人類大量虐殺の歴史として刻まれるだけの戦争と化すことは間違いない。いや、場合によっては、その歴史を残す人類が死滅してしまうかもしれない。
当然、総司令部より全艦隊に出撃命令が出る。直径3キロの第15衛星の軌道変更せよ、というのがその命令だ。今から向かって衛星側面に肉薄し、対艦ミサイルとビームを撃ち込めば軌道をそらすことができ、落下は免れそうだ。
我が地球連合艦隊が衛星軌道上に集結する。戦艦5隻、巡航艦7隻、駆逐艦30隻、持てる全ての艦艇を発進させる。目標は、落下する第15衛星。
一方で、敵も黙ってはいない。あちらも巡航艦17隻、駆逐艦47隻と、全軍を出撃させてきた。
たった一つの石っころを巡って、宇宙での最後の総力戦が展開される。だが、我々の勝利条件は果てしなく厳しい。戦艦がいないとはいえ、我々よりも数で勝る艦隊を突破して、その先にある巨大な小惑星に肉薄して、軌道を変える。
しかも、今から7時間以内に軌道を変えないと間に合わないという。それより遅れれば、我々の火力では軌道変更は不可能となる。
それ以外にも我々には、重大な問題がある。
それは「艦隊戦ができない」ということだ。
軌道変更には対艦ミサイルとビームが要る。だが艦隊戦でビームとミサイルを撃ち尽くしてしまえば、軌道変更に必要なエネルギーが足りなくなってしまう。
迫り来る敵の艦隊を沈め、その後に衛星の軌道を変えることなど、とてもできない
そこで、敵艦隊を300機のA-1170だけで叩くことになった。
これなら、軌道変更のビームや対艦ミサイルを温存できる。しかし、あちらには200機のFog-112がいる。
爆雷搭載状態でも、Fog-112と同等の機動力を持つとされるA-1170とはいえ、ドッグファイトをしている余裕はない。それらを無視して、巡航艦や駆逐艦を攻撃せねばならない。
今回は前回のように、旧式機や長距離ミサイルによるおとりはない。あちらは真っ直ぐ、我々に向かってくる。
すぐに乱戦状態に陥った。我々は巡航艦隊に向かおうとするが、背後から機銃で狙われる。対航宙機ミサイルが放たれる。
チャフを撒いて交わすも、敵は我々航宙機だけを狙えばいい。が、我々はその奥にいる艦隊が目当てだ。
次々と落とされる味方の航宙機。私の機はなんとかかいくぐり、巡航艦の後ろについた。
爆雷2発を放ち、エンジンに火をつける。沈める必要はない。とにかく、敵を足止めできればそれでいい。限られた爆雷で、足止めできるだけ足止めする。
私はなんとか2隻の巡航艦、1隻に駆逐艦のエンジンに当てた。
だが、他の機は撃墜されたか爆雷が外れたかで、私以外には4隻の巡航艦と、3隻の駆逐艦を足止めできただけに過ぎない。
まだ57隻の艦艇が残っている。戦果としては、ほとんどないに等しい。
こうして、敵の艦隊は我々の艦隊を捉えた。こうなるともはや、艦隊戦にならざるを得ない。
そこで総司令部は、作戦を切り替えた。
駆逐艦10隻を、敵の足止めに使う。その間に戦艦5隻と巡航艦7隻、残りの駆逐艦20隻が向かう。
駆逐艦10隻が全滅したら、5隻の駆逐艦が次の足止めにまわる。こうして時間を稼いでいる間に、なんとしてでも衛星に肉薄し、攻撃を加える。「捨てがまり作戦」と名付けられたこの作戦。当然、足止めに向かう駆逐艦は全滅覚悟で時間稼ぎをする。それゆえに「捨てがまり」と呼ばれている。
すでに170機まで減ってしまったA-1170航宙機隊の脇を、その10隻の駆逐艦が横切る。
一隻の駆逐艦の窓から、一人の士官が敬礼するのが見える。私もそれに応え、敬礼する。彼らは決死の覚悟で、敵艦隊に突入する。
戦艦バトロクロス到着直前に、光が見えた。捨てがまり部隊である10隻が、敵艦隊との交戦に入ったことを示している。
バトロクロスに次々に着艦する。本来なら第2次攻撃の準備をするところだが、我々を回収したバトロクロスはフル加速に入るため、その加速度で艦内作業は不可能となる。
私はA-1120機内で、そのフル加速に耐える。大半が待機所に待機しているが、中には格納庫内に残ったままの者もおり、壁際でその加速に耐えている者もいる。
加速中に、艦内放送で先の駆逐艦10隻の状況が報告された。
「第1次捨てがまり隊、全滅!第2次隊、発進!」
ああ、あのとき私の機に敬礼を送ってくれた士官は、もはや死んでしまったのだろう。そして、続いて5隻の駆逐艦が向かう。
だが、それも数分で決着がついてしまう。相手はまだ50隻以上。10倍の兵力差では、勝負にならない。
しかし、なんとか衛星に肉薄できた。だが、すぐ後ろに敵の艦隊が追いついてくる。
それに構わず、我々はこの巨大な岩の塊の側面に、総攻撃を加えた。残った駆逐艦5隻は、時間稼ぎとして第3次捨てがまり隊として離脱していく。
「全砲門、全雷撃口開け!全艦、一斉砲撃!撃てーっ!」
直径3キロもある巨大な小惑星に、一斉に砲撃が加えられた。対艦ミサイルも全弾、放たれる。
だが、敵もいやらしいものを仕込んでいた。この第15衛星から、多量のミサイルが放たれたのだ。
おそらくは自動迎撃システムが仕込んであったのだろう。対航宙機機銃で応戦するが、2隻の巡航艦がそのミサイルを受けて撃沈する。
そこで、我々A-1170隊に発進命令が出た。敵の迎撃ミサイルを、撃墜せよと。
前方の格納庫ハッチが開く。カタパルトから次々に出撃するA-1170。
そして、私の機も発進する。
断続的にミサイルが飛んでくる。衛星の裏側からこちらに回り込んでくる対艦ミサイルを、私の機は捉えた。
機銃を放つ。1発撃墜。次のミサイルへと向かう。
が、数が多すぎる。この余りのいやらしい罠の存在に、私は思わず悪態をつく。
「くそっ!カールゼンのやつらめ!」
焦れば焦るほど、なかなか命中しない。一つ一つに集中して撃ち落とすしかないのだが、何発かがすり抜けて味方の艦艇に向かって飛んでいく。
巡航艦に命中するのが見えた。機関部前方に当たったらしく、大爆発を起こす。3連砲塔が2つ持っているが、その砲塔が内側からの爆発で吹き飛ぶ。。あの艦は、撃沈してしまった。
後方の戦艦にも数発当たるが、装甲の厚い部分に命中したらしく、なんとか攻撃を続行していた。
が、やがて、ビームもミサイルも撃ち尽くす。敵艦隊も迫ってくる。地球連合艦隊は、衛星からの離脱を開始した。
カールゼン軍も後退を始めた。彼らとて、我々の追撃でビームを撃ち尽くしてしまったようだ。衛星から離れたのを見届けて、まずは引くことにしたようだ。
私は、戦闘報告も兼ねて艦橋に向かう。あの衛星の軌道がどうなったのかも知りたかった。
が、そこでは愕然とする結果を聞く羽目になった。
「ダメです。衝突位置が10キロほど西にずれただけです。残念ですが、軌道修正に失敗しました。」
肩の力を落とすその士官。艦長はその士官の肩をたたく。だが、艦長としてもかけるべき言葉が見当たらない。
が、事実を公表しないわけにはいかない。艦内放送で、あの衛星の地球落下が抑えられなかったことを知らせる義務がある。艦長が、艦内マイクを取ろうとした。
と、そのときだった。
「レーダーに感!急速接近中の艦影あり!数、およそ10!」
「なんだと?10隻?大きさは。」
「レーダー上では20メートル程度の大きさなのですが……」
「ならば、航宙機ではないのか?」
「いえ、速度が速すぎます!航宙機のエンジンで、これほどの速度は出せないはずです!急速接近中!本艦右舷を通過します!」
私は右側を見た。そこには、驚くべきものが通り過ぎる。
灰色の、真四角な船体。後方が幅広くなっており、その後ろにはエンジンの噴出口らしきものが見える。
そんなものが3、いや4隻見えた。我々を一旦追い越したのち、後退して我々の真横に並ぶ。
レーダー上では20メートルだと言っていたが、どう見ても戦艦クラスの大きさ。全長は300メートルを超える。上には艦橋らしきものがあり、艦のあちこちにはレーダー用のアンテナ、艦の側面には、爆雷発射口らしきものも見える。明らかにこれは、戦闘艦だ。
が、不思議なことに砲台が一つも見えない。強いて言うなら、先端に一つ、大きな穴が空いていることだけだまさかと思うが、砲はあれだけか?
艦の先端には、見たことのない文字が書かれている。窓は艦橋付近にしか見当たらず、あとはただ灰色の壁のような船体しか見えない。これは、明らかに不明艦だ。本来ならば攻撃するべきところだが、こちらはビームもミサイルも撃ち尽くしている。
が、その艦隊から、通信が出ていることが判明する。
「謎の艦艇より通信が来ています!」
「通信だと?」
「暗号化なしのアナログ通信で、複数の周波数で流しています!」
「流してみろ。」
あの灰色の謎の艦隊から流れている通信が、艦橋内に流される。
「……したい。もしこの放送を受信していたら、返答願いたい。繰り返す。我々は、地球082遠征艦隊所属、駆逐艦1332号艦。現在、あなた方へ接近中の小惑星を撃ち落とす方策について提案があるため、そちらに使者を派遣したい。もしこの放送を受信していたら、返答願いたい。繰り返す……」
同じ内容を繰り返し流している。だが、小惑星を撃ち落とす?アース082?なんなのだ、この艦隊は。そこで、通信士が返答をする。
「こちら、地球連合軍総旗艦、戦艦バトロクロス!貴艦隊の使者の受け入れを了承する。」
「了解した。ただいまより、こちらから白い機体を向かわせる。受け入れ願いたい!」
どうやら、白い色の航宙機が飛んでくるらしい。そこで、バトロクロスの格納庫に受け入れることになった。
窓の外をいていると、ちょうど戦艦バトロクロスの真横にいる艦の上面の扉が開くのが見える。
そこから、白い色の機体が出てきた。角ばっており、上面には大きなアンテナがついている。どういても哨戒用途の機体だろう。そんな機体が、ゆっくりとバトロクロスの正面にやってくる。
バトロクロスのハッチが開く。その中に、その白い航宙機が入り込んできた。
私は格納庫に向かって走る。すでに銃を持った兵が何人も待機している。私も拳銃を持ち、扉の前で構える。
ハッチが閉じられて、格納庫内が加圧される。空気が満たされて、我々は扉をあけて一斉に入っていく。
そしてその白い機体の周囲をぐるりと囲む。
ちょうど私の前あたりで、ハッチが開く。こんなハッチのついた航宙機など、見たことがない。一体これは、どこの機体だ?
緊張が走る中、中からある人物が降りてくる。
青い色の軍服のようなものを着た人物。だが、背は低く、髪は長く、スカートを履いている。どこをどう見ても、丸っこくて愛嬌のある顔をした娘が現れた。